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第15話情報という名の戦争

 上位三名は表彰が行われるらしい。  俺は二位だったので、ありがたく賞状を仰々しく受け取り、景品も沢山抱える。  このゲームのレシピには、料理だけではなく防具や農具の装備の作り方など多岐にわたる。一応レシピがなくとも材料さえ分かっていれば製作は可能なものの、使用するものの暗記の必要があれば、製作にかかる消費MPも金銭も大きいというさまざまなデメリットがある。  例えば前に入手したレッドドラゴン素材も、持っていたとて、同レア帯の木材石材も必要だし、仮に材料が全てあったとて俺のMPでは到底足りないのだ。加えて記憶違いで材料を間違えれば全部廃棄物へと変わってしまう。しかしそういったこともレシピさえあれば回避出来る失敗は多いのである。  どんなレシピがあるのか後で確認しよう。スラリスも絶対喜んでくれるだろうなあ。  そんなウキウキしている俺を、一位の表彰状を受け取ったエシュタスは、笑顔を保ちながらも横目で観察する。 「ねえ、あなた。あそこにいるあの妙な格好の人って次期領主さんにぇ?」  エシュタスが俺に話しかけてきた。あの人というのはシュトルムのことだろう。変装をしているのに、それが見破られた。 「ああ、情報屋ですからね、あなたは」  俺はそう返すと、その反応は意外だったのか虚を突かれた表情をする。情報屋は裏稼業、彼女の秘密の職業なのだ。してやられたにぇ!!とクスクス笑い出す。 「いいえ、彼はシュトルムではありませんよ。俺の、兄です」  当然兄は嘘である。とっさに出てきた言い訳がほかになかったのだ。 「ちょっと~駄目よ~ルナリオきゅん」  名前を名乗っていないはずなのに、俺の名前を知っている。やはり情報屋というものは末恐ろしい。 「本当に知らないなら、そこは『シュトルム?何の話ですか?』って返さないと、不自然だにぇ?」  ぞっとした。こちらの考えを読まれている。 「あたしね~実はとおっても怪しい集団に、領主の息子の情報をせっつかれてるにぇ~」 「脅迫でしょうか」 「ええ。脅迫にぇ」  エシュタスは紫の自分の髪をくるくると指にまいてはほどき、いたずらする子供のような表情を浮かべる。 「その集団に、怪しい家がありますって告げ口しちゃおうかにゃ~。でも~明日ぁ、ここの場所に一人で来てくれたら、内緒にしてあげるかも♡」  メモには、場所と10万ゴールドをもってくる旨が記載されていた。  だってルナリオきゅん、最近とっても大きな収入があったでしょ♡すっごく噂になってるからもちろん知ってるにゃ♡  レッドドラゴン討伐のことを言っているのだ。そりゃ、ギルドであれほど大々的にやってしまった以上は当然漏れている。エシュタスは手でハートを作りながら俺にウインクをする。 「返事は明日きくにぇ~」  もちろんこのことは、ほかの連中に言っちゃやーよ♡  丁度表彰式がすべて終わったところだった。エシュタスは俺に制止される前に、人ごみの中にすっと紛れ、遠くへ逃げてしまった。  俺はメモを片手に立ち尽くし、そこで静かに今の出来事を反芻していた。  スラリスたちは俺にかけより、シュトルムは俺の頭をわしゃわしゃとなでる。二位だったことが悔しかったと思ったのだろう。真相を話したいが、内緒と言われたこと、そして今起こったことをシュトルムに言ったとて、いい方向に行くとはとても思えない。  俺は笑顔を無理やり作り、「残念だったね!!」とみんなにカラ元気で答える。俺たちはその場を後にした。  ------------------------------------------------------------------  実のところ、エシュタスが情報屋ということは知ってて、舐めていたのである。  なぜか。  エシュタスは、受け身が主軸の結婚候補の中で唯一、主人公に好感をあらわにしてくる嫁候補だからだ。  出会いはエシュタスが財布を落としたことに起因する。大事な支払いがあった中、財布を落としてしまい絶望していた中、主人公がたまたま拾った財布がエシュタスのものであると突き止め、彼女に返す。日本では当たり前の光景だが、海外では珍しいように、エシュタスもその主人公の誠実さに惹かれ、主人公に付きまとうようになったのである。  なお、メインストーリーにこの出会いは組み込まれているため、男女どちらの主人公でも発生するイベントだ。当然男主人公でやっていた俺の時にも、「ルナリオたん♡好きにぇ♡」と腕をつかんですりすりされた。  そう、そのイメージが強く、俺はエシュタスのことを味方という認識をしてしまっていたのだ。肝心のメインストーリーは俺の街の散策の怠りにより発生せず、先にコンテストで初対面を迎える始末。 「一々どのキャラと、どのタイミングで、どこで出会ったなんて気を配れるわけないだろ!!!!!自分が生きるので必死なんだよ!!!!!」  以前、スラリスにお前は怒らないといわれたことを忘れるほどの気の乱れ用である。あれは、アウトーメルが本当は悪くない子ではあると知っていたから怒らなかっただけなのである。  結婚候補は10人いるんだ。自分が失念していても仕方ないといえば仕方ない。切り替えていこう。  ルナリオは意識を前向きにし、これからのことを考える。要求された金銭は10万ゴールド…。手元にあるのは賞金合わせ4万ゴールドだ。得た金を数日たたずに速攻で使用したとはエシュタスもそこまでは調べがつかなかったのだろうか。  いや、家を建て替えているのだ。目立つことをしているため、おそらくは知っているあろう。しかし金を借りればいいにぇ♡ドラゴン狩ったのだから金融機関からそれくらいの信用は出来てるにぇ♡とのことだろう。  今まで生きてきた中でここまでハートマークのセリフに殺意を覚えたことはない。  しかし、月末の金銭を今朝までの時点で前もってそろえることができたと思ったのに、突然の脅迫イベントで早速所持金0どころかマイナスになるとは。お金の流動があまりにも0か100でピーキーすぎる。  いやちょっとまて、金融機関での借金ってゲームシステム上、普通は出来ないんじゃないか?それが出来たらゲームバランスとして成り立たなくなるはずだ。金融機関へ行ってもゲームの力が働いて拒否される気しかしない。  どうしよう、明日の脅迫分の金銭すらない!  既に日は落ちた。騎士は、俺が今日の結果に落ち込んでいると思ったのだろう。料理のジェスチャーをしてくれた。自分が代わりに作ると言っているのだろう。  昼は畑仕事をまかせ、夜は番をしてもらっている中で申し訳ない。そこまで迷惑はかけられないので、騎士を制止して俺が作ろうとする。  すると騎士はスラリスを持ち上げ、俺の頭の上にそっと乗せる。そして、卵が沢山入った籠を俺に手渡す。卵を置こうとするとスラリスは落ちるから動けない。一連の流れを見ていたシュトルムは指をさして笑っていた。いや、暇なあなたが作りなさいよ。  騎士は自身の籠手と手袋のみ外し、慣れた手つきで料理を始めた。ごつごつした手だが、歴戦の騎士とは思えないほどきれいな指先をしている。手首のあたりも男性特有の色気を持っており、俺はちょっと驚いた。想像より若かったためだ。  騎士は料理道具をそろえ、材料を手に取り、さっそく支度に入る。手さばきから料理は普段からしているように思える。騎士ということを考えるとおそらく貴族だろうが、野営などで極めたのだろうか。俺もシュトルムもスラリスも、おお~と言いながら料理を見守る。反面騎士はここまでギャラリーがいるとは思っていなかったのか、兜をかちゃかちゃさせてこちらを確認しては気まずそうにしている。  一品目は野菜スープだろう。野菜の皮をむき、すぱすぱっと包丁で切っていった。スープは火にかけつつ、二品目に颯爽と入る。二品目は肉を塩コショウで炒めたものだ。どちらも野営ではよくつくられる料理で、その手さばきだけで苦労してきたことを察する。  俺は持たされていた卵をシュトルムにわたし、スラリスを頭からおろした。料理は完成した。見事な一連の流れに、俺たちは拍手する。  俺たちは配膳をし、わくわくした表情で食事に入る。騎士は相変わらず人前で食事はしないのか、ただ食べている者たちのことをじっと見ている。味の具合を確認したいのだろう。  まずは野菜スープを飲む。こ、これは!! 「騎士さん!!とってもおいしい!!!」  一方スラリスとシュトルムはスープを飲んでせき込んでいる。騎士はあらかじめわかっていたのか、すっと水を渡す。 「おい騎士さんよお。なんだこの、独特の味のスープは。くっそ辛いんだが」 「お、おいらも同感だぞ。なんだこの、なんなんだこれは」 「え?そう?とっても美味しいと思うよ?」  よく見たら粉末状の唐辛子が入っている。俺は辛党ではないのだが、不思議とこれは大丈夫だ。ひょっとすると、この主人公の体自体が辛さに強いのかもしれない。  スラリスはおそらく辛いもの自体が初めてなのだろう。体が赤くなり、別個体のようになり始めた。  シュトルムは辛いものは普通に苦手なようで、スープのことを仇のように凝視していた。そういえば昔わさびが苦手な人が言っていたな。辛いというのは食べてはいけないから辛いのであって、それを好んで食べる人種はおかしい、みたいな話。やめて、その目のままこっちをみないで。 「肉のほうはうめえな。程よい塩加減だ。焼きもかなりうまい。なんでこの腕前でスープは壊滅的なんだ?」 「肉、肉うまいぞ・・・」  二人のことはさておき、俺の味覚には非常にスープはマッチしていたため俺は騎士に笑顔で返す。 「とてもおいしい!ありがとう、おかげで元気がでたよ」  それを見た騎士はうなずき、いつものように自分の分をもって別室に去っていった。  食べ終えた俺たちは後片付けをして、各々の時間に入る。俺はあの脅迫をどう処理すべきか。椅子に座って考えてると、隣にシュトルムが座る。 「今日のコンテストの野菜は…。俺は優勝でもおかしくなかったと思ってる。」  姑息な手段も込みでな。笑いながら余計な一言も付け足す。シュトルムは不器用ながらも俺を励まそうとしてくれているのだ。騎士と言い、その気持ちがうれしい。  辛い物を食している際に体温が上がったため、さっき全員に了承を取り家の窓を開けた。春先の涼しい風が吹き込み、俺たちを包む。ふと金属の擦れるシャラ…という音が聞こえた。シュトルムの首もとからだ。風で擦れたのだろう。 「その首飾り…」  長い金のチェーンを首に二重に撒き、ロケットが備わっている不思議なデザインだ。俺の視線に気が付いたのか、ああ・・・とシュトルムは答える。 「これは領主の次期継承者に与えられる秘宝だ」 「領主の証っていうこと…?」 「ああ」  貴族とはもっと派手なデザインを好むと思いきや、彼の首元にあるのはかなりシンプルなデザインだ。思えば、ゲームのシュトルムも首元にアクセサリーを付けていた気がする。次期領主であることは知っていたが、証については初めて聞いた。そういう設定があったのか。  シュトルムはそれ以上は何も語らない。けれど、静かにロケットを握りしめていた。

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