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第14話野菜コンテストにでよう!
農家の朝は早い。
作物は朝に収穫したほうがおいしいのだ。出荷箱も基本、昼あたりに回収が入る。
現代人の俺は蛍光灯の明かりを使用していたため、体は夜型といえるだろう。しかし、この世界で暮らしていた主人公の体は朝方だったようで、今では難なく朝日とともに起床をする癖がついた。
俺は毎朝最終クエストの紙がちゃんと手元に残っているかを確認し、一日の支度を始める。畑作業は特に決まりはなく、取り掛かれる者から作業を始める。俺は今日は一番乗りで作業に入る。
前に採取した鉄は、農具のグレードアップとして大半を消費した。しかしおかげで消費MPが大幅に減り、一日に詰め込める作業の量が大きく増えた。もうすぐ、大幅な増収が見込める。俺は内心うっきうきだった。
「おい、なんだぁ?これは」
シュトルムは顔を引き攣らせながら鍬を握っている。なお、ほっかむりを強制的に付けさせてもらった。一応は追われている身なのだ。顔は隠してもらう必要がある。
「今日からきゅうりを撒くんだ。畝を作ってくれると助かる」
「じゃねえよ!なんで俺が畑なんか手伝わねえといけねえんだよ!!」
シュトルムはほっかむりのあごの下の結びをほどき、ぺしゃっと下にたたきつける。
「働かざる者食うべからずだろ?働け。そして頑張って俺の分の家賃も稼ぐんだ」
「おかしくないか?お前が俺に払う家賃を俺が稼ぐのか?なにかおかしくないか?」
ちっ、と舌打ちをしつつも、何もしないのは性に合わないのだろう。鍬をもってずかずか近づいてきた。
俺はほっかむりを拾い、もう一度結んであげようとした。しかし俺の身長は170センチ。俺から背の高いシュトルムに着けるのはとても大変なため、高身長の前でほっかむりをもってはねる悲しい構図になってしまった。
騎士はそんな俺を外野から見て哀れに思ったのか、ほっかむりを俺の手からするっととり、自分の代わりにシュトルムに着けてくれた。首を絞める勢いですごい力で結んでる。ひょっとして騎士は、こういうチャラい男のことが気に食わないのだろうか。俺からしても、こういう裏で女を殴ってそうな男は合わないんだ。おそらく良いところの出の騎士はこういう男はもっと駄目なんだろう。
「お前、雇用主ならちゃんと手綱握れよ…」
騎士のご乱心に死にかけたシュトルムは、青い顔をしながら俺に注意する。
「騎士さんはとても忠誠心が強いから、俺以外には雑な対応になるんだよ。仕方がない。」
「適当にしゃべってんじゃねえぞ。くそ、こんなところでしばらく暮らすのか俺は…!!」
俺が畑の基本を伝授し、シュトルムが畝を作り、騎士が種をまき、スラリスが水を撒く。綺麗な分担作業で、いつもよりも効率がいい。「俺が一番負担でけえだろうが!!」と背中を蹴られたりはした。知恵を伝授しきった俺はちょっと暇だったので、肥料ボックスを生成し、雑草をかたっぱしに詰め込んでいった。土にも体力があり、作物を育てることを休めるか、肥料かのどちらか一方でしか回復できない。人手が増えた今のうちに、前々からやりたかった作業をやっていく。
そうしてるうちに、日が暮れていった。さて、片づけに入ろうか。
騎士が倉庫に農具をしまいに行っている間、畑をぼーっと眺めているシュトルムに俺が気が付いた。
「どうした?意外と体力使うから疲れちゃったとか?」
「お前、気が付いたら俺にため口になってたよなあ。まあ・・いいけど」
シュトルムは自分たちが作業を終えたエリアを見て、何か思うところがあるのだろう。
彼からはまだ、どうして追われていたかなどの情報は聞けずじまいだ。心を固く閉ざしている。
今はこのスローライフとともに、その冷たい心を溶かしていきたい。
「畑作業、初めてだった?」
「ああ、そうだな。初めてだった」
いつもは圧のある話し方だというのに、今のシュトルムは珍しく穏やかだ。
いつも食い物と言えばシェフが作ったものが目の前に並べられるだけだからなあ、と溢す。植えたものだけではなく、本日は収穫できた野菜も多い。そんな野菜を見て、生産者側に立つということが思ったより刺激的だったのだろう。
「そうだ、来週末、野菜コンテストが開かれるんだよ!」
「野菜コンテスト?ああ、なんか街の奴らがたまに騒いでるやつか」
「そう、それに出よう!札に名前を書いて野菜を出すだけでいいんだ!!」
野菜コンテスト。それは、農場ゲームでお約束のイベントの一つである。その名の通り、みなが自慢の野菜を持ち寄り、品質を争うというものだ。優勝者には名誉と、レアアイテムと、お金がもらえることが多い。
コンテストの日から数日もすれば約束の家賃回収日の30日とはなるものの、今回分をしのげる家賃は手元に残してあるので、ここは思い切って手を広げて参加できるものは積極的に参加していこう。
あれ?家賃を回収する役割の御仁が目の前にいるけれど、どうすればいいのだろうか。まあ代理の人がやってくるだろうからいいか。
思考が脱線したが、コンテストに思考を戻す。
「あなたの名前は書けないから、俺の名前で提出にはなっちゃうけれどね。」
身を隠す男が野菜コンテストに出場していたら、それはそれで面白いが。
「街の人たちもたくさん出場するんだよ。プリマヴェーラとか、毎朝ランニングしてる変なおじさんとか」
「待て、そいつら本業は農家じゃあねえよな。いつ野菜を育ててるんだ?」
「いつも大盛り上がりで、滅多にもらえないレシピももらえるらしい。最低でも三位以内には入りたいよね」
「待て待て、なんで農家でもない奴らが野菜の品質でそんな盛り上がれるんだ?わりと一般人的にはもっと他にもっと面白いことあるだろうが!?」
もうそこは、農場ゲームのお約束としか言えないのである。おそらく、植木鉢か何かでみんなこっそり育ててるのだろう。本業としては負けられない戦いがここにはある。丁度コンテストの当日にはきゅうりが実るものの、きゅうりの作物レベルはまだ最低のレベル1だ。種を採取してこっそりレベルを上げておいたニンジンを当日は提出したい。
「いくぞ、シュトルム。目指すは優勝…!!」
「はあ…もう勝手にしろよ…」
そうしてコンテストの当日がやってきた。今日にいたるまで、冒険者ギルドに顔を出すとアウトーメルが〇日後の野菜コンテストとっても楽しみ!と会うたびに言ってくるので、よっぽどテンションが上がっているように思う。
すでに今日提出予定のものは収穫しており、今は会場に持っていく最中だ。
スラリスもうきうきでついてきており、騎士はコンテスト自体にはあまり興味がなさそうではあるものの、ついてきてくれている。
一番乗り気ではなかったはずのシュトルムはというと。
勝ち負けが出る場では、何であろうと燃えるのだろう。あれだけ吠えていたにもかかわらず、出発前には「準備終わったか?さっさと行くぞ」と先陣を切る始末。なおシュトルムはその赤い髪が大変目立つため、今日は俺の麦わら帽子をかぶり、さらにほっかむりをかぶり、さらにさらにサングラスをかけてマスクをしてという完全に不審者スタイルとなっている。
パーティメンバーのうち二人が覆面とはこれはいかに。通報されないといいけれど。
あ、やっぱりちょっと目立ってる。小さい男の子がこちらに指差し、「ママー!!コスプレ集団!!」と叫ぶ。母親はいさめているが、シュトルムはカチンときたのか「んだとこのクソガキ!!」とかみつき始めた。喧嘩は同レベルでしか起きない。彼の知能はひょっとするとひょっとするかもしれない。
そうして歩いていると、街の中心にある、噴水の広場にたどり着く。この辺りは富裕層が住むようで、とくに高そうな材質が使用された建物が並んでいる。人通りも多く、盛り上げるには絶好の場所だ。野菜コンテストは冒険者ギルドが主導で行うらしい。ギルドの広告の一環なのだろう。
大会の内容をあまりに冒険者路線の内容で進めると参加者が絞られ盛り上がらないため、だれでも育てられる野菜をテーマにするのが一番手頃だったのだろう。こういうのは参加者がいないと始まらないからだ。あ、あそこのテントで植木鉢と種が売ってる。ここまでいろいろと用意してくれていると、自分でも何か出来るんじゃないとか思って、確かにこれは参加したくなってしまう。
見物客は熱狂しており、ステージを注視している。しばらくすると恰幅のいい壮年の男性が、街の広場の特設会場に立った。あれが、冒険者ギルドのギルド長で、アウトーメルのお父さんなのか。
今は娘と二人暮らし。なるべく娘と一緒の時間を過ごせるよう、仕事の処理も早くなったとのことだ。
ギルド長は両手を広げ、高らかに宣告する。
「これより!!今期の野菜コンテストを開催する!!」
噴水広場にはさらに大勢の人が集い、ワアッ・・・!!という歓声が上がる。「ここ一応、辺境の都市なんだけどな?なんで野菜ごときでこんなに盛り上がれるんだよ」というツッコミが隣から聞こえた。
「審査員は、わたし含め、ここにいる五名で公平に行う・・・!!」
審査員のうち三名は知らない人だった。おそらく公平を期するために、別の分野のお偉いさんを招いているのだろう。そして知ってる一人はアウトーメル。うち二人が親子というのは果たして公平なのだろうか。そう思ったが口には出さない。あ、アウトーメルがこちらに気が付いて、うなずいてきた。
「審査員のうち二人は親子じゃねえか。これ公平なのかあ?」
全く同じことを隣で口に出す男がいた。俺はとっさにその革靴を踏む。やめるんだ、少なくとも俺にとってはこの采配は有利に働く可能性が大きいのだ。俺は使えるものは何でも使う。既知の仲という有利も、優勝アイテム入手のためなら使わせてもらうのだ。
赤毛の男はいてっと漏らし、俺をにらむ。
「では野菜の募集を開始する!」
おそらく50人ほどだろうか。俺含め受付に殺到する。
規定通り皿に乗せ名前の札をかけ、受付のお姉さんに提出することで審査をしてもらえる。
受付の隣にはギルド長がたっており、参加者ひとりひとりに「とても美味しそうな野菜だね」と声をかけている。俺はレベル上げをこつこつ頑張ったニンジンをプレートに乗せ「あ、俺、アウトーメルの友人です。いつもお世話になっています」と頭を下げながら言い残しておいた。よし、これで俺が誰だかわかってくれただろう。あとは結果を待つだけだ。
なあ、あいつ、あんな卑怯な行為をこっそりしてるけど、お前あれでいいんか?シュトルムは騎士にぼそぼそとしゃべりかける。騎士は首を縦に振り、一応俺の行動を温かく見守ってはくれているようだ。
清廉なはずの騎士の主がそれでいいんか。ぶつくさいいつつ、シュトルムはこの場を去らない。
自分も見守ってきた野菜がどういう評価を下されるのか。気になるのだろう。
なんか、土乾いていないか?水撒きなおしたぞ。
速攻で雑草が生えたな。抜いといたぞ。
というようにかなり積極的にかかわってくれていた。できれば彼に最高の結果を見せてあげたい。
さて、農場ゲームでは大体初めて参加するコンテストは酷い順位で終わることが多い。なぜなら十分に作物の品質が上がりきっていない中で参加するためだ。初心者の段階で作物レベルを計算する余裕はないのだ。
故に一位を取るのは現時点では至難の業だとは思う。
しかし、俺はこんなこともあろうかと出来うる限り品質あげはやってきた。化学薬品を用いて品質を短期間で強制的に上げることもできるが、このゲームではそれをすると土がかなり傷むため、できるだけ枯草を使用してこまめに進めてきたのである。
ギルド長は壇上に上がる。審査は終わったのだろう。
「本日は沢山の参加、誠に感謝いたします。どの野菜も愛情をこめて育てられており、これまでで一番審査に苦労しました。では、恒例通り上位三名の発表をします!!」
なお四位以下については、掲示板で表示されるらしい。
「食感、甘み、美しさ。そのどれもが均整がとれている玉ねぎだった!!第三位…!!冒険者マルコ!!」
マルコ?誰だろう?すると30代くらいの冒険者が壇上に上がっていった。ああ、以前アウトーメルにひどい扱いを受けていた男性だ。
「野菜の性質を理解し、その愛情は野菜にも形になって表れていたとてもいいニンジンだった!!第二位!!ルナリオ!!」
俺の名前が呼ばれた。二位だった…!!
欲しいのは優勝の冠だったものの、この時期にこの順位はなかなかの偉業ともいえる。
シュトルムもランクインは意外だったのか、一位は取れなかったものの少し嬉しそうだ。
しかし、俺が第二位なら、第一位は誰なのだろう。この本業の俺を超える順位の者は。
「そして、奇跡といっても過言ではないくらい、とても素晴らしいきゅうりだった…!!第一位!!エシュタス…!!!!」
エシュタス。知っている名前に俺は、体が一瞬強張る。
呼ばれた女性は返事をし、人ゴミをかき分けて壇上に向かう。
「はあ~い!!優勝頂きまことに感謝にゃ~!!!」
その女性は紫の長い髪を持ち、ヴェールを付けている女性だ。異国を思わせる褐色の肌をしており、露出面積は腕や足や胸など、とても広い。表では異国行商人を営んでいるが、一方で情報屋という裏の顔も持つ。
嫁候補の一人。|藤《ふじ》のエシュタス。
手をぴろぴろと大衆に動かし、喜びをみなに伝えていた。
そして、変装しているはずのシュトルムをじいっと見つめ、にい…と笑っていた。
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