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第28話穏やかな昼下がり
この世界にきて二ヶ月が経った。あの領主事件からは一ヶ月だ。
新しい家が建て終わり、俺とスラリスとソラスは仲良く一軒家に暮らしていた。
いや、訂正する。仲良くはない。俺はソラスが怖いためややよそよそしくなり、一方ソラスは自室を階段下に設けていた。俺が2階の自室から抜け出そうとした際に阻止する為だそうだ。いや、魔王討伐に行けよ。何をしてるんだ本当に。
畑ではトウモロコシ栽培をはじめ、ジャガイモや玉ねぎなど15種類の作物を収穫できるようになった。畑の開墾にソラスは尽力してくれ、土魔法でその力を存分に見せつけてくれた。いやもっと早く使えよ。なんでここに来たときは鍬使ってたんだ。
ソラスは騎士だというのに、楽しそうに農作業を手伝ってくれている。今日もトマトを収穫すると、嬉しそうに一齧りしていた。それがまるで食品のCMのように爽やかで映えて、一度強く転職を勧めた。ムッという顔をされた。こんな国のトップアイドルがこんなところにいていいのだろうか。
家の周辺には認識を阻害する魔法をかけておいたのか、来客は最小限で済んでるのは助かっている。そうでもなければ今頃ソラスファンがこの畑をぐちゃぐちゃに踏んではサインを求めてきただろう。
「まったく庶民は今日も熱心に働いているな。ご苦労なこって」
昼下がりの作業をしていたその時、シュトルムが何やら紙束を片手にやってきた。彼もまた、あの事件以降時間を作っては農作業を手伝いに来てくれていた。
「どこかのだれかが家賃まけてくれればいいんだけど」
「既に六割引きはしただろうが」
「六割増しの後の六割引きでしょうが!!!当初の予定から変わってないだろ!!!」
とはいえ農場ゲームは三カ月もすると大体は収入が安定している。別に俺も浪費癖はないため、困ってはいないのだが、とはいえこれから装備制作にも金がかかる以上は出費は抑えたい。常に装備は更新していく必要があるためだ。
「ルナリオ、出荷箱に野菜は入れておきました。休憩しましょう」
「そうだね、もうお昼御飯が出来ている頃かな。多めに作ってると思うからシュトルムもどう?」
「ああ、軽く貰ってくよ」
「あ、おーい!!おいらも行くぜー!!」
スラリスも水をまき終え、こちらにやってきた。俺たちは新しい家に向い、昼食が待っている家に入った。
「丁度いい、今出来たとこ」
家のリビングにはかつて俺たちと一戦を交えた暗殺者・トゥルニテが座っていた。
トゥルニテが味方になった経緯は、前にも回想した通り彼を捕獲したことによる証拠集めの協力が始まりだが、シュトルムを刺しに来た際に俺の顔に傷をつけたことを申し訳なさそうにしており、偶にやって来てはご飯を作ってくれるようになった。
トゥルニテは悪人しか狙わない。ゲームでもそうだったが、俺の実家での悪行がデマと理解してくれると足を洗って魔王討伐に協力してくれる心強い存在に変わるのだ。
今日もおいしそうなミネストローネを作ってくれた。全員椅子に座り、各々食べ始める。
(そういえばトゥルニテは人気投票婿部門二位なんだよなあ)
つまりこの場には人気投票の男性陣トップスリーが集っている。華やかとは思うものの、たとえ新築でもこの家の建築はこの世界の一般家庭のそれなので、ものすごく背景と人物がそぐわない。インテリアには地味な俺しか適応できていない。
そして残念ながら俺の最推しはレインさんである。この華やかさも全く嬉しくはない。
「赤毛の。お前のその紙はなんだ」
トゥルニテはシュトルムに話しかける。赤毛のという呼ばれ方に不服そうではあるものの、シュトルムは俺たちに説明する。
「お前ら、王都新聞読んだか?」
「読むわけないだろ。ここ辺境領だぞ?」
「なんだその自信満々な言い方。まあいい、これを見ろ」
ぽすっと紙をテーブルに置く。新聞だ。この世界の新聞は我々の世界と用紙が違うから新聞だと分からなかった。写真技術がないためなんだか騎士っぽい抽象的なイラストは載っている。
ふむ、なになに。
救国の騎士ソラスが辺境に…
救国のソラスが領地を守り…
救国のソラスが民のために…
「ソラスの記事ばっかだな!」
スラリスも覗き込んできた
「なにこれ。ソラス新聞?シュトルム、間違えてるよ持ってくるもの」
「あってるっつーの。よく見ろ。領での出来事が紹介されてんだよ」
あ、本当だ。首飾りのイラストとともにシュトルムについても書いてある。悲劇の英雄って。さらに小さい箇所に俺のことも記載してあった。伯爵の息子が弁護にって。一方ソラスは興味なさそうにミネストローネを黙々と食べていた。一体普段どんだけ騒がれればこんな無関心になれるのか。
「なんか、俺たち、あれだけ頑張ったのに美形に全部持ってかれたんだな」
「虚しいよな。分かる、俺もこれを見たときはげんなりしたぜ」
俺とシュトルムは一緒になって渋い顔をした。ソラスは申し訳なさそうにしている。とはいえ、俺もレッドドラゴン討伐の時は彼の功績を全部奪ってしまった。おあいこだろう。
シュリイ妃についても記載があった。彼女は魔王に操られていた、そういうことで発表がなされた。これは砂漠の国との関係維持が大きい。例の一連の流れは砂漠の民も見ていたことと、他国からも信頼が厚いソラスの威光により向こうも強くは出られなかったとのことだ。
...この記事も結局ソラスに話題をつなげて褒めたいだけじゃねえか。
「まあ仕方ないだろう。ソラスさんを出しておけば大体新聞は売れるからな」
トゥルニテはフォローをする。なおトゥルニテは基本俺たちのことを毛の色とかで呼んでくる。俺のことは亜麻髪みたいに。何故かソラスだけはさん付けであった。トゥルニテは体形も小さく婿候補最年少。ひょっとしたらソラスは憧れの人だったのかもしれない。
彼は暗殺者だったものの、俺個人としては過去の経歴よりも対魔王としての戦力の方を重視すべきということで牢への連行はストップをかけさせてもらった。騎士も同様の意見だった。一方捕まえないなら捕まえないでシュトルムは彼の腕前を買い、領主の護衛にスカウトしているが、トゥルニテは首を縦に振らなかった。「亜麻髪に借りを返してから考える」とのことだ。
「あれ、おかしいな。領地で審問会があったのは一か月前。記事にするには遅すぎないか?」
「そう、そこなんだ。平和を享受する王都とは言え、ここまで話題が長引くのはおかしい。なんでだか分かるか?」
え?質問形式?面倒だ...
「正解はもうすぐ城で領主任命式が行われるからだ」
「自分で正解言っちゃうんだな。へえ、でもよかったじゃないかシュトルム。王都でも盛り上がってて」
「あのなあ...」
新聞をバンっと叩く。行儀が悪いなまったく。
「そこの騎士が目立ったせいで、王都の奴らはお前目当てに沸いてんだよ!!これでお前がいなかったら俺が白い目で見られんだよ!!!!っざけんな!!!!」
想像以上に可哀想だった。俺はソラスに視線をやる。ソラスは首を横に振り、「ルナリオがここにいるので空けられない」とシレッという。
「そう言うと思ってお前を誘拐しに来た」
ビシッと俺に指を差した。
「ソラス、大丈夫。俺、トゥルニテとスラリスと一緒にお留守番できるから」
「おう、オイラがルナリオを守るからな!!」
トゥルニテもこくんとうなずく。しかし
「駄目です。いざという時が起こったらどうするんですか」
「いざって何。なにがいざなんだ」
「とにかく駄目です」
頑固だった。
「だからお前が来ればこの騎士も来るんだよ。分かったか」
分からない。いやである。俺がここまで突っぱねる理由は二つある。
一つ目は、王都には主人公の実家があるらしいこと。実家では虐められていたようで、俺が王都に行ってもなお虐められそうである。単純に嫌。
二つ目は、俺はすでに何度も死んでいる可能性があること。身に覚えなく資金が増えていた件が既に何度もゲームオーバーを迎えたが故という可能性が拭えないのだ。スラリスたちにも俺の財布を触ったかの確認を取ったが全員触ってないという。
死の経験。例え痛みの記憶がなくとも、王都に行って何かが起こると思うと怖い。
「王都、怖いから行きたくないんだよ…」
「ですがルナリオ。トゥルニテは足を洗ったとはいえ暗殺者。彼と一緒にいる方が怖くないですか?」
「いいや?ソラスと一緒にいる方が遥かに怖い!!ああ!!ソラスの方が五倍怖い!!!」
ソラスは不服そうな顔をする。あなたといると命がいくつあっても足りないんだ。いや、縁起でもないなこれは。
「ふむ、流石にここまで嫌がるやつを攫うってのはなあ。やめとくよ」
シュトルムは意外なことにあっさりと引いてくれた。出会った頃とは異なり、最近は不器用な優しさも見せるようになってきてくれたのだ。だから、逆にこっちが申し訳なくなってくるものの、それでも命の方が大事だ。
俺たちはそうして和やかな時間を過ごしていた。しかし、事件の始まりは、何時も急に訪れる。
「ルナリオさん!ルナリオさん助けて!兄さんが・・・・!!!」
プリマヴェーラの声だ。ピンクの綺麗なお下げを乱しながら、こちらにやってきた。全力疾走で来たのだろう。要件を言える余裕もないほど息切れをしている。
プリマヴェーラを座らせ、水を渡した。
「兄さんが、連れ去られちゃったの…!!!!王都に・・・・・」
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