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第31話英雄の凱旋
魔物の群れから襲われるハプニングはあったが、なんとか王都が見えてきた。現代人にとってはあまりの日程の長さにもう二度と来たいと思わなくなるほど長旅ではあったが。ソラスは昨日から兜を再び装着していた。目的地が一緒の人たちに見られて騒ぎになるのが嫌なのだろう。
「全身の筋肉という筋肉が痛い。尻も痛い。心なしか骨まで痛い。そして相乗りのせいで心も痛い。」
「お疲れ様。よし、王都を通過するには門を通る必要がある。全員肩の力を抜いてくれ」
「よかった…やっと休めるんだな…。…あれ?門の前、人が多くないか?」
かなりの長蛇の列だった。
「王都は活気があるから商人が頻繁にやってくるんだよ。いま一人一人身元のチェックをしているんだ。…それにしてもいつもより五倍くらい多くないか?こりゃ今日中に入れるかね」
「そんなにかかるの!?嫌だ、今すぐ休みたい。貴族専用とかないのか?」
これは貴族特権思想による発言ではなく、今回領主は王から招集をされているのだ。なにか優先権をあったとしてもいい気がすると俺は思う。
「あることはあるんだけどなあ。貴族を優先しすぎた結果、民間が全然進まなくなって面倒ごとが起きたんだよ過去に。だから民間が5件終わったら貴族が優先で1というように調整するっていうシステムになっちまった。それを込みで今日中に終わらない気がするんだよ」
その発言を受け、俺はソラスをじっと見る。シュトルムも俺の意図を理解したのだろう。ソラスの反応を観察していた。
「…ルナリオ。僕は見世物になる行為が好きではありません」
「それはそうだよな。俺だって同じ立場なら嫌だ。ごめんなさい無理強いをして」
「いえ、こちらこそルナリオには迷惑をかけます。僕の我がままであなたの時間を無駄にする」
「いいんだ、あんまり貴方とゆっくり会話を出来ていなかったから、今からいろいろ話そうよ」
俺たちは和やかな空気になる。俺は馬に乗っている自分の体を横に向け、ソラスの顔が見られるような角度に変える。兜で表情は見えないが、嬉しそうなのが伝わってきた。そんな中、俺はふとあることが気になった。
「あの前にいる商団、積んでいる荷物は大量の瓶かな。不思議だよね。あんなに大量にあってなんで割れないんだろう。俺は骨までこんなに痛いのに」
俺たちの前に並んでいる商隊だ。この列に並ぶということは、貴族の経営する商団だろう。仕立てのいい服を着た帽子をかぶっているあの中年の男性がおそらくはこの隊のトップなのだろう。コホコホと咳をしているので非常に目に留まる。顔も青白いけれど、この列に長時間並んでいるための疲労のせいだろう。自分たちの売り物をまさぐり、何かを飲んでは一息ついている。
「あれは魔法で加工された瓶だな。中にジュースが入ってるんだとよ。特殊な技術でガラスを加工しててな。ほら、瓶に女神が彫られてるだろ?」
「本当だ。江戸切子みたいな削り方」
「あの模様に瓶の耐久性と中身の保存性を高める効果があるらしいですね」
へえ、と思い俺はじっと瓶を見つめる。瓶は一つ一つが女神の柄をしていた。目を掘るとコスト的に大変なのか、目をつむったデザインが施されている。どれも同じ柄をしていてとてもおしゃれだ。こちらのその視線に気がついたのか、隊長らしきおじさんは気前よく購入させてくれた。ソラスは兜をとるわけにはいかないので俺が飲んでいる姿をじっと見ている。俺が代わりにいただく。
「・・・なんか、アロエっていうのか?それともココナッツとでもいうのかな。それにヤシの実のジュースを混ぜて3で割ったような味がする」
「どれどれ」
シュトルムも一本購入し、飲んでいる。
「んん…?気のせいか」
「どうしたの」
「昔飲んだことがあるような風味がするような…ないような…」
煮え切れない反応をしている。おじさんは「『女神のまどろみ』っていう商品でして、今これ王都で大流行りなんですよ~。いやあ、お恥ずかしながら私は最近体調が芳しくないのですが、この商機を逃したら駄目だと思って今日は無理に来たんですよね~」と説明してくれた。別においしくはなかったが、特段高いわけでもないのでネタとして飲まれているのだろう。一瞬で流行りは去りそうだ。
「確かにこの味、飲んだことある。鼻を抜ける変なかんじ。幼いころ飲んだジュースだった気が。」
トゥルニテも個人で購入していた。幼いころ…。トゥルニテも砂漠の国の出身だ。何かの特産品だろうか。女神の瓶のデザインから甘いジュースだとでも思ったのだろう。一口で気に入らない味と判断して捨てていた。
おじさんは瓶は回収するね~と言ってごみをもっていってくれた。妙なジュースに金を使おうと思ってしまうほど、ここにいるメンバー、全員暇そうである。
この近辺は遮蔽物もない。風がふわっと吹いた。こんのように風の心地を感じているのも、暇つぶしの一種とつい思ってしまうほどに暇だった。風の力を受けシュトルムの首元からシャララという音が鳴る。
「そういえばシュトルム、その首飾り外さないの?」
「あ~これか?これはそんなにポンポン外していいもんじゃあねえの」
「いや…でも今は外した方がいいんじゃない?」
シュトルムはなんで?と聞き返そうとしたが、周りの商団がこそこそとこちらを見ているのに気が付く。
「あの見事なロケットの首飾り、辺境の事件紹介でイラストとともに記事に出ていなかったか?」
「|血染め《ブラッディ》|の首飾り《ディッセンダント》だよな。もしかしてあれ、今話題の辺境領主じゃないか?」
「あれ?辺境領と言えば…」
段々と、視線がソラスの甲冑に集まりだす。そしてソラスの甲冑を見るということは、手前に密着している俺のことも目に入るということだ。これは、まずい。
周囲がそわそわとし始めてきた。俺はそーっと馬を降りようとしたがソラスに妨害される。勝手に抜けて近くを散歩しようとしてると思ったのだろう。腕をぐっと掴まれた。
「あの…ひょっとしてシュトルム様御一行でございましょうか…?」
門番さんが順番を飛ばして俺たちに喋りかけてきた。もう、こうなったらシュトルムにとれる手段は一つしかない。
「ああ…そうだ…」
肯定のみだ。
そして、そこからの流れは怒涛だった。
俺たちは本来であれば門から王都の別荘へ直接移っていくはずが、急遽王城に行き先を変更させての英雄の凱旋が始まったのだ。警備の人たちは大慌てで道の整備をはじめ、見物客が道に押し寄せた。先ほどの大量の商談はソラスによる特需を狙ったものだったらしい。
俺たち一行は馬から降りて歩き、ただソラスだけが馬に乗っては民衆からの視線を集めていた。
「ソラス様ー!!!」
「ソラス様応援していますー!!!」
王都の住人たちが一生懸命叫んでいる。なにこれ。そのソラスの馬の真横を俺とシュトルムが罪人のように死んだ目をして歩いていた。
シュトルムは一生懸命突っ込む。
「なにこれ?魔王を討ち取った並みに盛り上がってんじゃん。なにこれ?」
「え?やっぱりこれ、異常なんだね?なに?英雄だか何だか知らないけど、王都に戻っただけでこんなに盛り上がるってこと普通ある?」
「一応この隊の主役は俺なんだけど?一応あいつ公爵家っぽいけど、最高責任者俺なんですけど?」
ソラスは公爵家なのか。それは初耳情報だった。するとシュトルムより確かに身分は上になる。
「公爵と言っても、領地をもたない公爵家です。加えて、統治の才能を持った弟が後を引き継ぎますので、僕はあくまでただの戦士です」
民衆は中には子供を肩車して喜ぶくらい熱狂していた。テーマパークかな?
すごい、興味のない大人気アイドルが連日テレビに出てきて辟易するのと同じ気持ちになれる。
ソラスは兜を取っていないが、彼からもなんだか疲れが見える気がする。やはり見世物になるのは嫌なのだ。
「経済効果と、対魔王への不満が国王に向くのを僕の存在で逸らしているんですよ。だから僕が辺境に出向いていた時には大騒ぎだったそうです。最近は外部からの戦争の抑止力にさえ僕を利用している」
俺とシュトルムはゆっくり馬で動くソラスの傍にいて、彼の話を静かに聞いていた。周りが騒がしいのと対照的に。俺たちもまさに望んでいない立場で振り回された側の人間だ。気持ちは痛いほどわかる。だからこそ誰も彼を責められなかった。
「にしてもこの熱狂は異常だよな。なにかの不安を払拭するために騒いでいるような、そんな気がする」
確かに、よく見るとソラスの名を叫ぶ人たちは、命の限り叫ぶような、そんな必死さを感じる。さっきから間近で叫ばれて耳が痛い。
「魔物の活発化は今に始まったことじゃないよね。どうしてこんなに必死なんだろう」
「ひょっとして王都になにかしら事件が起こっている可能性はありますね。探ってみる必要がありそうです」
王都を歩いて情報収集か。トゥルニテは聞きこみは苦手そうだからこれは俺がやろう。しかしここで俺は頭数が一つ足りないことに気が付く。
「あれ、トゥルニテがいない。どこ行ったんだろう」
「ああ、先ほど人ごみに紛れてどこかに行ってしまいました。人目が集まるところは歩きたくないのでしょう」
「えっ!俺もそうすればよかった」
実はさっきから民からの視線が痛くて辛いのだ。この一団、俺以外のメンバーは騎士の格好かシュトルムのように軽装ではあるが品を感じる貴族としての格好をしている。すると、明らかに麦わら帽子を被って普通の旅装束の格好をして歩いている俺がまあ浮く。それをトップアイドルの隣で歩いているため、さっきから「誰あの子」と突き刺すような見えない攻撃がまあすごい。
気持ちは分かる。俺もレインさんの隣に芋が歩いていたら絶対嫌だ。
「ああ…。トゥルニテ、俺に一言言ってくれてもよかったのに」
「もしルナリオが離れかけていたなら、捕まえてこの馬に一緒に乗って貰っていました」
「それ俺があなたの過激ファンから闇討ちされるだろうが!!」
とはいえ、実際に離れることはしなかっただろう。おそらく、ソラスの時間逆行は俺の死を契機にしている。離れて何かがあったとき、心底困るのだろう。どうしてソラスがここまで俺に過保護だったのかがようやくわかった。離れられると純粋に迷惑なのだ。だから、俺がシュリイ妃に連行されて地下牢に行ったとき、激怒していたんだ。
心配してくれたからと思っていたため、俺はちょっと落ち込む。いや、あれは確かに俺が勝手に動いたから俺が悪いのだけども。
「ねえソラス。俺が辺境でシュリイ妃によって地下牢に連行されたとき、どう思った?」
ソラスは俺の方を見る。しかし俺は彼と目を合わすことが出来なかった。
「・・・この世の終わりかと思いました。とても心配しました。」
「ふふ、そっか」
「え?お前心配かけたのに笑ってんの?どういうこと?」
俺たちの話を聞いてたシュトルムに突っ込まれるが、俺は今の返答に満足した。俺たちの間に、何かしら友情のようなものでも芽生えていたのなら、とても嬉しい。
彼が過保護だった理由も分かり、いろいろ納得できた。それが分かった以上は俺も迷惑をかけないようにしなくては。
「前にも俺はここに来たことがあったが、王城までってこんなに遠かったか?」
シュトルムが話題を切り替え、俺は王城がある方向へ顔を向ける。確かに俺たち、何分歩いてるんだろう。ゆっくり進んでいるせいで全然距離を縮められている気がしない。
「あれ?というかこの流れだと、俺も王城へ行く感じか…?」
2人とも静かに首を縦に振る。まずい、王城へ行くということはお偉いさんに会うということになるだろうに、俺は貴族的な振る舞いを何も知らない。
絶望的な心持ちで王城へ向かうのだった…。
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