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第7話夕のアウトーメル

 人が嫌いだ。何を考えているか分からない。  私を人嫌いで男嫌いにさせたあの日。そうあの日も憎いくらい夕日がきれいだった。  私の名前はアウトーメル。昔から人が嫌いだったか?いいえ、そんなことはなかった。  昔はとても人懐こかったってプリマヴェーラも言っていた。私もそう思う。  お父さんとお母さんがいた。そして、街で最も美しいとたたえられる自慢の姉もいたの。    私と異なり髪はとても長く、品もあった。  お父さんはギルドの長をやっていて、泊まり込みの日々も珍しくなかった。  家では母と私と姉と、女三人。子供が娘だけだと父親は気まずいことが多いと聞くのだけれど、だからといって何かしてあげられるわけでもない。  父はよく、自分だけのけ者にされている状況に、苦笑いをしていた。それもあって帰宅が遅いことも多いのだろう。  そんな些細なことも悲劇の原因の一つだったのかもね。  姉はたおやかで、頼まれれば断れない優しさがあったの。今思えばプリマヴェーラとそっくりだね。自分の身銭を切ってでも人を助ける。  だから姉さんと一緒に歩くとき、街の人たちは笑って私にも手を振ってくれた。  荷車を引いている人がいれば、手伝ってあげる。  迷子になってる子がいれば、手を引いてあげる。    「なんで姉さんはそんなにみんなに優しくできるの?」私は聞いた。  ただ微笑みだけが帰ってきた。  10歳の頃だったね。同い年の赤い髪の男の子に片思いしたの。  綺麗な服を着て、周囲は大人の人に囲まれていた。一切引けをとらず、彼は大人たちに指示を出していた。  年下に使われることに誰も疑問を持たず、その姿がとても格好よく映った。  ああ、この片思いは過去の話で、今は全然何とも思ってないから。  私は肌を見せない男性の方がタイプだから、今のような彼の前ボタンをはだけるスタイルに幻滅してしまったの。すると他のこともいろいろ気になってきちゃって。あの性格とか。  女性は些細な欠点をきっかけにして勝手に恋を終わらせる生き物だから。残酷な生き物なのよ。  話を戻すわね。  恋に浮かれていた私は、どうしたら彼が振り向いてくれるか、ずっと考えていたの。頭の中は彼と付き合えた時のことでいっぱいだった。  告白する勇気もなかった。私が魅力的になれば相手から来てくれるって信じていたからね。今思えば馬鹿。恋に受け身になっている人間に、掴めるものなんて何もないのに。  そして、普段頑張っている姉さんにも恋人が出来たら、なんて思ったの。  だって、私は片思いしてるだけでも毎日こんなに幸せだもの。姉さんにも好きな人がいたら、それはとても幸せなことでしょう?  そう。私はすごくバカだった。帰宅した姉さんの顔が曇っていることにまったく気が付かないなんて。浮かれている私は、他の人の顔を観察するということをおろそかにしていたの。  あの時、あの時なにがあったかって、ちゃんと聞いていれば。後悔だらけの人生だ。    夕日の赤色は、舗装された道を美しく彩っていた。  今日は私は一人、街に出かけたの。今日は姉さんの誕生日。  おいしいケーキを買って、みんなで食べるの。父さんにははやく帰ってきてねと伝えてある。    母さんは姉さんのためにこっそり麦わら帽子を編んでいるんだって。昨日初めて知って見せてもらったら、嫉妬するぐらい可愛かった。でも、なんで私にも作ってくれないの?って私、怒っちゃった。だから、母さんとは今朝からずっと話が出来てないの。  でも、パーティが始まれば、言葉を交わさずとも絶対仲直りできるから!  さあ、ケーキ屋さんに急がないと! 「ねえ」  その道中、私は一人の男性に声をかけられたの。姉さんよりも年齢は上かな?  無視する理由はなかったから、笑顔でしゃべり返したの。 「君は…あの人の妹かい?」  あの人。姉のことに違いない。私だけで歩いていると「さすが、あの人の妹だね」と褒められることが多いのだ。  「うん!そうだよ!」 「はは、そうか、会えてうれしいよ」  男の人はヒヒ、と変わった笑い方をした。  そういえば私も、家で赤い髪のあの男の子のことを考えていると、母さんから変わった笑い方をしてるねって言われたことがあった。 「もしかしてお兄さんは、姉さんのお友達?」 「うん、ヒヒ、そうだね。今はまだね。」  そのやや独特な言い回にピンときた!分かった!この人、姉さんに恋をしてる!  やはり女の子たるもの、男性からアタックされたほうが嬉しい。なら私が姉さんが告白を受けられるようにお手伝いしなきゃ  男の人は私の家を尋ねてきた。私は正直に答えた。そして、父さんが帰りが遅くなる可能性が高いことも伝えた。  だって、男親がいない方が男性としては助かるでしょう?だから、応援したいと思って、私の知ってる情報はすべて伝えたの!そう。  |伝《・》|え《・》|て《・》|し《・》|ま《・》|っ《・》|た《・》|。《・》  男の人と別れ、私は姉さんのためのケーキを受け取りに行く。  ケーキを受け取りに行く間に悲しいことを考えながら受け取る人間って、はたしているだろうか?    ええ。その時の私は周囲が全く見えてなかったの。ただ、甘くておいしいケーキと、それを家族で分け合うことに浮かれていた。  だから全く想像できてなかったの。愚かな私は。  ケーキの重みを両腕で受け止め、崩れないように注意しつつ、私は姉さんの笑顔を想像しながら帰路に向かう。  サプライズに姉さんはどんな反応をしてくれるんだろう?  私のケーキの持ち帰りがパーティの始まりって母さんとあらかじめ相談していたの。二人で悪だくみをするようで本当に、心の底から、幸せだった。  家のドアを開けた。  家族が二人、血の海に横たわっていた。  姉さんは母さんの遺体の前に、かばうように倒れていた。  私は大事に抱えていたケーキを下に落とし、呆然とした。  母さんの遺体の近くには、麦わら帽子があった。  『引用 プリエスティラ新農場物語 懺悔の日記 アウトーメル恋愛イベント4』  ------------------------------------------------------------------ 「なんで、あんなに忠告したのに!本当馬鹿じゃないの!!」  麦わら帽子をかぶったあの少年、ルナリオのことをずっと尾行していた。  あの帽子は私の母が姉のために作った帽子だった。そもそもあの家は、私が幼いころ住んでいた家だったのだ。質のいいレンガにこだわった当時の父は、薄給だったにも関わらず、内装にこだわった。「そんな材質じゃなくて、もっと広さにお金を費やしたらよかったのに」とは母はぷりぷりと文句を言っていた。  ストーカーに家族を殺された事件以降、私と父はギルドの隣に居を移すことにした。家具も、必要なものは持ち運んだ。けれど、あの帽子はダメだった。あの帽子を見ると、思い出してしまう。  母と悪戯を隠すように誕生日会のことを計画しあった、あの幸せな時間を。目に入るたびに涙がこみ上げる。  だから今日、ルナリオがその麦わら帽子をかぶって現れたときは、心臓が止まりそうだった。  姉さんは人を助けていたのに、私は心無い言葉で人を死に追いやる。  だって、まさか反骨精神で本当に行くとは思わないじゃない!!!  スライムを倒し、奥へ進む一人と一匹。鹿の群生地にためらいなく進んだ時は、どうしようかと思った。何も知らない冒険者は、あの鹿で痛い目を見ることが多いのだ。  しかし、彼は知り尽くしているかのように鹿の脇を通り抜け、あろうことかドラゴンの住処に足を進めていったのだ。 「大丈夫、あの子は私が心配するまでもなく、ちゃんと確信があったうえで鉄を取りに行くと言ったんだ」  そのことに気が付き、私はほっとした。よかった、あんなに止めたのに怪我を負ったら、私はまた…。  ドラゴンの特性も知っているようで、静かに歩を進めているのを確認した。  あの調子だったらへまはしないだろう。私はそう思い、踵を返そうとしたその時ー  ふわっと、風が。  ルナリオがかぶっていた麦わら帽子は風の流れに沿い、眠りにつくドラゴンの頬の数センチ隣におちた。 (ダメ、取りにいっては。帽子よりも、命の方が大事だから。)  私は手汗がすごいことになってるとも気づかず、緊張しながら動向を見守る。  ルナリオはスライムとなにやら会話したのち、奥に進むことを決めたようだった。  ああ、よかった。  よかった。うん、よかった。これでいい。私はここから立ち去って…。  そんなことを思ったのち、私は足を止めた。  ふと自分とルナリオの関係が気になったのだ。 (初対面、最悪だよね?)  私が一方的に罵倒したような気がする。だって、あんな危ないクエストと得体のしれないクエストを取ろうとしたんだもん。私は語彙が幼いころでずっと止まっているから、ああやって言うことしかできなかった。 (嫌われてるよね?私。でもそれはそうだよ。・・・だけど、もし、もしもだけど)  アウトーメルは振り返ってドラゴンを見る。  あの麦わら帽子を拾って。そしてあの子に帽子を返すときにあの家は私の昔の家だったっていう話をすれば、話がはずんで。その時にひどい初対面でごめんねってあやまって、そうすれば。  今度こそ仲直りできるかな。

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