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第16話赤のシュトルム

 親父の親父の更にまた親父。  俺からずっとさかのぼって何代前かに、辺境の領を先祖は王国の国王から与えられた。  隣には砂漠の国がある。ここは国の防衛の要として重大な意義を持つ。ここを落とされれば、なし崩し的に王都は蹂躙されるのだ。ゆえに、王族は代々俺の家系を手厚く支援していた。  一方砂漠の国は王に恵まれず、悪政が続いていた。民は困窮し、各地では暴動がおこるという。すると、その悪政のしりぬぐいの矛先を砂漠の王はどうするか。この国に向けるのだ。国民が敵と認識する国が隣にあれば、自分たちの不幸の原因を自分の国には向けないからな。  たまに、この王国でテロが起こることは知ってるか?あれ、いつも犯人が分からずじまいだが、起こしてメリットがある奴って果たしてどこの誰だと思う?はは、いや。こんなの証拠もない。ただの想像でしかねえか。  虎視眈々と狙われているこの領地は、そんな背景から領主には強さが求められた。この領地さえ落とせば、侵略はたやすい。  国同士がいがみ合っていても民間の交流は活発で、商人の行き来は盛んだった。隣国から輸入されてくるものは刺激的で面白い反面、しかし信用してはならない人間も混ざっていた。  さて、うちの領は一夫多妻制を採用している。王国では一夫一妻制が当たり前だが、ここの領主だけ特別に一夫多妻制が認められてるんだ。ひいじいさんだったかな。砂漠の国から賄賂を贈られた際に断固としてつっぱね、その後始まった戦争に果敢として立ち向かい、勝利を収めたんだよ。その見返りの一つとして、一夫多妻の特例を願い出たっつーわけだ。  色男で地位も金もあるから大層女からモテたそうだ。けど振って傷つく女がいることに心を痛め、なら全員娶ろう!っつー発想になったわけだ。    そういうわけでひいじいさんからの代は、領主は慣例で複数人伴侶を持つことになるんだ。俺の親父にも妻は5人いた。兄弟?あー、いるにはいるんだが何人だったかな。変動が激しくて、もう何も感じなくなれるように忘れる努力をしてたんだよ俺は。  ともかく、親父の妻は王族の傍系、大金持ちの商人の娘、平和協定により輿入れに来た隣国の王女などだ。ああ、俺のお袋が砂漠の王女で、うちの兄貴のお袋が商人の娘ってことになるな。  うち第1夫人は妃と呼ばれている。この「妃」という字は、本当は皇后にしかつけられないんだが第1夫人が訳ありの人でな。特例で許されてんだ。まあ俺のお袋が対抗して自分も妃を付けてるんだけどな。  ほか二人の妻か?ああ、この話には関係がないから端折るぞ。  なぜなら、俺のお袋が二人とも殺しちまったからな。お袋は第5夫人ではあったが、格としては俺のお袋が一番高かった。なんつったって後ろ盾を持つ王女様だからな。さっきの説明を端折った妻の一方は「お前の息子が、この俺にぶつかった」と言って親の前で子供の首を刎ね落とし、抵抗する母親もその場で首を落とした。  もう片方の妻はなんだったかな。濡れ衣を着せて処刑まで追い込んだんだったかな。はは、いや悪い。なんとなく察してるだろうが、こんなエピソード、多すぎて語り始めたらきりがないんだよ。なんつったって、メイドもかなり入れ替わってるからな。  どうしてお袋はそんなことをしたか。そんなもん説明は不要だよな。  これだよ。この継承権を示す首飾りが欲しかったんだよ。息子にかけさせるためだけにな。はは、俺はそんなこと望んじゃあいないのにな。  誰もが暴走しているお袋を止められなかった。故に、この首飾りは巷で何て呼ばれてるか知ってるか?  |血染めの《ブラッディ》|首飾り《ディッセンダント》だとよ。  数多の人間の命を奪い、得た称号だ。  ああ、その通り。蔑称だよ。  兄貴のお袋は賢かったな。自分の息子に手が及ぶ前に立場を返上した。  親父も、第五夫人の頭がいかれてることに気が付いて、それ以上妻は娶らなかったよ。そりゃ、結婚しても殺されるだけだからな。可愛がってた初の息子も殺されたんだ。第5夫人への恨みは相当なもんだぜ?  けれど、王女を殺せば名分として国規模の戦争が起こる。俺の親父に取れる手段は、ささやかな抵抗だけだったな。関税、かかってたろ。あれもその一環だ。反対したデモ隊の大半は、故郷の物資が入手しづらくなることに困った砂漠の国の連中だ。親父はそいつらからいやがらせに「悪徳領主」なんて呼ばれてんだ。  一応弁明のために言っておくぜ。砂漠の民はそういった国の事情とか分かんねえから、こういった措置は領主から砂漠の民への、ただのいやがらせにしか映ってねえわけだ。見方が変われば正義が変わる。砂漠の民に甘い施行をする王女こそが救世主で、うちの親父こそが悪政の根源に映るんだろうな。  さて、そうして今、親父の伴侶の席には二人いる。この国の王族の傍系の女性と、俺のお袋の二人だ。  王族傍系の女性は正義感が強い。俺を殺そうと躍起になってるんだよ。  それはそうだ。あの女の息子がこの領主の首飾りを持つということはどういうことか。砂漠に乗っ取られ、つまりは国が終わるっつーことなんだよ。  ああ…。俺はただ、権力も何も関係なく、それこそ土なんか触ったりして、ただ平和に暮らしたいだけなのにな  『引用 プリエスティラ新農場物語 逃亡の道中 シュトルム恋愛イベント2』   ------------------------------------------------------------------   「さて、明日の畑のためにさっさと寝るとするか」  シュトルムは椅子から立ち上がり、自分の仮部屋に向かおうと立ち上がる。シュトルムはろうそくを消し、「お前もさっさと寝ろ」と振り返って注意する。スラリスは俺の部屋に既に戻っており、すやすや寝ているのだろう。睡眠も、健全な労働を行う上で大切な習慣である。俺はシュトルムのその意識に感心する。 「なんか、農家が板についてきたね」 「うるせえよ!仕方なくだ仕方なく」  俺も寝ようか。窓を閉めようと近づいたとき、後ろからバン!という大きい音がする。  音の発生源は騎士からだった。俺はまずそのことに驚いた。いつも静かに洗練された物腰で動く彼が、今は乱雑に動いている。その異常さに、まず恐怖を感じた。  そして次に違和感を覚えたのは背後。今、俺は騎士に視線をやっており、背後に窓がある状況だ。これまで自然の気持ちのいい風が流れていたにも関わらず、突風のような、人工的な風がふわっと俺の髪を巻き上げる。  そして、騎士は怒っているわけではなく、俺の後ろ、|窓《・》|の《・》|部《・》|分《・》|に《・ 》|い《・》|る《・》|、《・》|今《・》|ま《・》|さ《・》|に《・》|俺《・》|た《・》|ち《・》|に《・》|迫《・》|っ《・》|て《・》|い《・》|る《・》危険に急いで駆け付けた、そのことに遅れて気が付いた。  俺は体を急いで向き返し、その危難を視界に収めようとする。しかし、身をひるがえしたその瞬間、頬に何かがかすめたことに気が付く。  飛び道具、ナイフだ。  俺の頬をかすめ、まっすぐにシュトルムの方向に向かう。シュトルムはこのように襲われることに慣れているのか、片手剣をするっと出し、はじこうとするが、騎士のほうが反応が早く、投げられた鉄を両手剣でたたきおとす。  俺はあとずさり、窓からするすると離れ、騎士が守りやすいように後方に移動した。  窓には、黒い装束の男がいた。  静かな殺気を室内に醸し出している。その殺意に感情はない。雇われたもの特有のものだ。  しかしその殺気は俺にもまとわりつく。人から殺意をぶつけられるのは初めてなので、足がガクガクと震え始める。  男は顔の下半分を黒いマスクで隠しており、表情はわからない。体格は未発達で少年のように見える。  顔の上半分はフードで隠れている部分も多いため伺いにくいものの、褐色の肌と、視線で相手を殺せるくらいの鮮明な赤い目がこちらの意識を引く。  暗殺者だ。  布で隠れていてわかりにくいものの、しかし顎のラインでなかなかの美形だと判別できる。腕などは軽装をしているため、鎧は最低限のものを付けており、素早く動けることを重視しているのだとわかる。  場は緊張感が高まる。  黒い男と、白い騎士が各々の得物を構え、対峙している。  ルナリオはこの状況を観察しているのち、段々と体がしびれ始めたことに気が付く。 (ナイフ、何か塗ってあったのか)  レッドドラゴンの一件で、経験値を得ていたことが助けになった。通常、我々の世界では急所を狙われることにより命を落とす。しかし、この世界では、レベルの高いものがレベルの低いものへ攻撃意思をもって攻撃を加えると、急所でなくともHPを大きく削ることが出来る。簡単に言えば、俺のレベルが低ければ今のかすりで死んでいたということだ。  ろうそくは先ほどの寝入りの前に消してしまったが、視覚には問題はない。月明かりもないこの状況だが、騎士が持っている両手剣・パールミルリスは白く輝き、この場の状況を夜目が利かない俺たちにも優しく教えてくれていた。  パールミルリスは、その輝き方がまるで真珠の粒のようにまろやかで美しいために与えられた銘だ。  しかし。 (この場でパールミルリスを存分にふるうことは難しい…!!)  パールミルリスの刃渡りは1メートル以上はある。それをこんな狭い場所で振るうことは、さすがの騎士にも分が悪い。  とある外国人が疑問に思ったことがある。侍と忍者はどちらがつよいのか?と。  それに対して、ある日本人はこう答えた。「忍者はそもそも諜報がメインだから比較対象とすること自体おかしいが、それでも戦闘メインの忍者ということで話を前提にするなら、結果は環境による」、と。開けた場所なのか、閉じた場所なのか。昼なのか夜なのか。ほかにももろもろ。  その言に今の状況を添わせるなら、今の状況の騎士は護衛対象がいることも環境も、何もかもにおいて不利だ。  しびれる体は均衡を保てなくなり、俺は体を地面に崩す。俺の異常に気が付いたのか、シュトルムはおいと声をかけてくれたが、敵を目前に隙を作るわけにもいかない。彼は俺に声をかけるだけでとどめておいた。  シュトルムは戦闘ももちろん習得はしているが、あくまで自衛が主軸で本業ではない。故に騎士に助力は出来ないだろう。  連携について話し合いをしたわけでもない二人が今から即席で連携をとるわけにもいかない。足手まといになるだけだ。シュトルムもまた、俺と同様にただ状況を見守っている。 「その男を、差し出せ。そうすれば、お前も、そこの農民も見逃してやる」  暗殺者の男はシュトルムを指さし、高いのか低いのかよくわからない声でそう告げる。  たまに存在する声質の持ち主だ。確かに男性の声だが、人を惑わす不思議な声。  騎士は微動だにせず、シュトルムは汗を垂らす。いや、騎士はそんなことでは惑わされない。俺が守ってほしいといったのだ。騎士は必ず信念を貫き通してくれる。  それを拒否と受け取った暗殺者は短剣をさらに出し、かるく踏み込む姿勢をとる。  はたから見れば力の入らない姿勢だというのに、すさまじい加速を生み、騎士に襲い掛かる。  得物同士が交差すると思いきや、騎士に襲い掛かる直前で暗殺者は角度を多少変え、騎士の懐にもぐりこむ。短剣と両手剣の違いを分かっていながら力技を挑む馬鹿はいない。暗殺者の特権はその素早さと手数の多さにあるのだ。  短剣での攻撃は鎧にはじかれる。  おそらく首と胸の間にある鎧の隙間を狙った剣筋だっただろうが、騎士は体の向きを咄嗟に調整し、鎧にわざと当てさせた。  攻撃をはじかれた暗殺者には隙が出来た。援護射撃として、シュトルムも暗殺者に切りかかるが、とらえきれなかった。  初撃を外した後のリカバリーの訓練はかなり積んでいるようで、まずいと思ったらすぐに距離を作る。その咄嗟の判断は冴えていて、侮れない。  騎士も、自分の鎧に攻撃が当たったこと自体が珍しいのだろう。右手で剣を持ちながらも、左手は当たった個所をまさぐっている。鎧に傷ができるほどの深いものではなかったものの、生身の体にあたっていたら深手になっていただろう。問題はないことを確認すると、騎士は左手を剣の柄にもどした。  俺の体はしびれているものの、先ほど食べた辛い料理が功を奏し、頭の回転は速くなっていた。 (暗殺者襲来…。そのシチュエーションは嫌というほど知っている)  主人公が家賃を滞納すると、その連絡はお家騒動中の主人公の実家に流れ、暗殺者を仕向けられる。  その状況と今の眼前の状況は一致していた。  しかし、この家賃滞納イベントは、大抵は中盤までで終わる。それは主人公の実家の状況が変わったから、ではない。差し向けられた暗殺者の心境がストーリーを進めることによって変わったからだ。  俺はこの室内という状況を打破するため、暗殺者の隙を作ることを決意した。大丈夫、攻撃に参加できずとも、俺にも取れる手段はある。 「騎士さん!!その暗殺者の名前はトゥルニテっていうんだ!!光が弱点になる!!」  暗殺者は婿候補の一人。 「黒のトゥルニテ」と呼ばれる男だ。

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