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第22話牢での会議
牢の廊下を、誰かが急いで駆けてくる音がする。甲冑の音だ。
甲冑はそれぞれ使用している金属が異なるため、珍しい素材の甲冑からは珍しい金属音がする。
この金属音は聞き覚えがある。
「・・・騎士さん?」
まさか、俺を探しにこんなところまで来たというのだろうか。その忠誠心の高さに俺は思わず感動で涙が出てしまう。
しかし、騎士の様子がおかしい。俺の姿を確認するや否や、騎士は加速を始める。
・・・加速を始める?それはつまり、何か急いでいるということになる。マルグリット妃と護衛達もそのことに気が付き、一斉に構えた。
騎士は、彼らが俺に害をなそうとしていると判断したのだ。いやまあさっきまではその通りだったが、たった今無害になったので、現段階では騎士の勘違いになる。
騎士は走りながらスラっと剣を取り出し、こちらに向けて構えだす!
「ちょっ…!騎士さん!?」
騎士はまず自分から手前の護衛から切り崩そうと襲い掛かる。護衛もまずいと判断し、臨戦態勢に入った。だが、騎士のうごきが余りに無駄がなく、護衛の剣は華麗に避けられ、その首筋にパールミルリスが吸い込まれる…!!
「ストップ!!!騎士さん!!!!」
ギリギリで剣は止まった。護衛さんの首の皮が少しめくれているきがする。危なかった。あとコンマ一秒遅かったらここは殺人現場になっていた。俺は本日一番の恐怖を感じた。
何より、騎士は人を殺すことにためらいがなかったように思う。その動作だけで、生きている世界が違って見えた。
マルグリット妃も、ただ喋らず警戒している。全員が静かになり、騎士のうごきを注視していた。それはそうだ、さっきまでこちらに殺気を放ちながら向かってきたのだ。次の動作が怖い。さっき首を切られかけた兵士は武器を落とし自分もしゃがみ、大量の汗をかいている。あの人はもう護衛職にはたずさわれないだろう。心に深い傷を負ったから。
すると騎士がやってきた方向から、また別のぺたぺたした足音が聞こえてきた。
「もお~!!走るのに自信あったのに、騎士様とってもはやいにゃ~!!」
「エシュタス!?」
エシュタスがやってきた。
「ひょっとしてエシュタスが騎士さんを?」
「そうにゃ!!感謝して欲しいにぇ~」
俺の居場所、城へのルートの抜け道を騎士に伝授してくれたようだ。これは後で礼を渡さなければ。
しかし、そんな驚きに満ちた目で見られているにもかかわらず、騎士は俺の方をじっと見ている。
ただずっと、見ている。
騎士は俺をじっと見たまま、鉄格子を掴む。もしかして俺の近くによって、怪我の心配してくれているのだろうか。
いや違った。鉄格子を掴み、ミシミシとへし折り始めた。それは助けようとしているのではなく、単純に俺にぶちぎれている。そういえば、怒られたくないから「絶対家から出ないで」という書置きを無視して出ていってしまったんだった。あはは…
「ルナリオ!!本当に騎士さん怒ってるから早く謝ってにゃ!!」
「こわいこわいすごくこわい!表情が分からないから余計にこわい!!!」
鉄格子が今にも破られそうだ。え、鉄格子が破られたら、俺殺される?
エシュタスはふと、シュトルムの入っている牢に気が付く。そしてまじまじと見ている。
「あれ?次期領主様、第二ボタンとめてるにゃ?めずらしい~」
「余計なことを言うな!!!つーか誰だよお前!!!」
やっぱり第二ボタンの発言気にしていたのか。申し訳ないことを言ってしまったな。そう思いつつ、そういえばここに騎士とエシュタスがそろったおかげで、錚々たるメンバーが集う地下牢になったことに気が付いた。
これまで黙って俺たちの関係を眺めていたマルグリット妃がようやく口を開く。
「紫の貴女。城の構造に詳しいの?」
「情報屋ですからにぇ!!このエシュタスに街のことならなんでもお尋ねくださいにゃ」
マルグリット妃はうなずき、質問を続ける。
「反乱軍の話って聞いたことあるかしら?」
「ええ、レッドドラゴン跡地に転居したところですにゃ」
「そう、今の急所になる発言を聞いて安心したわ。貴女、見る限り砂漠の国の人でしたので」
砂漠の国の人に見える。ゆえに、砂漠の国の情報を売れるのか。信頼に値するか否か。
「アタシはこの国に守りたい子たちがいますにぇ。だから平和が一番。どこの国が覇権を、なんてどうでもいいです~」
エシュタスはきっぱりと言った。それを聞いたマルグリット妃は笑みを浮かべる。
しかし俺には疑問が多かった。
「そもそもどうしてこの領地で暴動が起きるのかしら?」
「原因はシュリイ妃です。彼女がこの領地を乗っ取ろうとしているのです」
「でも、暴動を起こさずともシュトルムは継承者ではないですか」
その質問に対して、今度はシュトルムが答える。
「|時《・》|期《・》を早めたいんだよ」
「時期?」
「そう、領主の座の予約を取ることが出来たんだ。あとは、その席をさっさと降りて欲しいのさ」
そうして乗っ取ることが出来れば、砂漠の国が攻めやすくなる。しかしどうして今…?そういえばさっき、エシュタスが気になることを言っていた。
「あの…さっき言っていた、レッドドラゴン跡地ってその。どういうこと?」
「ルナリオがレッドドラゴンを倒したでしょう?あの場所、この領地からとっても近かったから目の上のたんこぶだった反面、あれのおかげで魔族とか他国とかの侵略から守られてたっていう背景もあったのにぇ」
「なるほど・・・つまり」
俺のせいで反乱軍は絶好のロケーションに居を構えることができ、想定以上にシュリイ妃の動きが活発になってしまったと。そういうわけだ。騎士以外の全員が俺から目を逸らした。責めないでくれたのが一番の優しさだろう。
じゃあ今まさに領主様は命を狙われているということになるのでは?
俺がそこまで考えに至ったところで、地下牢が突然バタバタと騒がしくなった。
そういえば、今、牢の前にいる面々は、許可されていないのに勝手に入ってるのではなかっただろうか。
賄賂を受け取った看守はここで広がる光景が知られるとまずいと思ったのだろう。一生懸命兵を足止めしようとしていた。一方騎士とエシュタスは声のする方向から反対の方向にとっさに駆け出す。素早い二人は、あっという間に姿をくらませた。そしてここに残っているのは牢に入っている俺とシュトルムとマルグリット妃たち。
マルグリット妃は何事かと焦る俺たちとは対照的に、まっすぐ声のする方を睨んでいた。
こちらがそうこうしているうち、この城お抱えの赤銅色の甲冑を着た騎士がやってくる。
「マルグリット妃!貴女を領主殺害の犯人として拘束する!」
俺たちはシュリイ妃によって先手を打たれた事実に、ここで気が付いた。
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