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第6話鉄の採掘に行こう
「ごめんなさい、私はこれから仕事が控えていて…。よろしければ明日、一緒に採掘行きませんか?私も鉄が欲しいと思っているところなのです」
プリマヴェーラはギルドを出た後、俺にそう語りかけてきた。
「鉄が欲しい」なんて嘘だろう。パン屋さんが鉄の塊を入手してどうするのだろうか。俺のことが心配で打診してきたのだろう。
「ありがとう、でも心配は不要だよ。俺、これでも知識だけは潤沢だから」
「知識が潤沢?」
「ではまた明日!今日はギルドを紹介してくれてありがとう!!」
引き留めようとするプリマヴェーラの声を聞く前に、俺はスラリスを抱えて走り出した。
「アウトー…??っていうの、嫌な奴だったな。あのギルド嬢だよ。おいら、水を吐くのずっと我慢してた。なんでプリマヴェーラはあんなやつをおいらたちに紹介したんだろうなー」
「こらこら。人に向かって水を吐かないようにね。」
「お前はあいつのこと怒ってないのか?」
「ああ、怒ってないよ。だって、彼女の周囲の人を見たらわかるよ。誰もが彼女をかばっていたから」
アウトーメルの言動にあきれ、やれやれ仕方がないというかばい方をする人は、彼女の周囲には一人もいなかった。それが答えである。
「もっとアウトーメルとお話をして、互いをもっと理解すれば仲良くなれるはずだよ。スラリスもね」
「え…?あいつとおいらが?なんか想像できないなあ」
むむっと考えこむスラリス。しかししばらくすると俺の顔をじっと見る。
「お前、すごい奴だな」
「急に俺の話にとんだな」
「違う、違う。おいらは滅多に怒らない自負があるんだ。でもな、あいつのあの人を見下した態度はどうしてもはらわたが煮えくり返りそうだった。でもお前は全く気にした素振りをしなかっただろ」
短い手で俺を指さす。
「いいか?人間何が難しいって、怒りを抑えることだ。怒ることは簡単だ。あとで愚痴や悪口を言うことも簡単だ。でもな、相手の態度を個性と受け入れ、引きずることをしない。これは簡単なようですっげえ難しいことなんだ」
「俺は…彼女のことをあらかじめちょっと知っていたから」
「それでも難しいものは難しいんだ!」
スラリスは俺の腕から飛び出て、フンッ!と言いながら前をとことこ歩き始めた。
「俺は相手の良いところをすぐに見つけられるスラリスのこと大好きだよ?」
スラリスはちょっと赤面する。
「そんなおいらでもアウトーメルの良いところ、さっぱりだったがな!」
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さて、どうして今回鉄の採取に踏み切ったかというと、現段階で強引に採取できるうえに、各種道具を強化するうえで鉄が必要不可欠になるためだ。
ゲームをプレイしていた時、野菜の採取のみでは資金の限界を感じていた俺は、そもそも使用する農具をアップグレードすれば作物のレベルも大量生産も可能であると気が付いたのだ。
そこで自分のようなレベルでもなんとか採取できるスポットがないかを身を挺して調べ、なんと見つけたのだ。俺はその試行錯誤の記憶により、今大いに助けられるというわけなのだ。
「お前が前に言ってたつえー武器を持ってきたのか?」
「ダーインスレイヴはカバンの中にしまっておくことにした」
一振りでMPを全消費する魔剣である。それに加え、刃渡りはナイフよりも短いと来た。熟練ゲーマーはこの武器を使いボス級の魔物の猛攻を避け、ふところに入って一撃をお見舞いしていたが、俺にそこまでの技術はない。
もはや万が一のためのお守り状態である。
「この木のロッドで雑魚はしのいでいく」
鉄採取スポットにたどり着くまでに、低レベル帯のモンスターをさばいていく必要がある。
現在俺のレベルは1。まずは無理をせず手ごろなスライムを火の玉で攻撃していく。
「すげえ!おまえ魔法使えたんだな!」
「一応剣とかも使えることは使えるんだけどね。でも、素人が振り回してもどうなのかなあって…。」
火の玉を正確に当てていく俺にスラリスはテンションが上がっていった。
ところでスラリス、今、君の同族攻撃してるのだけど、群れを出たから同族意識はないのか…?
スラリスも次第に水鉄砲を使っては敵の攻撃をするようになっていった。パーティを組んでいるという設定なのか、経験値がみるみると入ってきている気がする。
そう。「気がする」だけなのである。
この世界はゲーム世界であってゲーム世界ではない。ステータスオープンと叫んで見られるような世界ではないのだ。俺がなぜ自分がレベル1と分かったかというと、主人公のスタートがレベル1だったからだ。
だったらどうやって自分のレベルを測るか?青いスライムはゲームでは大体五レベル。これを難なく倒せるようになれば自分は五レベル以上、というようにしか測れない。
「慎重に、慎重にいこう。決して焦らずに。焦れば死ぬから」
けれど急がなければ資金は集まらない。
一歩ずつ着実に進めようとしている俺たちをこっそりと様子をうかがう視線があることにまだ気が付いていなかった。
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目的地にたどり着くまでに、鹿が生息するエリアを抜ける必要がある。ぬかるんだエリアで、なかなか視界が悪い。
鹿の魔物はレベルが40である反面臆病だ。こちらが叩けば相手が誰であろうとレベル差構わず一斉に群れで襲ってくるが、何もしなければ襲ってはこない。いわゆるノンアクティブモンスターである。
手前に大量に生息しているスライムを狩って調子に乗ったプレイヤーが、レベル差を確認せず鹿に攻撃をし、痛い目を見るのがお約束となっている。
鹿の魔物の群生地を潜り抜け、この時期では眠りについているレッドドラゴンの住処を超えた先に、鉄の採掘場がある。この世界の採掘スポットは岩が光っており、そこをハンマーでたたくと取れるという寸法だ。
ねえ?あの鹿に水をかけていいか?いいわけないからお願いだから絶対なにもしないで。
俺たちはこそこそと会話を交わし、鹿の群生地のエリアを通過する。木々に囲まれ、見通しが悪い場所だ。万が一鹿たちが現実世界だとアクティブモンスターにされている可能性を考え、隠れながら進んでいったのだが、俺が途中枝をぱきっと踏んだ時、一斉に鹿がこちらをみたときは生きた心地がしなかった。
木の間から差し込む光が強くなり、群生地のエリアは終わりを告げた。
すると足元の触感が先ほどのぬかるんだ土と草から変わり、一気に乾燥した土地に代わる。
ゲームではこのように、エリアがはっきりと分かれている為に突然地形が変わることは珍しくない。
すると足を二歩、三歩と進めた先、突然地響きがし始めた。
「な、なに!?」
スラリスは初めての大きな音に震え始める。
「これ、レッドドラゴンの寝息だ」
レッドドラゴンはレベル80に到達している最強クラスの魔物だ。
魔王や魔王幹部を討伐する際の武器を調達するために、素材集めとして狩ることがおおい。
しかし、序盤のエリアからここは非常に近いところに存在しており、大抵は試しに挑んでは瞬殺されて終わる。
ゲーム終盤となり、序盤に行けるにもかかわらず倒せずじまいでネックだったその場所に再び挑み、討伐したときの感動は今でも忘れられない。
この寝息は俺たちのような、|初心者《ルーキー》への警告として、ゲームでは設定されていた。
「でも、起こしさえしなければ、他の魔物が寄ってこないから、悪くないエリアなんだよな」
俺とスラリスはささっと通り抜ける。寝息がこれほど大きいのだ。大抵のことでは起きるまい。
その途中、今度は突風が吹く。このエリアは遮蔽物が少ないため、突然風も起こりやすいのだ。
「あ・・・!!」
かぶっていた麦わら帽子が飛んで行った。それもレッドドラゴンの眠っているそばに。
「危なかった、帽子がレッドドラゴンにかすっていたら、そんな気はみじんもないのに攻撃判定を受けていた可能性があったな。」
帽子の心配より命の心配の方が上である。取りに行くか?という顔をするスラリスに対し、首を横に振る。
帽子よりももっと大事なものがある。今は命が最優先だ。
しばらく畑仕事は日光との戦いにはなるが、危険を冒して取りに行くほどではない。
本物のドラゴンを、こうまじまじと見られる機会もそうない。爪の一つだけでも、俺の足の長さくらいはあるんじゃないだろうか。あれで攻撃されたら、ひとたまりもない。
そして赤い皮膚。色のわりにあまり熱さは感じない。しかしその質感から皮膚の分厚さが伝わってくる。
レベルと装備をそろえても、こんなのとは戦いたくないわね。
いやな想像を振り払いつつ、足を進める。
そうしてレッドドラゴンの住処のそばを通り抜け、しばらく進んでいくと
「あった」
鉄の採掘場を見つけた!
「よし、ハンマーでさっそく採掘しよう」
俺は急いでハンマーを装備し、小気味よくたたき始める。
かつん、かつんと音が周囲に響く。
ゲームでもここでの採掘が原因で目を覚ましたことは一度もない。しかし、あまり長居をしたい場所でもない。
俺は急いでハンマーでたたき、スラリスはカバンに鉄を収納していく。何も言わずとも協力してくれる、スラリスは本当に気が利く子だ。
「よし、欲はかかず、一旦引こうか」
道具に必要な数、クエストに必要な数、足りないとちょっと不安なので上乗せした数。それ以上はやめておこう。バッグは魔法の加工をされており、現状15種までならどこまででも入るが、ケチなことをし始めるとシュトルムの家賃割り増しの時のような痛い目を見る。
スラリスも異を唱えず、帰る準備に入ってくれる。
刹那、行きの道中の方向から、|甲《・》|高《・》|い《・》|女《・》|性《・》|の《・》|悲《・》|鳴《・》|が《・》|聞《・》|こ《・》|え《・》|た《・》。
「この悲鳴、聞き覚えがあるぞ?」
俺にも聞き覚えがある。この声は、アウトーメルのものだ。
その方向にはレッドドラゴンがいる。
頭では分かっているはずなのに、俺はカバンを抱え、急いで声の方向へ走って行った。
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