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第18話情報屋vsメタ知識の保有者

「やっぱ…。借りられなかったかあ…」  ゲームバランス的に駄目だろうなとは思ってたけどやはり駄目だった。  銀行の受付のお兄さん曰く、「あそこの土地の人には金は貸さないよう厳しく決められているのです」と言われてしまった。幽霊あり、魔獣あり。エキセントリックな場所に住む人間は、住まざるをえない事情がある。  有体に言うと「信頼できねえ」というわけである。  さて、持ち金は5万ゴールド。実は道中でちょうど5万ゴールドが入った財布を拾った。「これぞ天の恵み…!!!」とは思ったものの、それは遺失物横領罪にあたるので、おとなしく警備の人に渡した。ゲームではエシュタス財布落としイベントがあったはずだが、俺が拾ったその財布は街の警備の人のものだったようだ。  そうだよなあ、エシュタスの物の訳ないよなあ。人を脅迫するからには、自分の身辺には細心の注意を払うよなあ。たまたまエシュタスの財布が落ちていてこれで和解という都合のいいことは起こらなかったかあ。ただし、警備の人はお金が戻ってきた奇跡に感動したのか、俺に気前よく1万ゴールドをくれた。  これで計6万ゴールドになった!なんだか今日の俺は運がいい気がする!エシュタスのもとに行く前に、この調子で偶然10万まで稼げるといいなあ。  なんて、そんなことそう何度もぽんぽん起こるわけなく、俺は6万しか持っていない中でエシュタスの指定した場所にたどり着いた。裏路地だ。助けも呼べなければ、逃げることも難しい。 「まってたにぇ♡」  エシュタスの声は頭上から響いた。路地裏は囲まれており、音が反響する。 「とお!」  エシュタスは猫のように身軽で、屋根渡りなどもお茶の子さいさいだ。 「それで?約束のものは持ってきてくれたかにゃ?」 「ごめんなさいエシュタス。10万ゴールドの調達が出来なかった」 「ふうん?それがあなたの答えってわけにぇ?領主の息子がどうなってもいいんだ~?わあ、薄情!」  俺は金銭袋をエシュタスに突き付ける。 「ここに6万は用意できた。現時点ではこれが限界だった。これで誠意見せること、できないか?」  エシュタスは金貨袋をじとっと見つめ、しっしという動作をする。 「関税のせいで、うちの砂漠の国の品物の売れ行きが悪いのにぇ。びた一文も値引く余裕なんてないにゃ~」  交渉決裂だ。一縷の望みに託したが、やはり考えてすらもらえなかった。  でも、ここからが俺のターンの始まりだ。 「ああ、そうだよなエシュタス。あなたには最初から交渉のつもりはなかったものな」  エシュタスはピクっと体を震わす。今からいったい何の話をされるのか、心当たりがないのだ。 「時間稼ぎかにぇ?そんなのあたしにはききませーん!」 「昨晩、うちの家をあくどい奴らが襲撃してきた」 「え…?」  奴ら、といったが正確には単体である。しかし、複数かそうでないかを、エシュタスがつかむことは困難だろう。  エシュタスは身に覚えのない話題が始まり、ひるむ。対して俺は自分の頬をとんとんと指でつつく。 「ね?怪我してるだろ?襲われたんだよ」 「な、あんたが傷を自分でつけたんでしょ!?そんなんで言い逃れできるとおもってるの!?」  語尾が崩れてきた。 「情報屋という割に情報が遅いんだな。うちの畑、見に来てくれたか?荒らされたんだよ。生命線になる収入源を自分で荒らす馬鹿がどこにいる?」  エシュタスの肩に、突然猫が現れる。猫はエシュタスに何かを鳴き、エシュタスはうなずいた。知っている。その猫は3匹で、街の情報を収集しているのだろう。  俺は昨日、コンテストから帰ってきてから、周辺にとうがらしの粉を水に溶かして撒いておいた。とうがらしは元の世界のヨーロッパでは貴重品として扱われた反面、この世界では手軽に育てられる上に保存もできる。  元の世界と若干味が違うのは、この土地に適するように進化したのだろう。前の世界より、五倍辛いという旨をゲーム内のアイテム情報で見かけた覚えがある。それをふんだんに使わせてもらった。  撒いた理由はエシュタス対策である。エシュタスの情報源は猫であり、シュトルムの正体がばれたのも間違いなくあの猫たちの仕業だ。日本の農家も猫対策に唐辛子が入った薬剤を使用することがある。それを俺は利用したのだ。  エシュタスは俺がどうして|情《・》|報《・》|屋《・》|と《・》|い《・》|う《・》|情《・》|報《・》を掴んでいたのか、気になって捜索をするだろうと踏んだのだ。シュトルムのことはもうばれてはいるが、それはさておいて、たとえ探られて痛くない腹だとしても、自分の周りをうろちょろ情報収集する生き物を黙認できる人間は果たしていないだろう。 「え、ええ、確かに畑は荒れてるにぇ。あなたが言ってることは本当にぇ」 「はは、駄目だよエシュタス。そこは『そんなことはとっくに知ってるけど』って返さないと。あなたがその猫たちから俺の情報をとることに四苦八苦してるのがばれてしまうだろ?」  エシュタスの認識は、ここで大きく変わったはずだ。自分の諜報手段が対策されている事実を。  冷や汗を垂らす。しかしエシュタスはまだ自分が優位な立場にあると信じて疑わない。 「でも、仮にそれが本当だとして、アタシは身に覚えがないにぇ。つまり、この脅迫は有効で、アタシはこれから領主の息子の情報を売ることにするにゃ」  エシュタスは腕を組み、勝ち誇ったようにこちらをにやにやと見てくる。  けれども、よりにもよってゲーム上で主人公大好きっ子が俺に情報戦で喧嘩を売るとは、運が悪かった。エシュタスあなたは、好きな人には自分の秘密をべらべらしゃべるタイプだったから、メインストーリーを進行するだけでも個人プロフィールを深堀できたんだよ。 「そうだよなあ?あなたは今、お金が必要だもんなあ。だって、孤児を8人、養う必要があるから」  エシュタスは思ってもみない情報が飛び出て、驚きの表情をする。 「この路地裏を抜けて南に三分進み、右手にあるところがたまり場だよね。大勢で暮らす以上は鍵は共有する必要があるから、合鍵は家の裏の植木鉢に隠してある。そういえば、体調を崩した子が2人いるんだったような。ああ、それでお金が欲しいんだな」  これはエシュタスが隠していた秘密だ。そう、彼女には守るべき対象がいる。  孤児、その言葉を俺が発した瞬間、エシュタスは絶望的な表情を浮かべた。エシュタスにとって子供たちは庇護の対象なのだ。しかし、その居場所から何から何まで情報が割れている。  エシュタスは自身をねずみを追い込んだ猫と認識していたが、実際はそのねずみは蛇が化けていた姿だったのだ。今、追い込まれているのは自分である。  しかし、俺は彼女をいじめに来たのではない。脅迫されている現状を解消しに来たのだ。お金が必要な状況なら、その状況をつぶしてしまおう。 「さて、俺はその孤児の病の原因とその解消法を知っているのだけど、この情報は不要かな?そうだ、大特価サービスで丁度10万ゴールドで売るよ?」  おや、丁度脅迫されてたお値段と同じだなあ、あはは。  エシュタスは俺のことを強くにらむ。しかし、彼女に迷いはなかった。本当だったらラッキー、たとえ騙されたとて、また情報を欲している連中に売ればいい。どちらにしても損はないのである。 「・・・いいにゃ。口車にのってあげましょう」 「即答をありがとう。契約書くれるか?」  エシュタスは表向きは商人ゆえ、契約を結ぶための紙を常備している。  さらさらと文字を書き、俺にほいにゃと渡してくる。  文面に問題はなく、細工もない。エシュタスは認めた取引相手には決して嘘はつかない。大丈夫だろう。インクを用いて羽ペンで書くのは初めての行為だったが、俺は署名した。 「それで?病について教えてくれるのよね?」  エシュタスは俺の署名を見届けるや否や、俺を絶対に逃がさないように胸倉を掴んできた。 「ああ、孤児たちが飲んでいるお薬あるだろう?原因はあれ。最初はただの風邪だったのに、あれのせいで衰弱していったんだよ」  エシュタスは俺のことをキッとにらむ。 「嘘にゃ。あの薬は国内に流通しているものにゃ。」 「魔族の活動が活発になった時期、教えてくれるか?」 「魔族の活発になった時期…?」  エシュタスは指を顎に当て、ちょっと考える。 「去年の秋ごろだから…半年前にゃ」 「じゃあ、あなたの孤児が病に倒れたのはいつだった?」 「それも…半年前にゃ。なに?魔族が関係してるってことかにゃ?あれは人間が作っているものだし、時期もたまたま被っただけでそれは…」  エシュタスは最初鼻で笑おうとしたが、しかしひっかかりを覚えた。 「そういえばうちの子以外にも、病に倒れる人が増えたのは半年前じゃなかったっけ…?」  いや、まさか。でもなんで?エシュタスはうんうんと考える。  俺が提供できる情報はここまでだ。ここから先は俺もあまり詳しくはないんだ。 「信じるも信じないも自由だから。でも俺、嘘は言ってない。」  にゅ…といいながら、エシュタスはこちらをじっと見る。  態度から俺が本当のことを言っていると頭では信じつつも、頭は疑問符でいっぱいなのだろう。  納得はしてもらえたようで、胸倉をつかんでいた手をぱっと放した。  エシュタスは帰ろうとする俺を「ちょっと待ってて」と言って引き留める。  ゲームでもあった。主人公の関心を引こうとするため、帰ろうとする主人公を引き留めては少し待たせ、面白い情報を与えてくれる彼女の癖だ。孤児を助ける道筋を提示したことで、少しは彼女から好感をもらえたようだ。今は猫たちと交信しているのだろう。何がいいかにゃ…と思案する彼女だったが、その顔面はみるみると青くなっていく。 「ルナリオ。お、落ち着いて聞くにゃ」 「え?ああ。どうしたんだ」  エシュタスは深呼吸して、そしてゆっくりとしゃべりだす。 「シュトルムが自分から領主の城へと向かっているそうにぇ」

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