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第36話精霊術

「なんでお前、避けなかったんだよ!!余裕でかわせただろ!!!」 「ルナリオ。わざと叩かれようとした事情は察します。けれど、体を張る理由はありませんでした」  義妹から平手打ちされた後、俺は二人からこんこんと説教をされた。受け身はとったから響いた音ほどは全然痛くないからといったのだが、今は正座をさせられている。二人はかわるがわる俺に説教をしており、深く反省を促してきた。俺は被害者なんだけどなあ…。  しかしそのような腑に落ちない状況になっている一方で、俺の内心は先ほどのソラスの行動に恐怖を抱いていた。あれは、明らかに俺の義妹を殺そうとしていた。それもただの殺しではない。トゥルニテのように依頼を請け負ってのものでもない。  |騎《・》|士《・》|と《・》|い《・》|う《・》|立《・》|場《・》|の《・》|人《・》|間《・》|が《・》|。《・》|背《・》|後《・》|か《・》|ら《・》|。《・》|女《・》|性《・》|を《・》|手《・》|に《・》|か《・》|け《・》|よ《・》|う《・》|と《・》|し《・》|た《・》|の《・》|だ《・》|。《・》  殺気すらなかった。ただ、目の前に邪魔な荷物が転がっていたからどけようとした、それくらいの気持ちで彼は手を伸ばしたのだ。故にその異常性に俺以外の誰も気が付けなかった。  ますます彼のことが分からない。俺たちと一緒に過ごしていたソラスは優しかった。しかしさっきの彼はただ冷酷の一言だった。俺がただ叩かれたというだけでそこまで報復に出ようと思うほどなのだろうか。  俺はソラスのことを何も知らない。彼もまた自分のことを何も語らない。  果たしてこのままの関係でいいのだろうか。何も彼のことを知らず、ただ守られるだけの存在でいて。  やはり、レインさんを救出して一緒に家に戻ったら、じっくりと話し合う必要がある。俺はそう決心した。 「なあおい、人が説教してんのに随分な態度だなあお前」  シュトルムは腰をかがめ俺の顔を上から覗く。しまった、今は説教中だった。シュトルムのこめかみはぴくぴくとしている。まずい、全然聞いていなかった。こういうのは第一に反省しているということを態度で表すのが大事だ。 「うん、次からは気を付けるよ!!」  俺は元気に宣言した。「絶対お前聞いてなかっただろうが!!!」と軽い蹴りを入れられた。一応は怪我人なのでいつもより優しい蹴りではあった。  シュトルムと別れ、俺たちは王城の部屋に戻ることにした。王子はふたたび俺の元へ遊びに来てくれたので、一緒に温室で楽しむことにする。最初俺の腫れている顔に王子はすごく驚いた表情をしたが、見た目ほどひどくないという説明をすると悲しそうな表情と共に優しくなでてくれた。  すごい、怪我人を正座させる二人とは全然優しさが違う。  土を弄ることに彼の護衛は良い顔をしなかったものの、ソラスの前で強く出ることは出来なかった。これ幸いにと今日も楽しく作業をすることを決める。  すると、昨日植えた植木鉢から不思議な光景が見られた。昨日植えたはずの植木鉢に、すでに実っていたのだ。  成長速度が早いこの世界でもこれはかなりの異例だ。俺と王子は顔を合わせた。 「種、なんだか変わったものが実りましたね」  その実は鬼灯の繊維の中に、ビー玉のような光る球が浮いている見たこともない植物だった。 「これは、|聖霊種《せいれいしゅ》ですね。本では見ましたが僕も初めて見ました」  ソラスも興味津々というように眺めていた。|実《み》は一株に4つほど実っており、王子は一つ採ってはまじまじと観察していた。 「曰く、種の中の甘い液を一滴舐めるだけでも生命力を吹き込む効果があるとのことです。つまり毒から守ってくれる効果があるそうで、国王の座に就くものは代々必ず身に着けているのですよ。」 「殿下、これは相当貴重な実です。太陽の光が当たった日数と、月の光が当たった日数と、土の加減と水分量。すべてがかみ合っていないと芽すら出ないはずの」  ソラスから見ても相当貴重らしい。しかし、俺たちは本当になんとなく試しに植えただけでそんなすごいものだとは思わなかった。それも1日で。 「実はルナリオと一緒に植えたのがうれしくて、昨日こっそり抜け出してはここで祈っていたのです。願いが通じて私、とても嬉しいです」  王子の柔らかな微笑みは天使のように美しかった。それにしても、祈るだけで植物が成長するのは初めて聞いた。 「精霊術の一種ですね。殿下はそれをお使いになられたのでしょう」 「そういえばエシュテスも言っていたけどその精霊術?ってなんだ?」 「精霊から力を借りる御業です。例えば桃色の彼女の回復魔法、あれも魔法という言葉を使っていますが、正しくは精霊術です」  シュトルムが刺客に追われていた時、プリマヴェーラが回復をしていた光景を思い出す。  ソラスが解説するには、水や火を起こすことなどを魔法といい、回復や植物の成長の促進のように精霊から力を借りるのが精霊術。魔に属するのが魔法で聖に属するのが精霊術。  どれも不思議パワーということで魔法呼称ではだめなのだろうか。 「駄目です。誰もが魔力と精霊力の両方をもっていますが、どちらが欠けても人間の活動は停止します。例えば精霊力が多くて魔力が少なくても、精霊力が体を一方的に蝕みます。逆もしかり。人体は緻密なバランスで出来ているんですよ。ただ、精霊力の方はそれを技として使える人間の方が少なく、希少ではありますが」 「ということは殿下は凄いんですね…!!」  にしても精霊術。始めて聞いた。ゲームでそんな設定は無かったはずだ。すべて「魔法」というくくりにされていた。そういう細かい分類をしたところでプレイヤーはついていけないのだろう。 「僕も精霊術は使えるんですよ。身体の汚れの浄化、あれもそうです」  ソラスは一生懸命アピールしてくる。貴方は公式チートなのだから使えても驚きはしないし、そもそも王子に対抗しないで欲しい。いい大人なんだから。  俺も何か精霊の加護を持っていないかと思い試しに祈ってみたが何も起こらなかった。土いじりゲームの主人公でこんなに才能無いことってあるんだ。 「もし私の、この才能があれば辺境のルナリオの畑を手伝うことは出来ますか?」  王子は俺に目を輝かせながら聞いてくる。まさか、俺の畑を手伝いたいから土いじりに興味を持ってくれたのだろうか。自分のやっている仕事に興味を持ってもらえるというのは本当に嬉しい。俺はもちろんと返そうとした。しかし。 「いいえ、ルナリオの農作は僕がいますので人手は足りております。殿下は次期王としてしっかり励んでください」  隣から大人げない一撃が入る。今とてもいい空気だったのに突然無慈悲に壊された。王子はぐぬぬ…という顔をし、しかし何かを思いついたのか俺にくっついてスリスリし始めた。 「ルナリオはどう思いますか?私がいて、迷惑でしょうか…?」 「いえいえ、俺としては殿下のことは大歓迎ですのでいつでも来てください!」  ソラスが王子を見る目は射殺すように怖かった。一方の王子はソラスにベーっとしていた。かわいかった。なんか今日のソラスは機嫌が悪いのだろうか。あちらこちらで喧嘩をしている気がする。 「ルナリオ、この種は貴重なので是非貰っていってください。私は残りの種を植えて、この種が量産できないか調べてみます!」 「量産…。確かに一粒が相当貴重なら、大儲けできますものね」 「いえ、父上に使いたいのです」  しまった、金銭にがめつい自分の尺度で喋ってしまった。王子なのだから金銭には困っていないだろう。俺はアハハと笑ってごまかしながら、貴重なその一粒を受け取った。 「実はここだけの話、父上の体調が芳しくないのです。私がまだ幼いためかなり気を張っているのですが、もう長くないだろうといわれています」 「それでこの種を…。でもこの種は毒緩和目的であって、病気を治す効果ってあるんですか?」 「いいえ、やったことがありません。それはもう、最終手段で一か八かの賭けと言われていますから」  種は貴重だ。故に、いざという時の回復手段として確保してある。しかし、これを使用した場合は毒を防ぐ手段を持てなくなる。なおかつ彼の口ぶりからすると代々宝として渡されてきたのだろう。自分の病気で賭けにでるよりも、次の代に受け継がせたほうがいい、おそらく王はそう思い種を使わずにいるのだ。 「じゃあ今はこっそり治療してるっていうことなんですね」 「はい、一日に三度薬を飲んでいます」  薬。なんだかこの世界に来てからたびたび聞く単語だ。そして王都に来てからは例のあれについて悩まされている。王子の言っている薬がまさか、いや、そんなわけはないと思うけれど。 「一応…何の薬か伺ってもいいですか?」 「『慈悲の涙』です」  その言葉を聞き、俺の体に電気が走る。 俺とソラスは顔を強張らせた。まさか、まさかとは思ったが本当に「慈悲の涙」だったとは。俺たちは目配せをし、うなずく。 「あの、それがどうかしたのですか…?」 「王子、よく聞いてください」  それから俺たちはこの王都にくるまでの経緯を簡単に説明していった。  話が進むにつれて王子の顔は強張っていき、そして終わるや否や急いで王の自室へと走っていく。俺とソラスはそれについていくことにした。

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