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第17話強者たちの舞踏会

 光の輝きを増した聖剣・パールミルリスは、騎士のMP消費に呼応するように、明るく輝きを放つ。  先ほどまでもそれなりに明るかったが、いまは閃光弾相当の明るさだ。味方の視界も潰すほど明るいが、騎士は視界調節が出来るのだろう。  暗殺者は夜目が利く。誰しも、明るいところから暗い所に行くと目が慣れないことがある。生物の世界ではこれを暗順応と呼ぶとルナリオは高校で学習した。しかし、暗殺者によってはこの暗順応の速度を上げているものがいる。例えば獲物が暗い物置に逃れても仕留められるように。  しかし、反対に明順応については誰もがそれほど苦労しない分、暗殺者の中にも訓練しているものもほぼいない。いや逆に、普段から暗い場所で訓練している暗殺者にとっては、一般人よりも目を刺す刺激には耐えがたいものがあるだろう。  黒のトゥルニテ。  今、まさに俺たちが対峙している暗殺者の名称だ。  エシュタスといい今日だけで厄介な結婚候補二名に会ったのか。なんという厄日。  そうだ、今日はコンテストでエシュタスに出会って、そこで脅迫されたのだった。こちらが要求されたのが10万ゴールドに対して、相手のとった人質は「次期領主の息子の情報をあくどい組織に売る」こと。  すると、あの暗殺者・トゥルニテはエシュタスが情報を売った相手、ということになる。トゥルニテは集団には属さず、フリーで依頼を受ける仕事人だ。するとエシュタスとトゥルニテはあのコンテストの後、情報共有をしたということになる。  トゥルニテがここに来た時、その殺意は本当に静かで、恨みや復讐のためではなく、ただの仕事という気配を感じた。彼もまた依頼されてこの場にやってきたのだろう。しかしエシュタスの言い分だと、あくどい組織が情報を要求しているとのことだった。トゥルニテは組織には属さない。属さないから後のストーリーで後腐れなく結婚候補に滑り込んだのだ。これが集団の手足だった場合は抜けるのに相当苦労する。それを避けるためのフリー設定なのだ。    エシュタスとつながっていないと仮定した場合、彼の狙いはシュトルムではなく、ゲームのシナリオのように自分の可能性はあるか?  いや違う、そうだった場合は俺を真っ先に仕留めていたはずだ。狙いが奥にいたシュトルムだったから、暗殺者は最初のナイフ投げで仕留め損ねたのだ。  シュトルムを殺意とともに追っていたあの時の刺客とは、雇い主が…違う…???  エシュタスも、先に情報を売っては脅迫行為が成立しないはず。彼女は故あって大金を集めている。自ら10万ゴールドを捨てる真似を、一日もたたないうちにするだろうか?  エシュタスが情報を売ろうとしている相手は誰なのか。  トゥルニテは誰の仕事を受けてシュトルムを殺そうとしているのか。  シュトルムはどうして命を狙われているのか。  悪徳領主の噂。継承者の首飾り。関税。  頭がフルで回転する。それぞれの思惑と立場が交錯し、一つ一つは点ではあるが、それが線にできそうなところであと一歩及ばない。時間が、時間が欲しい。  暗殺者と騎士の戦いの舞台は部屋から出て、外に移している。  俺はよたよたと戸まで近づく。シュトルムはそんな俺に近づき、体を支えてくれる。  MP消費のことを考えてだろう。騎士は外に出た今なら必要がないというように、パールミルリスの光はもとに戻っていた。  狭いエリアでは騎士が不利だったのと反対に、外に出た今は圧倒的に騎士が押している。  けれど速さは暗殺者のほうが上だ。一つ間違えたら即死の騎士の剣裁きを、紙一重で交わしていく。しかし、踏み込むことができない。  一方の騎士は剣が一つ、また一つと暗殺者に傷を与えている。このままいけば騎士が勝利できるだろう。  しかし、目の前に繰り広げられているのは正真正銘の殺し合いなのにもかかわらず、俺はぼーっと見入ってしまった。ここは危ない。暗殺者がこちらに近づいて人質にとってくる恐れもあるのだ。だというのに視線が外せない。  さながらそれは舞踏会のようだった。一つの道を究めた者たちの死闘。二人の動きに無駄は一切ない。すると、同じ動作でも外野には素早く見える。それが一つ一つの動作で繰り広げられているのだ。  これこそ芸術といえるものなのだろう。  俺はほれぼれするようにぼーっと眺めていた。  しかし、俺を支えるシュトルムの腕が小刻みに震えていることに気が付いた。それはそうだ。さっきまで命を奪われそうなところだったんだ。誰だって怖い。  しかしシュトルムの表情は、恐怖におびえるそれではなく、どちらかというといまにも殴りに行くのを我慢しているという表情ではないだろうか…?  ・・・・・ん?  ちょっと待て。あの二人、今、家の前の外で戦っているんじゃなかったっけ。あれ?  家の前って何があったっけ?あれー?  作物が、彼らの足元で無残な形になっていた。 「こらーーーーーー!!!!!!!!」  俺は思わず怒鳴ってしまった。騎士も暗殺者もあまりに場違いな大声に思わず体が停止する。  一方シュトルムは俺の隣で二人を殴り掛かりに行くモーションに入っていた。ステイステイ。俺はシュトルムを何とか制止する。  騎士は俺の大声に、何かあったのかとぽかんとこちらをみている。そのすきに暗殺者は、自分の後方へバックステップをする。  まずい、攻撃来る!と思いきや、暗殺者は背中を見せ森の中へ走り去り、消えてしまった。  ひとまず…直面していた危機は去ったようだ。俺はホッとする。安心はした。確かに安心はしている。 が。  畑は二人に荒らされてしまった。作物は…。暗闇で見えにくいが、あられもない姿にされてしまった。  騎士は俺に駆け寄り、先ほどの大声はどうしたのかと尋ねるようにあたふたしている。俺はナイフによって体がしびれていたはずだが、怒りのアドレナリンのほうが痺れを上回ってしまった。  一方シュトルムは作物の前で呆然としている。絞り出したような声で「スミス…」とつぶやく。スミス?作物に名前を付けていたの?  なんとか、脅威は去った。騎士のおかげで一命をとりとめることができた。騎士は悪くない。騎士だって畑を手伝ってくれたんだ。好きで荒らしたわけではない。 「騎士さん…助かった…うん…ありがとう…」  俺もシュトルムと同様に、なんとか声を絞り出した。騎士も作物の状態にやっと気が付き、慌てて鍬を持ってきた。いや、もう夜だし寝ようよ…。  --------------------------------------------------------  翌日。  何も知らずにすやすや寝ていたスラリスは、「お、まだみんな寝てるのな!まったくしょうがないな~」とウキウキで外に出た。「今日は俺が一番乗り~」とうたいながら畑を目の当たりにし、そこからずっとべっちょべちょに泣いていた。 「おいらのぺるえもん伯爵が~!!いったい誰が、どうしてこんなひでえことを!!!」  ぺるえもん伯爵?また初耳の単語が出てきたな。ああ、あそこに植えたきゅうりのことか。どうしてみんな作物に名前を付けているんだろう。この世界の慣習なのだろうか。  今朝はギルドの仕事が休みのアウトーメルが遊びに来てくれた。しかし、畑の無残な状況を見てこぶしを震わせた。  今、シュトルムの奴がここに住んでいるって聞いたわよ?で、こんな事件、あいつがいないときにはおこらなかった。OK、すべてを理解したわ。ちょっと、しばいてくるわね。大丈夫、私男性が苦手だから、相手が誰であろうと身分がなんであろうと平等に殴れるの。  彼女の暴力行為を止めるのに苦労した。今回の事件は、そう!魔獣!!魔獣が来たの!!と言って納得してもらった。今はスラリスとともに畑の修復作業をしてくれている。本当に、頭があがらない。  ところで彼女にとって俺はどういう性別の判定なんだろう。ひょっとして同性と思ってる節ないか?  俺は昨日短剣のせいでしびれていたものの、一晩経てばある程度すっきりした。ナイフに塗られた毒は獲物を弱めるためだけのもので、即死の毒が塗っていなかったのは本当に幸運だ。自分の武器になにかを塗るということは、自分が使ってしまう可能性も考慮しなくてはならない。例えば不注意で触ってしまったり、また武器を奪われて敵が使用した場合などだ。一方しびれ毒程度だったら敵の動きは止められるし、万が一自分に刺さっても対処のしようがある。  シュトルムは昨晩非常に落ち込んでいたが、今はゆっくり休んでくれている。騎士も同様だ。  騎士については、この家にやってきて初めてベッドで休息をとってくれているようだ。昼も働いてもらい、夜は座って仮眠をとりながら対魔物のための警備をしてもらい、さらに昨日は料理を作ってもらい、最後に昨晩の襲撃だ。それもすべて鎧を着用しながら。  騎士から俺宛の書き置きがあった。 「申し訳ございません。数時間だけ休息をとります。僕が起きるまで絶対に家から離れないでください」  いままで騎士は長文の意思表示はスラリスを介してだったため、手紙とはいえ俺にメッセージを残してくれたことにすごく驚いた。無口な人は頭の中は何も考えてないと思いがちだが、その実態は頭の中は思考が常に流れているとされる。騎士も、無口ではあるがその内心では常に何か考えているのだろうか。  過保護な文面にいろいろと邪推をする。  ところで騎士さんの一人称って僕なんだ。なんかちょっと、意外だな。  さてと、俺は今日、やるべきことがある。  騎士からは家から離れるなというメッセージを残してもらっていたが、彼には俺から離れていてもらいたい案件が目の前に立ちはだかっている。これはいいチャンスかもしれない。スラリスたちには二度寝とか言っておこう。  残金を確認する。手元には|5《・》|万《・》|ゴ《・》|ー《・》|ル《・》|ド《・》があった。 (・・・あれ?)  数え間違いだろうか。いや、やはり五万ゴールドだ。  昨日エシュタスから脅迫された直後に金銭は確認したら4万だったような気がする。なくなるならともかく、増えている。お金を動かす行為は、昨日はまったくしてないというのに。 (誰かが俺に1万ゴールドをこっそりいれておいた?)  まさかと思うが、だれか脅迫に気が付いたのだろうか。真相は分からない。まあ、増える分には問題ないか…。嬉しい誤算ではある。  とはいえ、エシュタスの要求は10万。まずは銀行に金を借りに行こう。  俺は農作業中のスラリスとアウトーメルに見つからないように家を抜け出し、銀行の方向へ向かった。

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