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第39話解呪の方法

 ダーインスレイヴはMP消費に応じて威力を跳ね上げるロマン武器だ。たとえレベルが低くとも、格上を倒す可能性を秘めている。反面MPを全部消費するため、使用タイミングは慎重になる必要がある。  実は戦闘中に花瓶の破片を拾っておいた。さすがは王家の所持品だ、細かい金の細工は大変美しく、たったこの破片だけでも相当な値段が付くように見受けられた。 (ダーインスレイヴを足場無しで窓から投げようとしたら、破片がそのまま4つになっていた)  破片が一枚だったらダーインスレイヴを部屋内からそのまま投げる。  破片が二枚になっていたらダーインスレイヴをトゥルニテに経由する。  破片が三枚になっていたらファイアボールで気をそらした状態で投げる。  破片が四枚になっていたら氷の床を作ってその上を歩行して投げる。  破片が五枚なら…というように投げる前に法則を作っておいた。俺は少なくとも三回失敗して三回死んでいる計算にはなるが、作戦は功を奏した。 (さっきアイスフロアを使ってMPは消費されているけれど、俺のレベルだって上がっている!以前のレッドドラゴン戦とは威力は桁違いのはずだ…!!)  やはり王子との農作で水まきの調子が悪かったように、今も魔法の威力は落ちたままだ。アイスフロアは一度の投擲でボロボロと崩れ始める。  ダーインスレイヴを脇腹に受けた魔物は苦しそうにしてその高度を下げていく。しかし。 (駄目だ、逃げられる!!)  一撃で倒すことは出来なかった!!  故に苦しみに悶えるシュンネペイアは最後の力を振り絞り、逃走へと切り替えようとする。それに気が付いたトゥルニテは急いでとどめを刺そうとするが、しかしそれと同時に俺の体も落下を始めたのだ。敵を仕留めるよりも俺を拾うことを優先したトゥルニテは空中でキャッチし、部屋へと帰還する。 「はは、残念だけど俺の勝ちかな。それじゃあみんなまたどこかで・・・・・・・・っっ!?!?」  しかし言い終わるよりも先に、魔物の頭を大剣が貫いた。パールミルリスだった。 「ソラス!?!?」  ソラスは瀕死の激痛を味わいながらも、体を窓際にまで運び自らの大剣を魔物に投擲したのだった。もはやHPが辛うじてだったシュンネペイアに耐えられる道理などない。 「なんで、俺渾身の呪いで死なねえんだよクソがああああああ!!!」  シュンネペイアの悲鳴は響き渡り、そして体はやがて塵となって消えた。  トゥルニテのお姫様抱っこから降り、俺は急いでソラスに駆け寄る。 「ご、めんなさいルナリオ。あなたに経験を積んで、貰いたかったのに、僕が仕留めて…」 「そんなのはどうでもいいから!!なんで、敵を倒したのにソラスは治らないんだ!?」 「これは、呪術攻撃だ。術者が死んだところで恨みは消えない」  淡々と答えているようで、やはりトゥルニテもソラスが心配なのだろう。いつもより声のトーンが低い。 「陛下、まだ兵士を、呼ばないで、ください。僕が沈んだと知れ渡ると、魔物が、押し寄せます」  ドア付近で一部始終を見守っていた王は静かにうなずく。防音魔法は術者が敗れたことで解除された。しかし、それより先にソラスの隔離が必須だと判断する。俺たちは急いでかつて亡き王妃が使っていた隣の寝室にソラスを運び込もうとした。しかしソラスは最後の気力を振り絞り、自らベッドまで近づき、そこで倒れこみ気絶した。  かくいう俺もMPが空っぽになっている為、急いで保存食として取っておいたクッキーを胃に流しこむ。 「トゥルニテはこの術について何か知らないか?」 「俺は呪術は使わない。けど、同業で使ってるやつはいた」  俺はソラスをベッドの中央に何とか動かし、甲冑を外していった。 「まず大前提にここまで強い呪いを使う奴はいない。腐っても魔王幹部だ。けれど…」 「けれど?」 「それを込みでソラスさんが倒れる理由がないんだ。|何《・》|故《・》|な《・》|ら《・》|ソ《・》|ラ《・》|ス《・》|さ《・》|ん《・》|は《・》|聖《・》|騎《・》|士《・》|だ《・》|か《・》|ら《・》|、《・》|呪《・》|い《・》|に《・》|は《・》|耐《・》|性《・》|が《・》|あ《・》|る《・》。  それこそ聖騎士としての称号がはく奪されるような行動を起こしていれば話は別だが、いやでもソラスさんがそんなことするわけ…」  呪いの対策には聖騎士という称号が大事なのだろうか。疑問には思ったものの今はそんなことよりこの呪いの対処のほうが重要だ。ソラスが犯罪をしたなんていう可能性を考慮はしたくない。これまで見てきた彼の行動を、俺はただ信じたいのだ。 「ルナリオさん、お怪我はございませんか?」  荒れた陛下の部屋には騎士たちが殺到しているらしい。襲ってきた侵入者をソラスが倒し、今は追撃している最中という説明をしたそうだ。王子は一旦その場を陛下に託し、俺たちの状態を確認しに来た。 「聖水はご存じでしょうか。ふりまくことにより呪いや汚れを吸ってくれる物です。騎士にかけられた呪いは、聖水でしか祓えないでしょう」 「聖水…確認ですがどこにあるんでしょうか?」 「当然、教会です。そこの司教に頼み込む必要がございます。これほどの呪いを打ち砕くには、教会が誇る最も清い聖水が必要です。さもなければ彼は…」  衰弱して、永遠に目を覚まさないでしょう。 「どのみち、『女神のまどろみ』について教会には尋ねることがありました。どうしてこんな危ないものを流通させたのか」 「私はここから動くことが出来ないため、協力できずに申し訳ありません。ですがせめて父上に推薦状を書いてもらうなどの協力は惜しみません。ルナリオさん、どうか無理をなさらずに」 「トゥルニテ、俺の護衛を頼んでいいか?」  トゥルニテはこくんと頷く。  ただレインさんを救出するだけの話だったのに、随分と話がこじれてきた。  シャリオット伯による「慈悲の涙」の生成。  教会による「女神のまどろみ」の生成。  そしてその二つを組み合わせたことによる「慈悲深き女神の涙」という猛毒。  俺の命を狙う実家と義妹。  呪いに倒れるソラス。  俺はこれらすべてを解決せずして、王都から帰ることは出来ない。 「行こうか、トゥルニテ。教会に」 「うん。任せて」  ---------------------------------------------------------------  精霊教会。このプリエスティラ王国の国教であり、国内で唯一聖水を持つ施設である。  教会というのは神に祈る場であり、人間が生きるための道徳を神の存在をもって教えてくれる。故に宗教が変わったとしても、その内部は大抵どこも静かと決まっている。  だというのに、俺の想像を越えて内部はとても騒がしかった。 「急患ー!!」 「なんで、最近ますます増えているぞ!!」  教会では内部で治療も行っているそうだ。忙しそうとは思うものの、こちらも急いでいる。俺は罪悪感からしゃべりかけることをためらいそうになるが、しかし意を決してバタバタと動いている受付の人に話しかける、 「司教の面会を希望します。こちらは陛下の推薦状です」  精霊教と王族は上下関係はなく、故に教会は国王の下の存在ではない。命令といった言葉は使えないようだ。そしてなおかつ、このように正体不明の人間を送り込むのに突然大司教が出てくることはないだろうとも王子から言われた。故に話が通じるであろう司教にまずは事情を説明するべきだと。  受付の女性は最初、忙しいのに話しかけるなという反応をしかけたが、しかし推薦状を視界にいれるやいなやすべての作業を中断し、頭を下げて建物の奥へと消えていった。  数分後、女性は戻ってきた。そして俺たちに再び頭を下げる。 「お待たせしました。こちらへどうぞ」  俺とトゥルニテは女性の後を追う。  建物内部は床も壁も白かった。しかし、天井だけはまるで夜空のようにきれいな黒をしており、そこに星座が描かれていた。俺たちは中庭に面している渡り廊下を通過する。庭には大きな木が生えており、緑の実をたくさんつけていた。そしてその周辺には籠が散乱していた。俺達は階段を上り、そして明らかに重鎮がいるであろう部屋に通される。 「ようこそ、よくぞここまでいらっしゃいました。私は司教のヨルデ。どうぞ、お見知りおきを」  中性的でたおやかな男性が現れる。髪は金髪というにはやや緑がかっており、長い長髪は後ろでみつあみをしている。白いゆったりとした装束を身にまとっているのが彼の貞淑性を際立たせる。下まつげが女性以上に長く、ぱっと見どちらの性別かわからなくなるほどの美貌を持つその青年がこちらへ挨拶してきた。  彼の名前は新緑のヨルデ。婿候補の最後の一人だ。 「なんかあいつ、あの小さい王子と似ている」  そう、トゥルニテの見立ては正解だ。二人は兄弟になる。というのはゲームで得た情報ではない。出立前に王子に教えてもらったのだ。  実はこの新緑のヨルデはゲーム内のDLCキャラになる。有料コンテンツに金を払わないとそもそも出てきてくれないのだ。果たしてレインさんという心に決めたパートナーがいる俺がそんな男を目当てに金を払うと思うか?そう。払うわけがないのである。故によく知らない。  DLCという選ばれたプレイヤーしか遭遇しなかったため、その綺麗な容姿のわりに人気投票では伸び悩んで4位。レインさんがなんでDLCにすら負けてるんですか?と当時の俺は本気で怒ったが、今はそれどころではない。 「司教様、お忙しい中お時間いただき誠にありがとうございます」  司教は現在数多の患者の治療で忙しいはずだ。その治療行為を妨害してまで時間をとってきた俺たちに対し内心は怒りを抑えているのだろう。俺たちの行為は傷つく者たちを救う行為を妨害するに等しい行為だからだ。 「申し訳ございません、何分多忙の身でして、手短かにお伝えいただけましたら幸いです」  やはり、丁寧さを貫こうとしているがその言葉は刺々しい。  故に俺も遠慮はいらない。 「いえ、治療行為よりも俺の話を聞く方があなたにとって有意義のはずです」 「・・・・・・・・」  ヨルデの視線は刺すように俺を見る。これは相当怒っている。けれど、こちらもソラスの解呪がかかっているんだ。その程度の気迫で俺は引きなどしない。 「この患者が増えている現状を止める術をお伝えしにまいりました」  王子から託された聖霊種を見せ、交渉は始まった。

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