13 / 66
第13話怪我人が文句を言ってます
「ああん?俺があの時、殺されていようが、おめーらには何の関係もねえだろうが」
刺客から逃れた後、俺とスラリス、騎士、シュトルムの四名はまだ引っ越し前の俺のボロ屋に戻っていた。シュトルムはまだ安静が必要なため、ベッドに横になってもらっている。そんなシュトルムを囲うように俺たちは座っていた。
刺客とは言え、道のど真ん中に死体が転がっている状況はさすがによくないためプリマヴェーラはギルドまで直行し、アウトーメルに話を通しに行った。しかし俺たちはその場にとどまるわけにもいかず、結果この家に辿り着くまでにどうしても死体の山を見ざるを得なかった。
黒い装束が地面に転がっている中、思ったよりも血が多くないことに気が付いた。騎士は俺の願い通りにみねうちにしてくれていたようで、血が飛び散る凄惨な現場というわけではなかったのは救いだ。しかし、人が泡を吹いて、見たこともない色の液を口から出して倒れている光景は、ただただ地獄の光景だった。
騎士は急いで俺の目をそっと手でふさぎ、誘導してくれたが、あんな凄惨な光景は初めて見たものだったため、正直今も吐き気をこらえている。
騎士は俺を気遣い、背中をさすろうとしたものの、さすがにそれは相手にやっていい身体接触の範疇を超えていると判断し、心配そうに俺に毛布を掛けていた。
俺の代わりにスラリスがシュトルムに事情を聞いてくれている。しかし、頑固なシュトルムのことだ、俺たちに助けを求める真似は避けたいために、糾弾をかわしている。
一向に話が進展しない二名のやりとりにしびれを切らし、俺は吐き気をこらえスラリスの援護射撃をする。
「いいや、関係はある。シュトルム、うちの家賃を一か月おきに取りに来るだろ?それが追手に見られて、俺も何かしら疑われる可能性だってあるだろ」
シュトルム側のその追われる事情を何か知っていれば、この先万が一巻き込まれても結果は異なってくるはずだ。
そう、シュトルムは俺たちを巻き込むことを懸念しているのだろうが、すでにうちの騎士が相手をボコボコにした後なのだ。もう十分巻き込まれている。
「前にあなたは兵士を引き連れながらこの家に突入してきた。けれどその兵士が今はいなかった。そのような状況で刺客に狙われるっていうことは兵士が手引きしたのか、それとも兵士のシフトを知っている誰かがあなたの隙を突いたかのどちらかになるよね。つまり、シュトルム。あなたの実家自体、|誰《・》|が《・》|敵《・》|か《・》|わ《・》|か《・》|ら《・》|な《・》|い《・》|状《・》|況《・》といえるんじゃないか?」
大体当たっているのか、シュトルムは無言を通す。沈黙は肯定と受け取るぞ。
そうして話していると、プリマヴェーラが戻ってきた。俺たちが大体何の話をしているのかは察しが付くようで、シュトルムのほうに真剣な顔をして向き合う。彼女は俺の言いたいこともわかってますというように右手で軽く制止し、言葉を紡ぐ。
「シュトルム。この家に滞在してはどうですか?」
前言撤回。全然分かってなかった。
シュトルムも今の発言にはあ!?という反応をし、俺も咄嗟に彼女を止める。
「ちょちょちょ、プリマヴェーラ?さすがにそこまでは俺も言ってない。ほら、冒険者ギルドのほうでこう、身を隠せる安全な宿泊場所を用意してもらうっていう方向に俺は持っていきたかっただけで」
「冒険者ギルドにそんな都合のいい場所、ないと思います。あるならアウトーメルは私に雑談でしゃべってるはずだから。それに」
ここは街はずれで、隠れるのには適している。なによりとても強い騎士もいる。
「確かにそう考えると、この場所しか選択肢はないのかな」
狭いものの幸い部屋は分かれており、ベッドも複数ある。新築の段階でよそ様と殴り合うのは勘弁だが、まだ引っ越し前のため多少汚れるのは問題もないような気がしてきた。
納得しかける俺とは裏腹に、騎士は首を横に振る。
え?と疑問に思う俺に、騎士は指をすっとこちらに向ける。
「俺の護衛で手いっぱいだから、ほかの不安要素は極力排除したい…ってこと?」
そんなに護衛で迷惑かけていただろうか俺は。そもそもこの騎士は一体何から俺を守っているのか。
主人公が頻繁に命を落とすという設定を知っているわけでもあるまいし、相変わらず不思議だ。
「なら、俺の護衛の延長戦で、ついでにシュトルムをっていうのはどうでしょうか?」
騎士は顔を背ける。考えているようだ。やがてゆっくり首を縦に振る。嫌々だが、しゃらくさいからもう何でもいいやとでも言いたげだ。
「おいらもにぎやかになるのはとっても嬉しいぞ!」
スラリスも嬉しそうにしている。こちらの陣営はそうして話がまとまっただが、一方ただ一人だけ納得できていない人物がいた。
「おい、当事者を抜きに勝手に話をとんとん進めて言ってんじゃねえよおめえら」
シュトルムは体をぷるぷる震わせ、抗議の声を上げた。
プリマヴェーラはやや顔を不機嫌にさせ、ポスっとシュトルムの横たわっているベッドに腰を掛ける。
「レイン兄さんに告げ口するわよ?」
シュトルムはうっ…とひるむ。
俺はゲームではレインルートを進めていたが、レインのイベントを回収する際にプリマヴェーラは頻繁に出てきた反面、シュトルムはそれほど出てこなかった。故にここの兄弟間の関係については最低限の情報しか知り得ていない。
レインルートはレインルートで個人の問題に向き合うので必死だったのだ。けれど、シュトルムの反応を見るに、どうやら距離が離れてもレインには思うところがあるらしい。しかしレインに弱いという設定は今初めて知った。
「ちっ、もう体の大きい傷は治ったんだ。てめえらの世話になる意味がねえだろうが」
「あら?でしたら私を相手に、動けるようになったら帰ることを認めます」
プリマヴェーラはシュトルムの頭を掴み、枕に押し付ける。
あ、それ俺もやられた…。レッドドラゴンでいろいろ傷を負ったときに…。
俺の時は加減をしてくれていたのか指に力は入れないでいてくれたけれど、シュトルムに対しては明らかに指が強張っている。あれは痛い。
俺とスラリスはお互い抱き着き、目の前に広がる恐怖の光景から互いを励ます。絶対プリマヴェーラは怒らせないようにしよう!そうだな、絶対怒らせないようにしような!!
しばらくしたらシュトルムは静かになった。体の痛みもあり、眠りについたようだ。眠りというか気絶ではないだろうか。プリマヴェーラは仕事は果たしたとでもいうように、今日のところは帰るそうだ。その際に、迷惑料と看病代にとパンを沢山置いて行ってくれた。
「ごめんスラリス、騎士さん。本当は今日とても美味しい料理を作ってあげたかったけど、さすがに疲れた」
パン、いただこうか。頂き物を三人分に分けていく。騎士は受け取るや否やペコっと頭を下げ、別室に消えていった。
「明日から一人ふえるのかあ。でも、あいつ一応いいところの出だよね。普段からおいしい料理ばかり食べている男と一緒に暮らせるのかな?」
「もっと品種増やして、喜ばせてやりたいな!」
心配が尽きない俺と対照的に、スラリスはパンのおいしさに能天気になっていた。
------------------------------------------------------------------------------------
騎士は、一人別室にいた。
家の周辺に脅威は確認できなかった。あまりルナリオから離れたくはないが、しばらくは問題ないだろう。
旧型の心もとない鍵であったため、意味がないと判断し施錠はしなかった。カーテンは閉め、一応周囲から目に入らないように気を配る。
そうして兜を脱ぐ。特殊な加工をしており、軽量化も視界拡張もしている兜ではあった。しかし、脱いだ時には開放感がある。
本日は更待月。満月ほどの明るさはなく、そのうえカーテンを閉めている状態だ。
だというのに、兜を脱いだ騎士のその髪は、きらきらと銀色に輝いていた。
ショートとはいえ、被り物をかぶっていたとは思えないほどサラサラな髪は、一束一束が繊細な作り物のように見える。紫紺の瞳は至上の宝石のように美しく、顔のパーツはまるで人形のような端正さを誇るが、そのまなざしからは強い意志を思わせる。
騎士はその兜を机の上に丁寧に置き、静かに椅子に座る。
訳があって着用しているだけで、好きで着用しているわけではない。
しかし、この鎧一式はすべて自分のためにこしらえてもらった特注品。騎士は自分を守るこの鎧と剣を、ほかの何より大切に扱っていた。
そして先ほどルナリオから分けられたパンをちぎり、口の中に放り込む。無言で咀嚼し、飲み込んではまたパンをちぎって口に入れる。彼にとって食事とは栄養補給でしかなかった。
隣室のリビングからルナリオとスライムが楽しそうにしゃべっている声が聞こえる。思わずふふ、と笑みがこぼれる。先ほどは疲れたといっていたのに、「明日はきゅうりの種をあの場所に撒こう!」というようにはしゃいでいるらしいその姿を扉越しに想像しては、自分もその楽しさのおすそ分けをしてもらっている気分だ。
いけない、気を引き締めないと。騎士は現在の状況を確認し始める。
|赤毛の男《シュトルム》。彼が一時的ではあるだろうが今日からこの家に住み着く。正直面白い状況ではない。
ルナリオとスライムと自分と。三名で暮らしていた時間は、騎士にとってはとても幸せな時間だった。そこに面倒ごとを持ち込む男が現れたのだ。自分の居場所が、取られそうで騎士は辛かった。
彼の周りには少しずつ人が集まってきた。スライム、桃色の少女、夕日のような少女、そして赤毛の男。
正直、自分とは異なって、引け目を感じず自然とルナリオに接することができる彼ら彼女らがうらやましかった。喋られない自分が何か意思表示をすると、ルナリオは一生懸命意図を読もうと、眉間にしわを寄せる。面倒なんてことは決して思わないだろうし、仮に思っても表には出さないが、毎日そうしてると疲れはするだろう。
兜をとって、もっとルナリオと話がしたい。けれど、それは出来なかった。それをすれば|彼《・》|は《・》|自《・》|分《・》|を《・》|拒《・》|絶《・》|す《・》|る《・》。今は、ただ一緒に時間を過ごし、信頼を勝ち取りたい。
騎士は再び扉に目をやる。自分のこの兜の下がどうなっているか、ルナリオも気になってはいるのだろう。けれど、以前スライムに言っていた発言を覚えている。「覗いたら、なんだか鶴になって飛んでいきそうだから」。
けれど、その発言は淡々としていた。僕は知っている。
|彼《・》|は《・》|本《・》|能《・》|的《・》|に《・》|、《・》|僕《・》|に《・》|深《・》|く《・》|接《・》|す《・》|る《・》|こ《・》|と《・》|を《・》|避《・》|け《・》|て《・》|い《・》|る《・》|事《・》|実《・》|を《・》|。《・》
スライムとのやりとりは楽しいのか、笑い声はまだ聞こえる。
顔を見られてはならない。けれども、本当は彼が自分と話をするためにこの扉を開いてくれることを心の底から期待していた。
朽ちていて、もろいはずのその扉は、今はただただ分厚い壁のように思えた。
ともだちにシェアしよう!

