30 / 66

第30話急襲

 敵襲。平坦な道のりにはならないだろうと思っていたが、初日で早速敵が襲ってくるとは。  俺の指示無くとも、ソラスは警戒態勢に入る。一緒に馬車に座っていたはずのトゥルニテも得物のダガーを素早く握り、馬車から出て周囲を見渡す。 (シュトルムは…)  いや、彼も心配はないだろう。戦闘職の二人と比較して見劣りがするというだけで、婿候補である以上はやはりなかなか強い。今は自分の心配をしよう。 「盗賊、ではないな。狼の魔物の群れだ。亜麻髪は念のため馬車に」  トゥルニテは俺にそう指示を出す。ソラスの願いで、トゥルニテは何かあった場合、敵の頭を討ち取ることを命じられていた。ソラスは俺の護衛で大きく動けないためだ。  超有名人のソラスがいるんだ。人間は襲ってこないだろう。しかし、知能のない魔物はそんなこと構わず襲ってくる。さて、俺はトゥルニテの言うように馬車に隠れていよう。  しかし。そんな中、服のポケットに違和感を覚える。 (・・・・・ちょっと待って。)  俺はさっきトゥルニテから貰ったクッキーをポケットから出した。  そこには|二《・》|枚《・》入っていた。  ゾワッと、身震いがした。  確かに俺はトゥルニテからクッキーをもらった。しかし、一枚だったはずだ。それが二枚になっていた。トゥルニテがこっそり二枚仕込んでいたのか?いいや違う、俺はその一枚を見て一枚すら今はいいやと思ってハンカチにくるんだんだ。絶対に一枚だった。  それが二枚になっていた。つまり。 (|俺《・》|は《・》|一《・》|回《・》|、《・》|こ《・》|こ《・》|で《・》|死《・》|ん《・》|で《・》|い《・》|る《・》)  クッキーも財産扱いになるのだろう。ゆえに一度死んで偶然クッキーを受け取る直前に戻ってきた。  全身の血が沸騰するかのように俺の体温は上がり、呼吸は荒くなる。  今ここの馬車に留まるのは危険かもしれない。 「ルナリオ!外に出て僕と一緒に行動を!」  ソラスの言に従い、俺は急いで外に出る。ロッドもダーインスレイヴも持ってきた。俺だって戦える。  トゥルニテは本業が暗殺者よろしく、早急に敵の殺到する方向へ駆け抜けていった。魔物の急所の核を軽い動作で的確に潰し、素材を量産していく。 「うん、新調してもらったこともあってとても戦いやすい。ありがとう亜麻髪」 「こっちの剣も振りやすい!礼を言うぞルナリオ!」  次に礼を言ってくれたのは同様に戦っているシュトルムだ。彼の場合は身分が身分だから中衛にいる。敵の動きを見切り、避けては隙をついて一撃を丁寧に入れていた。自衛に特化しているのか、カウンターを中心に戦っていた。そのよけ方が美しく、見入ってしまうほどだ。  そんな彼らの武器を作ったのは俺だった。このプリエスティラ新農場物語はプレイヤーが自分で武器を作る。俺は農作業の合間に、希望者の武器を新調していった。武器によるステータスの加算はかなり大きい。故に、二人とも相当にステータスが底上げされている。  一方俺も素材を得るためにモンスターを狩っていったのでちゃんとレベルも上がっている。けれど、護衛対象がじっとしているのと動いているのではソラスの難易度が変わってしまうのだ。  彼が俺を守りやすいように派手には動かず、けれど俺も積極的に攻撃をしよう。  新しく覚えた氷魔法で狼の魔物の足止めをしていく。それをシュトルムや護衛達が切り捨てていった。  ソラスは俺が近くにいると剣を振れないため彼もまた魔法で応戦していった。雷の最上級魔法だ。それを遠方に降らせる。  すごい、俺の魔法が遊びにしか見えなくなってくるスケールの違いだ。護衛達も状況を忘れてうっとりと眺めていた。前を見なさい前を。  けれど、|お《・》|か《・》|し《・》|い《・》。俺がおらずとも誰がどう見ても圧倒的な戦力差で制圧している。|な《・》|の《・》|に《・》|、《・》|俺《・》|は《・》|一《・》|度《・》|死《・》|ん《・》|で《・》|い《・》|る《・》|。《・》  俺は警戒しつつも、馬車をじっと見た。すると、馬車めがけて木が倒れだすことに気が付く。 「アイスエッジ!!」  急いで倒れかけの木に向かって氷魔法を打つが、時すでに遅し。木の重みで馬車はへしゃげてしまった。 (木の中が腐ってたんだ・・・!)  木に詳しい人は、木の傍で寝泊まりすることを危険と判断し、周囲に木が無い場所を選ぶか、一本一本倒れる可能性が無いかを調べるという。木は素人目に表向きは健康でも、実は急に倒れてくることがある。よく風防止ということで木の隣にテントを張る人も多いが、実際にそれで倒木による死亡事故も起きているほどだ。  おそらくいつ倒れてもおかしくない木が魔物の襲撃の何かしらの地響きの余波を受け、倒れてきたのだ。  周辺の魔物はあらかた始末したらしい。シュトルムは号令をかける。  護衛達は全員無事だったようだ。お互いの無事を肩をたたき合って喜びあっている。普通に婿候補たちが強すぎた。  一方俺はつぶれた馬車に近づく。俺の座っていた場所には丁度綺麗に幹があった。本当だったらここで身を縮め、ソラスには守ってもらいやすいように俺なりの配慮をする予定だったのだ。  無防備な頭に大木が落ちる。それを本当であったら俺は一度経験しているのだ。  そして過去にもそんなことは何度もあったのだと推察が出来る。 (けれど、けれどそれはおかしい!!!)  俺は偶然二枚のクッキーに気が付いたのだ。クッキーに気が付いたから外に出た。  死に返りとは、死んで、その記憶を保有しなくては死を回避できない。なぜなら記憶が無ければ同じ行動をとるに決まっているからだ。  シュトルムが俺に近づいて馬車の確認と俺の怪我の確認をしてきた。  トゥルニテも近づいてきて、武器の礼を重ねて伝えてくれた。  ソラスは護衛達数人から感動のあまりに思いを述べられていた。  俺は彼らに生返事を返しながら、頭の中は別のことでいっぱいだった。  さっきの状況のソラスを思い出す。 『ルナリオ!外に出て僕と一緒に行動を!』  あの発言は、俺を外へと誘導するものだった。まるで知っていたかのように。  いや、思えばいままでも明らかに怪しい点はあった。  レッドドラゴンの討伐の時だ。そんなにタイミングよく現れるものだろうか?  トゥルニテの夜間襲撃の時も実際に襲われるより早く気が付いたのはソラスではなかったか?  今思えば地下牢の一件でソラスが話を聞かずに真っ先に護衛の首を狙ったのも不思議だった。あれは、あの護衛が死にかけたから護衛をやめたのではなく、あの護衛が裏切ると知っていたからではないか?  疑念が疑念を呼ぶ。ソラスはこれを機にサインを下さいとせがまれていて大変そうだった。 (…いや、追及は後にしよう。レインさんを助けてからの方がいい)  仮にソラスが時間をさかのぼっていたとして、それは俺を助けるためだ。それは間違いない。俺は記憶もなく痛みも覚えていない。俺に不利益は無いんだ。だから、今はそっとしておこう。  けれど、気持ち悪い。自分が死んでいるんだ。ただそのことに身震いした。  死にゲーという覚悟は出来ていた。死んででも果たそうとマルグリット妃に啖呵を切ったことだってあった。けれど、本当に死んでいたことについての覚悟までは出来ていなかった。  ソラスは俺が馬車の前で気分が悪そうにしていることに気が付いた。そっと近づき、別の場所へ肩に手を置いて誘導をする。その優しさが、今は心に痛かった。 「よーし、お前ら。再出発するぞ!」  シュトルムの号令がかかる。王都へ向かう一団は再び準備を整え、目的地へ向けて出発を始めた。  そして俺は今、ソラスと一緒に同じ馬に乗っていた。さっき馬車が壊れたためである。 「いやだ!馬に相乗りでもソラスだけはやめて欲しい!!」 「いやでもなあ、乗せてやりてえのはやまやまだが、俺は陣営の指揮を執るので忙しいからなあ。他の連中も荷物を括り付けているし」  荷馬車ならあるぞ?と言われたが、荷馬車は嫌だった。さっき、視覚の外から即死が降ってきたのである。視界が防がれる乗り物をしばらく乗れない気がする。俺と同様に馬車に乗っていたトゥルニテは馬車を引っ張っていた馬を借りていった。「俺も相乗りはしたことがない」とさっき断られた。  いや、我がままはやめよう。そもそもシュトルムも、もともとは馬に乗れない俺のために馬車を用意してくれたのだ。それだけしてくれた人にこれ以上迷惑をかけるのは良くない。俺は観念してソラスに近づく。 「あのね、ソラス。俺、走る馬に乗るの初めてなんだ。絶対落とさないようにしてね」 「はい大丈夫ですよ。狩った獲物を馬に括り付けて走ったこともありますから慣れています」 「今、俺狩った獲物と一緒にされた?」  そんなこんなでソラスの前に座り、一緒に仲良く騎乗していた。生き物に乗ることに慣れず、しかもみんなのアイドルと密着状態だ。俺はこのアイドルの推しでも何でもないのに、推しの取り巻きから怒りを買う真似をしている。  不服だ。死んだ目で乗っていると、周囲にも俺の心境が伝わったのか、休憩中に護衛の方々から優しく声をかけられた。

ともだちにシェアしよう!