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第45話継承式開幕

 いよいよ継承式の日がやってきた。決戦の日だ。  この日は国中の貴族たちが集い、シュトルムの継承を祝う。しかし、そのタイミングで俺たちはことを起こすことを計画していたのだ。  それについてシュトルムに許可を取ったら快諾してくれた。一生に一度しかない自分のための会を台無しにするかもしれないのに、だ。 「どうせ貴族の連中は俺を祝いに来たんじゃなくてその後のコネ探しだの金稼ぎだの繁殖相手探しだのしか目にないんだ。ムカつくからぶっ壊せ」  だそうだ。格好良すぎて惚れそうだ。  なお解呪のための聖水は、継承式中になるかもとヨルデから連絡があった。万全を期して彼本人が届けに来てくれるそうだ。  しかし、俺はそんな運命の日だというのに、別の悩みに頭が占められていた。 「トゥルニテ、俺。レインさんと両想い目指すのやめようと思う」 「え?あ、うん。そっか」  数日前、俺はソラスによって処女を散らされた。雄のプライドは粉々に砕けちり、今もなお気が緩むとあの交わった日を思い出す。 (本当に死にかけか疑わしいくらいに元気だったじゃねえか!!!)  あれ以来バスローブで寝るのはやめた。ソラスからは欲望のこもった目で何度も見られたものの、気が付かないふりでその場を凌いでいったのだ。毎晩抱きしめられて後頭部はキスをされ、服の上から乳首を爪でカリカリとされた。けれど徹底的に無視したのだ。  ・・・いや本当はソラスも呪いの蝕みが相当辛いのだろう。俺との交尾の時は生き生きとしていたが、それ以外では普通に苦しそうなのだ。寿命も差し迫り、性欲に振り回されているのも同情する。本当は俺の体で発散が出来るならそれに越したことはない。けれど、恥ずかしさが上回ってなかなか素直になれないのだ。  俺で発散させている事実が本当に申し訳ない。すべてが終わったらソープに連れていってあげよう。俺はあなたの行為の隣で耳栓して寝てるからさ。 「トゥルニテ。俺、生涯独身で行こうと思う」 「急にどうした?」 「人間関係って難しいって思ってさ…」  トゥルニテはビスケットをポリポリ食べながら、一応俺の話も聞いてくれていた。 「俺はお前と過ごすの楽しいから、家族になってやってもいい」 「ありがとう。誤解しか生まないから言葉は選んだ方がいいよ」 「お前ら駄弁ってないでさっさと準備しろ!!!!!」  シュトルムに怒られた。そう、俺は現在シュトルムの別邸にて継承式の準備に勤しんでいた。  更衣室にてあらかじめ決めておいた服が準備されており、俺は黒い衣装に身を包んでいた。更衣室の外にも、部屋の中には沢山の装飾品が机の上に並べられている。  マルグリット妃からはエメラルドのブローチを、シュトルムからはやや赤が入った金のエポーレットが贈られた。それらを服飾としてつけられたこの衣装は、俺が着ても非常に格好良かった。 「おー。馬子にも衣装じゃねえか」 「うん。似合ってる」  若干けなされたような気もするが、まあいい。  一方でソラスは今回の式には欠席する。理由は言わずもがな。  本当は王による勅命であるため出席は免れない。しかし例の呪術の一部始終を見ていた王は、それでも出席させるほど酷なことをしなかった。  けれどヨルデは式の最中に届けてくれることを約束してくれた。俺は聖水を入手したらすぐに式を抜け出してソラスにかけにいく。 「じゃあ手筈通りに俺は先に出てくから。ルナリオ、くれぐれも無茶はするな」 「ああ、分かってる。信頼してるよ、トゥルニテ」  継承式にはシャリオット伯も一家総出でやってくる。主人がいなくなったその屋敷を狙い、レインさんを救出する。  ここ数日、王城の俺の部屋には怪しい連中がうろついていた。けれどトゥルニテが排除してくれたらしい。やはりシャリオットは俺の命を狙っている。これから先もどこまでも追ってくるだろう。決着をつけずに辺境には帰れない。 「俺達も行くか。最後に入場することにはなるが、控室でのんびりすごしてようぜ」 「うん」  今日のシュトルムはいつも以上に髪を綺麗にまとめ、軍服に近い正装をしていた。胸元は空けてはいないものの首にはいつもの飾りが付けられており、全体的にスラっとしているシルエットが何とも格好いい。 「すごく格好いいよ、シュトルム」 「・・・・・・・・!!」  シュトルムは頬を赤く染め、俺の頭をスパンと叩く。「ごめん、俺に褒められてもうれしくないよね」とこぼすと今度は尻を蹴られた。  俺達は馬車に乗り、王城へと向かう。  会場は広い。  出入口は非常に分厚い扉があり、またそこから王の元へと一直線に赤い絨毯が伸びている。円形の机には沢山の食材が並び、まだ開始には早いというのに貴族たちは集まっていた。  集まった貴族で特に気になるのは令嬢の多さだろう。シュトルムは独身だ。ギラギラとした目つきの若い娘が多い。シュトルムは辺境にて一夫多妻制の撤廃を宣言した。それとともに、次期継承者は血筋ではなく優秀なものを任命するとも。  けれど所詮は男。女に溺れてさえしまえばそんな意思も簡単に揺らぐだろう。いや、令嬢だけではない。同性婚も珍しくないこの国では、次期継承に血縁を含まないのなら自分が伴侶の座を射止められれば甘い汁を吸えると考える男性も少なくはなかった。  ・・・・・・という連中が多いため、シュトルムはうんざりしていたのだ。 「いや本当、血縁継承までは撤廃しなくてよかったんじゃない?シュトルムの子供だったら、きっといい為政者になれるよ」 「うっるせぇーよ!!なーんにも知らねえで適当なこと言いやがって!!俺はそういう誰かが決めたシステムじゃなくて自分で全部決めたいんだっつーの!!相手だってな!!」  そこまで言うかっていうくらいキレられた。  今俺たちは控室にいて開始を待っている。暇なのでさっきから雑談をしているのだ。 「顔赤いけど大丈夫?緊張で体温高くなってるんじゃない?」 「お前それ以上喋るな。本当に喋るな」  俺は隣に座ってぱたぱたと新聞で仰いだ。新聞ではシュトルムについて大々的に取り上げられている。さすがに今日ばかりはソラス特集は自重したようだ。  この時間で計画の再確認はしない。先ほどからこの部屋の外が不自然に騒がしいからだ。俺なんかが気が付くのだから、シュトルムはもっと察しているだろう。  いや、そうでなくとも確認はしなかっただろう。実は領主の事件での審問会の時とは決定的に違い、|俺《・》|た《・》|ち《・》|は《・》|最《・》|低《・》|限《・》|の《・》|連《・》|携《・》|し《・》|か《・》|取《・》|れ《・》|て《・》|い《・》|な《・》|い《・》という事実だ。  その理由は多く、今回この件に走り回ってくれる人が多いこと、貴族が継承式に集中している間に家宅捜索をかけるため極秘事項にしていることなどいろいろ多い。  けれどもう一つ、俺には気になっていることがあった。 『え?レインさんが継承式に乗り込んで来るの!?』 『ああ、危険性を説明するのに自分が必要なんだと。トゥルニテが忍び込んで話をつけてきてくれた』  レインさんが継承式の場にやってくるのだ。彼は今は平民ゆえに、どうやって証明するつもりなのだろう。段取りを教えて欲しいと頼んだが、シュトルムの歯切れが妙に悪かったのが気になる。 『前の審問会では結果的にお前に全責任がのしかかる重い戦いだった。けれど、これは本当はこの国の王族や貴族がどうにかすべき問題なんだ。お前はただ自分のやれることをやってくれればそれでいいんだ』  シュトルムは俺の頭を撫でながら、そう言ってくれた。あの審問会の日に彼は俺を信頼してくれた。けれど同時に罪悪感もあったのだ。無関係な人間を巻き込み、その重圧を負わせる罪悪感が。だからこそ今回はせめて俺への責任を最小限にしたい。本当、シュトルムは俺に甘い。 「時間だな」  外から係りの者が呼びかけるノックをする。シュトルムに続いて俺は立ち上がり、衣装が崩れていないかの確認をした。 「例の関係者たちは会場に揃っているか?」 「はい、全員揃っております」  シュトルムは廊下に控えていた10名ほどの騎士の中から、隊長らしき人物に確認を取る。例の関係者というのはシャリオット伯を始めとし、「慈悲の涙」や魔物の斡旋に協力している貴族たちのことだ。もともと金にがめついんだ。大勢の貴族が集まるであろうこの機会を逃すことは絶対にしない。  これは「慈悲の涙」をすべて根絶やしにすることを誓うレインさんと教会の戦いであり。  犯罪に手を染める者たちを取り締まろうとするインヴェルノさんの戦いであり。  魔物が優勢になれば一番損害を受ける自領を守るためのシュトルムの戦いであり。  巧妙なトリックで己を暗殺しようとした貴族を洗い出す王族たちの戦いであり。  そして実家と義妹との決着をつけようとする俺の戦いでもある。  会場の大きな扉は開き、煌びやかな世界が俺達を招く。  戦いは始まった。

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