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第33話自室問題

 王家保有の温室の一角を借りることが出来た。  現在俺たちは三人で動いており、王子の護衛は席を外している。ソラス一人で護衛は過剰すぎるから、王子たっての願いで数時間の休憩に入って貰っているのだ。  どうにも王子の護衛は教育係も兼ねており、なかなかに教育方針が厳しい。土いじりは平民の行為ということで本来なら指導を入れるところ、今回は客人の歓待ということもあって特別に許されたという。  王族側が騎士に配慮ってどういうことだ。    俺たちがたどり着いた温室はガラス張りになっており、この世界には珍しい最新鋭の建築デザインが取り入れられていた。気温の調整もしているらしく、あたたかな空気が漂う。 「ここだったら日当たりもいいし、丁度いいのではないでしょうか」  王子のサラサラなその金髪が綺麗な天使の輪をくっきりと作るほど日当たりもいい。  今王子が手元に持っている種が何なのかは分からない。元来種は季節を外すと発芽しないので本当は良くないが、この世界は季節を外してもなんだかんだで成長する不思議な世界なので植えられるものは積極的に植えてみよう。  王子は小さなスコップを使って庭師から分けてもらった培養土等を植木鉢に一生懸命入れていた。スコップで土を掬ってはさらさらと入れ、そしてぽんぽんと叩いていた。その一連の動作がかわいらしくて思わず笑顔になってしまう。まずはぎこちなくても全部やってみてもらおう。  土を全部入れ切った王子は中央にくぼみを作り、種をそっと入れ、さらに土を被せた。俺は水を用意しようと、じょうろに向かって水魔法を放つ。しかし、水鉄砲のように出るはずの水は、壊れた蛇口のようにちょろちょろとしか出なかった。 「・・・あれ?魔法が上手くできないな」 「ルナリオは畑でよく水を撒いてますから、水魔法は得意でしたよね。疲れではありませんか?」  俺の異変に気が付いたソラスは、心配そうに俺に尋ねる。確かに疲れてはいたが、それより王子との時間が楽しいのでアドレナリンが出ているというかなんというか。 「僕が代わりに水を出します。じょうろを貸してください」 「ソラスも疲れてるだろうに護衛だったり今だったり本当にありがとう」  彼は死を招くその厄介な設定とは裏腹に、中身は本当に優しいんだなと一緒に過ごして理解できた。不幸をまき散らすのは本当にやめて欲しいが、けれど彼が望んでやっていることではない。だから恐怖半分、信頼半分の気持ちを今は抱けている。  あの正体不明の甲冑時代がなければここまで仲良くなれなかったのだと今ならそう思える。    植えるのを終えた王子は、手袋を外し座りながら俺の袖をくいくいと引っ張る。 「あの…ルナリオ。折角なら他の種も植えてみたいんです。何か持っていませんか?」  王子は甘えた子犬のようにおねだりをしてきた。俺の疲れもすべて吹き飛ぶ。  使用していないプランターがあるとのことなので、それを利用させてもらうことにする。 「ではいちごとプチトマトを作ってみましょうか!」 「ルナリオ、ダメです。あなたは疲れているのですから作業はここまでです」  王子の意見に賛同した俺と対照的に、ソラスは俺の腕を引っ張る。 「いやでも、王子殿下といるの楽しいから、疲れなんて…」 「駄目です。先ほどの魔法は流石に異常でした」  ソラスの圧が強い。俺は彼の意見に屈することにした。王子はぷくーっと頬を膨らませ、不機嫌そうにソラスを見る。しかし俺の体を慮ったのか、渋々と意見に乗るのだった。 「大丈夫ですよ殿下、まだ滞在予定ですのでまた植えられますから」 「本当ですか!?」  また会えることに、今度は満面の笑みを浮かべる。本当に表情がコロコロ変わる子だ。どうしてこんなに俺に懐いてくれているのか。原因は弁護の一件だけでない気がする。理由はまた後日聞くことにしよう。  俺たちは王子を護衛のところまで送り届け、自室に戻ることにした。隣室に部屋があるという配置で、万が一の時は護衛対象に駆け付けられるように中側にも出入り口のドアが設置されている。どこから入手したのかは知らないが、ソラスが俺の護衛に当たっているという情報は王子側に知られているものの、身分的な立場ではソラスの方が上なので部屋のランクは一緒にしているようだ。  王子は護衛部屋と言っていたが護衛が主人と同等の部屋になるわけがない。これはおそらく、本来は婚約者同士が使用する用途なのだと邪推する。 「じゃあソラス、また明日。今日はお互い本当に疲れただろうからゆっくり休もうか」  道中で浄化魔法は使ってもらったが、正直一回風呂に入りたい。浴槽はあるようで、水の術式が組まれた蛇口はいつでも暖かいお湯が出せるらしい。  俺は彼に挨拶をして、今日はお互い自分の部屋で休む。  はずだった。  ソラスは無言のまま俺についてきて、そのまま部屋に入ってきたのだ。 「・・・あの、こっちは俺の部屋だけど」 「知っています」 「知っているかどうかじゃなくてね。あ、もしかしてこっちの部屋がよかった?なら俺があっち行くよ」 「なら僕もあちらに行きます」  これまで何度もソラスの行動を理解できないことはあったが今日はさらに意味が分からない。例え俺が重要な存在であったとしても、頑丈な扉と隣にはソラスがいるんだ。さすがにここまでの厳重な守りで何かが起こるとは思えない。俺の部屋に入るなり、兜を取って我が部屋かのように置き始めた。 「あの、理由を聞いてもいいかな」 「貴方がこっそり抜け出す可能性があるからです」 「レインさんのことで俺を疑ってるの!?まだ場所が特定出来ていないからそんな無鉄砲には動かないけど!?」 「シュトルムの時は無鉄砲だったでしょう」  まだあの時のことを根に持っている。家にいる時も何かにつけてあの時のことを例に挙げては責めてくるのだ。 「はあ…でもね、ベッドは一つなのにどうするんだ?」 「僕はベッドサイドで座って眠るので大丈夫です」 「そうやって変な姿勢でしっかり休息を取らなかったからあのとき爆睡したんだろ」  痛いところを疲れたようで、ソラスは一瞬顔をそむける。 「う…。でしたらこれだけ広いですし一緒に寝ましょう」 「こっちのベッドに使用形跡があって、あっちになかったら俺達噂されちゃうでしょうが!!」 「・・・・?それが何か?」 「問題大ありだけど!?」  俺にはレインさんという心に決めたパートナーがいるのに噂になったらどうしてくれるんだ。  丁度その時、外に面する窓からコンコンと叩く音が聞こえた。ここは1階でもないのに外から音が聞こえるのは普通ではない。  が、ソラスは警戒せず、窓をスッと開けた。するとトゥルニテがするっと室内に入ってきた。 「お前たち、喧嘩か?取り込み中だったら後にするけど…?」  トゥルニテは面倒くさそうにしている。 「トゥルニテ偵察お疲れ様。俺の実家にいるはずのレインさんはどうだった?」 「シャリオット邸へ捜索しに行ったが、確かに客室にいた。けれど、周囲は見張りが囲っていて助けるにも相当難しい」  レインさんは一応客人ということでシャリオット伯に泊められている。これは、鞭ではなく飴を渡すことでさらなる研究成果を、という目論見だ。殺すこともできるが、利益にがめついシャリオット伯は飼いならす方を優先したのだ。彼の植物への知識の深さを目当てに。 「その時に藍毛と話してきたんだが…」 「レインさんと話してきたの!?」  すごい、流石は凄腕の暗殺者。自分一人だけならどんなところでもするっと乗り込めるのだろう。まだ明るい時間に偵察をしただろうに、なんという技術。本当に彼が味方で良かった。 「『妹が人質にとられている以上は僕は彼らに協力をせざるを得ないんだ。僕のことは見捨てて、君たちは帰ってほしい』と言っていた」 「レインさん…」  妹のプリマヴェーラが人質にとられているのはゲームでも同じ流れだったため本当だ。けれど、一般人に刺客が扮装しており、残念ながら彼女を守れるいい手立てがなかった。しかし彼女をここに連れてくればレインさん救出という狙いがばれる可能性も高い。  ゲームでは、邸宅内に魔物を非合法に育てている檻を破壊し、騒動の隙に逃げ出していた。ちょうど魔物が自分を食べたかのように偽装して、無事に帰ることが出来たのだ。ゲームとこの現実ではレインさんが捕らわれている箇所は違うものの、魔物は研究用に飼われていたのだ。おそらく実家にもあると想定することができる。 「邸宅内に魔物っていたか?シャリオットの人間によって育てられていると思うんだけど」 「魔物?ああ、確かにいた。けれど、夕方あたりに家のもの全員で掃討していた」 「掃討って、全部殺処分したってこと!?」  トゥルニテはこくんとうなずく。これはまずい。当てが大きく外れた。シャリオットでは、新薬の開発のために犯罪と知りつつも魔物を使っていた。しかしそれが突然殺処分されたという。俺は当初の予定では魔物の檻を破壊しするのはやや危険なので、魔物を育ててることを告発する予定だったのだ。しかし違うルートを捜す必要が出てきた。 「どうして突然殺処分したんだ?一体何がきっかけで…」 「そこまでは分からなかった。みんな慌てたように武器をもって魔物に刺していたのは分かった」  そこまで言ってトゥルニテはファ~とあくびをした。長旅の疲れをこらえて偵察に行ってくれたのだ。本当に感謝しかない。 「トゥルニテ、本当にありがとう。またお願いしたいことがあったら頼むよ」 「うん…分かった…」  もともと夜の職業だったのに、ここ最近は俺に合わせて昼に体内時計を調節してくれていた。成長期なのもあってもう限界なのだろう。あ、そうだ 「今日は一体どこで寝る予定なんだ?よければ隣の部屋にベッドがあるんだけど」 「え?本当?なら使ってく」  トゥルニテは隣の部屋につながる扉を開ける。それに俺もついていくことにした。  しかし、ソラスが俺の腕を掴んでくる。 「ソラス、離してくれ。俺とトゥルニテが一緒に寝れば護衛も噂も全部解決だ。あなたもしっかり熟睡が出来る。ウィンウィンなんだ」 「駄目です。許しません」  隣の部屋に進もうとする俺を強引に止めてくる。彼は俺の腕を片手で掴んでいるだけだがビクともしない。トゥルニテは目を半開きにしながら、俺たちの問答に気が付いた。 「ああ、ベッドが二つしかないのか。俺は別に亜麻髪と同じベッドでもいいけど…?」 「トゥルニテ…!!」 「でも俺、抱き枕とか毎晩綿が飛び出るくらい強く抱きしめるから、たぶん無事じゃ済まないよ?」  前言撤回。トゥルニテと寝るのはやめよう。  ソラスはトゥルニテが出ていった部屋に鍵をかける。あくまで貴族が寝泊まりすることを想定した部屋だ。夜這い防止目的に一応付けているのだろう。 「これでベッドが未使用による噂も解決しましたね。ええ、良かったです」  本当は風呂に入りたかったのに、今ここで風呂に入ったら本当に嫌なムードになる。何がとは言わないが。  浄化魔法をかけてもらい、俺は寝ることにした。先にベッドに入って隅っこの方で横になる。ソラスは反対側に腰を掛け、首から下の鎧を一つずつ外していく。武装が解除されていくたびに床に丁寧に金属が置かれる独特の音が響く。それがまるで服を脱いでるかのように官能的であるため、妙に落ち着かない。 (いやでも、向こうもそんな気がないのにこっちが勝手に気にしていたらやってられないよな。男同士だしもっと気楽に過ごした方が向こうも護衛がしやすいか)  ということで俺はベッドの中央にもう少し寄り、もろもろのことは気にしないことにした。だって本当にそういう関係ではないのだから。ベッドは日本の規格のダブルベッドよりも1.5倍くらい大きい。遠慮することもないよな。すると疲れもあってか意識が段々と遠のいていく。俺は目を瞑って睡魔に身を委ねよう。  一方ソラスはすべての装備を外し終え、ベッドに上がった。ベッドは重みによってギシ…と悲鳴を上げる。その音によって、目を瞑ったままではあるが、とびかけていた意識は再び覚醒する。  ソラスは俺のことを眠っていると思っているようだ。俺の顔に掛かった亜麻色の髪を指で丁寧に払いのけ、そのままじっと見ているようだ。視線を感じる。  そして自分も掛布団を捲り、体を滑り込ませる。 (え…?)  起こさぬように優しく、ソラスは俺を抱きしめたのだった。

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