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第47話継承式②

 俺は、図らずも救える命を選択しなくてはならない場面に遭遇していた。  ソラスとレイン。  片方は太陽の名。そしてもう片方は雨の名。  身分も人気も性格もなにもかも、対極に存在する二人だ。けれど、決してどちらが優れているか、なんてことはない。魔物が活発なこの時代ではソラスの方が圧倒的に英雄だが、植物の知識を持つレインはそれ以上に人を救える未来だってあるのかもしれない。 「かもしれない」。そう、かもしれないだ。そんなものはちっぽけな俺では全然測れない。いや、人間が人間を特技やステータスといった表面で判断すること自体がおこがましい。そのようなことをいうのであれば、何も才能を持たない俺が一番真っ先に切り捨てられるべきだ。二人の足元にも及ばない俺が。  けれど、俺がレインさんの毒を代わりに請け負うのは筋が違う、ゆえにマルグリット妃やシュトルムはシャリオット伯を追い詰めることを捨ててでも俺を止める。故に俺ではダメなんだ。きっと、レインさんは二人のことをトゥルニテ経由で説得したんだろう。俺に内緒で。  だからシュトルムは俺に黙って見ていろと、その言葉だけ告げたのだ。俺がレインさんを止めるだろうことを察して。  俺はソラスに、絶対に聖水を持ち帰ると約束をした。  けれど、レインさんを助けることも|プリマヴェーラ《彼の妹》と約束をした!!  涙がぽろぽろとこぼれ、体が震える。こんな風に迷っている暇はないというのに、大事な人のどちらを切り捨てるか、そんな判断はすぐには下せない!! 「君は僕と雑貨屋で初めて会ったとき、手を握ってくれましたよね」  レインさんは俺の顔を覗き込み、ゆっくりと語り掛ける。まるで、子供をあやすように。 「とても、嬉しかった。ああやって好意を示してくれた人は初めてでした。・・・けれど」  そう、手を握って警備隊を呼ばれかけたこともあった。スラリスと、まだ正体の分からない騎士と一緒に買い物に行ったんだ。 「僕が思うに、君はあの騎士様に心を寄せているのだと。だって彼と話している時とても優しい表情をしていますから。本当、弟には申し訳ないんですけどね」  そうか、そうなんだ。  俺はソラスが好きなんだ。  かつての好きな人に指摘されなくては気が付けないほど、俺の心は曇っていたのだろう。  今、雨はやみ、雲の間から光がこぼれるように、心にはかろうじて光が差し込む。そして俺はソラスのいる方向へと体を向ける。  ただ、これはルナリオ達の誰も知り得ぬこと。結論から言おう。|実《・》|は《・》|聖《・》|水《・》|を《・》|ど《・》|ち《・》|ら《・》|に《・》|持《・》|っ《・》|て《・》|行《・》|っ《・》|た《・》|と《・》|て《・》|、《・》|こ《・》|の《・》|「《・》|慈《・》|悲《・》|深《・》|き《・》|女《・》|神《・》|の《・》|涙《・》|」《・》|を《・》|め《・》|ぐ《・》|る《・》|一《・》|連《・》|の《・》|騒《・》|動《・》|の《・》|結《・》|果《・》|は《・》|あ《・》|ま《・》|り《・》|大《・》|き《・》|く《・》|は《・》|変《・》|わ《・》|ら《・》|な《・》|か《・》|っ《・》|た《・》|。《・》 「ルナリオさん。私はその聖水が適切に使えているか一緒にソラス殿の元へ向かいます。確認次第レインさんの元へ急行した方がいいでしょう」  ルナリオはこれまで様々な選択をしてきて、これからも重い選択をしていくだろう。しかし、先ほどの聖水と同様に、この場の誰も知らなかった。  |こ《・》|こ《・》|で《・》|ヨ《・》|ル《・》|デ《・》|を《・》|連《・》|れ《・》|て《・》|い《・》|く《・》|か《・》|、《・》|そ《・》|れ《・》|と《・》|も《・》|レ《・》|イ《・》|ン《・》|の《・》|元《・》|へ《・》|行《・》|か《・》|せ《・》|る《・》|か《・》|。《・》|た《・》|っ《・》|た《・》|こ《・》|れ《・》|だ《・》|け《・》|の《・》|こ《・》|と《・》|が《・》|、《・》|彼《・》|の《・》|人《・》|生《・》|を《・》|1《・》|8《・》|0《・》|度《・》|変《・》|え《・》|る《・》|、《・》|最《・》|大《・》|の《・》|分《・》|岐《・》|点《・》|に《・》|な《・》|る《・》|と《・》|い《・》|う《・》|こ《・》|と《・》|を《・》|。《・》 「・・・・・・・・・・・いいや、ヨルデはレインさんの元へついてほしい。もしかしたら、レインさんが生き延びられる微かな奇跡が起こるかもしれないから」  そしてこれも結論から言おう。|正《・》|解《・》だった。  ルナリオはレインのことが好きだった。故に、完全に見捨てることは出来なかった。そう、レインを愛していたからこそ、彼は最適解を引くことが出来た。  彼がレインを愛していたこと、それは無意味なようで、けれど近き未来で正しい結末へいたるための重要な要素だった。けれどそのことをルナリオが知ることは永遠にない。  救うべき相手を決めたルナリオは止まらない。聖水を大事に抱え込み、決して下を見なかった。  そうしてレインとヨルデ、ルナリオは振り返らず、自分が行くべき場所へまっすぐと進んでいった。 「どう見ても|シュトルム《弟》は彼に好意を寄せていたのになあ。はは、本当に悪いことをしちゃったかな」 「あなたはこれから命を懸けるのです。今は自分のことだけ見ていてください」 「・・・・ありがとうございます司教様。あなただって失うものは多いはずなのに。それなのに僕に気を使って貰って」  2人は互いの名前のみ知っているだけのただの初対面だ。しかし、同じ目的を持っている仲間だ。故に、まるで歴戦を共に潜り抜けてきたかのように通じ合っていた。  再び重い扉が開く。扉は開閉するたびに周辺の視線を買うが、しかし価値のない者と判断されれば貴族たちは自分たちの会話にすぐに意識を戻す。  そう、レインのような見るからに価値がなさそうな青年に興味を持つ人間はいない。けれど、後ろに麗しき司教が付いていることで、その異質な光景に一人、また一人と注視する。  シュトルムとマルグリット妃も藍色の青年に気が付き、それまで浮かべていた愛想笑いは封じ、いよいよおっぱじめるのだと腹を決める。しかし権力に群がっている貴族たちは、その藍色の青年のことなど気が付きもしない。故に、まずは目を引くことが大事なのだ。 「兄上!!来て下さったのですね!!」  弟の初めての仰々しすぎるそのしゃべり方に思わずレインは笑いそうになる。しかし彼が喋りかけたことにより、周辺の貴族は初めてレインに気が付いた。 「やあシュトルム!!今日はお祝いにきたよ!!」  礼節すら知らない不躾な青年が、本日の主役に気さくに話しかける。兄上とは呼ばれていたが得体のしれない男だ。群がっていた貴族たちはシュトルムとの貴重な機会を奪われそうになり、誰もが不機嫌そうな顔をしている。  けれど、それがどうしたというのだ。あのルナリオはもっと敵意に満ちた目で囲まれていたというのに、マルグリット妃と弟を助けて見せたのだ。なぜこの程度で自分が臆そうか。  マルグリット妃は近くの衛兵に指示を出す。この部屋から誰一人出させないために。言葉を交わさずに連携をする。その仲間になれることがレインの心を温かくさせた。  やがてシュトルムとレインは数メートル越しに対峙する。 「シュトルム、君はこの国を愛しているかい?」 「ははは、当たり前だろう兄上」  全く生産性のない会話が繰り広げられている。だというのに、この二人に割って入ることが出来ない。しかし、ただ一人、焦りのあまり空気が読めない人物がいた。 「今日はシュトルム様が主役の大事な日ですわ!よろしければわたくし、お兄様も交えて一緒にお話ししたいですの」  ルナリオの義妹のマリーである。  彼女の好きなタイプは確かにソラスだ。しかし、辺境伯の王からの優遇を見ていて、シュトルムもまた自分に釣り合うと判断したのだ。二兎を追ってどちらかゲットできればいい。故に彼女はシュトルムの腕に自分の腕をからませ、そのたびシュトルムに強引に外されていた。外野はそれを見て辺境伯の心中を察しているが、しかし原因の当事者というものはいつだって盲目になって気が付きはしない。その光景に「ほほほ、お似合いですわ」と言っている義母も相まって、シュトルムはますます不機嫌になっている。知らないうちに尻尾巻いて逃げたルナリオにも気が付き、シャリオット一家は笑いがとまらない。  けれど、現在家で懐柔しているはずのレインがのこのこと、ここまでやってきた。この想定外に驚きが隠せない。とはいえ先ほど逃げていったルナリオと言い、仮にレインが妙なことをしたとて平民の発言を貴族が信じるわけがないのだ。この世界の平民の発言は軽いのだから。  そしてシャリオットの作った薬は、別の液体が無いと毒としての効果が無い上に、最悪のケースでは「知りませんでした」で通せる。何も恐れることはない。  シュトルムは|義妹《マリー》の腕を、今度はほどかなかった。冷静に考えたらこの状況は使えるかもしれないと思ったのだ。さっきから不快で鳥肌がすごいが。レインのことを一生懸命語っていた時のルナリオの時とは別格の気持ち悪さだが。いやまあ、もしあれが自分のことを惚気てくれたときのことを考えると、思わずにやけそうになるくらい嬉しいのだが、今はそれどころじゃない。 「実はね、シュトルム。僕はこの国を愛しているがゆえに、今からあることをこの場のみんなに見せたいんだ」 「もちろんいいに決まっているさ。兄さんの為に準備をしよう」

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