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第50話継承式⑤
「そういえばあのシャリオット伯の長男って、妹さんを殴ってあざを作っていたっていう話があったわよね」
「前にパーティーでマリーさんが髪の束が切れていてどうしたのか尋ねたら、兄に刃物を投げられたということもございましたわね」
ヒソヒソヒソ。
身に覚えのない俺の罪が暴露されていく。どれも妹関連だ。冤罪でしかない。けれど、冤罪であることを証明することは出来ない。人を殺したことがないという事実を証明するのは不可能であるように、俺がやっていないことを証明することは出来ない。
過去に積もったものが、いずれ巡り巡って人を裁く。人は過去から逃げることは出来ないのだ。
周辺の兵士は俺をも拘束すべきと判断し、じりじりと近寄ってきた。真偽はともあれ、現在俺はまだ貴族籍。ゆえに容疑者の家族であり、またこういった国では国家反逆罪は一族もろとも処刑されるものだ。故に、仮に無実であったとしても俺を拘束しておいて損はない。
しかし、ソラスは俺の前に立ちはだかり、パールミルリスを片手で構えた。その光景にその場の誰もが息をのむ。
国の誇る大英雄が、容疑者一人のために国の騎士に向かって剣を抜いたのだから。
民からの信頼も厚いその人物が、たった一人の少年を庇った。その一枚絵のごとき美しい光景に、王も貴族も騎士も、義妹でさえ思わず見入ってしまった。
(敵意の視線に囲まれた俺を、ソラスは何も言わずに庇ってくれた)
いや、俺のことを信じてくれている視線はほかにもある。
シュトルムも鼻で笑いながら俺を見て、マルグリット妃もインヴェルノさんも、期待に満ちた目で俺を見る。
まるで、実家にやり返すのはお前の仕事だとでもいうように、彼らは俺のことを信頼してくれているのだ。
疑われている者の言葉は残念ながら聞いてはもらえない。けれど、ここにはソラスがいた。そして俺を信じてくれる人たちがいた。世間から信頼されている彼らの証言を引き出しながら、証明していけばいい!!
「裁判長、魔物と契約したのなら、その時の契約書の日付は記載していますでしょうか」
「ああ、昨年の冬の日付だ」
「それは・・・とてもおかしいですね。だって俺は今年の春には辺境にいる。先ほどそこの義妹は俺が失踪してから魔物を連れてきたと言いましたが、それだと辻褄が合わない」
彼女の言では失踪した後に帰って来ては昨年の冬に契約を結んだという主張になる。けれど、もし俺が春以降に失踪したという証明が出来れば、覆すことが可能なのだ。
義妹は先ほどまで呆けていた意識を戻し、俺の反撃に苦しい表情をする。
「でもねえ、お義兄様。それって証拠おあり?確かにお兄様は最近まで辺境にいたことは事実だわ。けれどね、秋にはとうにいなかったじゃない!!」
俺は義妹たちに阻止され、社交界には顔を出していなかった。故に義妹の嘘には一応の辻褄が合う。けれど、それでは俺には太刀打ちできない!
「いいえ、辺境には俺の住まいがございます。ですがそこはうちの次期…いえ現領主が盗賊が住み着かないように常に見張っていました。お疑いなら家賃の領収書でも辺境から取り寄せしましょうか?」
あの日シュトルムに遭遇した初日のイベントが今ここで生きてくる。あれは日割り計算なので春の間はずっと辺境にいたこと、逆にそれがない冬までには俺は辺境には住み着いていないことの大きな証明になる。
「・・・だそうだが辺境伯殿?まことか?」
「はい、すべてその者の言う通りです。入居した時点で彼の貴族の服は汚れていなかったため、家出からすぐにこちらにやってきたことは証言出来ます。また確かに領収書も出していますのでお望みとあれば」
「・・・とすると偽証しているのは一体だれになるんだろうなあ?マリー殿?」
論破。これで義妹に反論として戦える武器はない。
けれど、その目は諦めていない。まだ何か戦える材料があるのか、鬱陶しい。
「もう、もういいわ、殺してやるわ。あんたの大事なものぜーんぶ。あは、あははは…」
壊れた人形のように義妹は笑い出す。
「あんた…見たところあの藍髪と仲がいいそうねえ。ということは、私たちが捕らえている辺境のお友達とも仲がいいんじゃないのー?道連れにしてやる、道連れにしてやるー・・・!!!」
辺境の友達…!!それはスラリスとアウトーメルとプリマヴェーラのことだ!!
そうだ、レインさんがシャリオット伯に従っていたのは人質がいたからであったことを忘れていた!!
どうする、どうすれば辺境のみんなに危機を・・・!!
「あのー…。ちょっとよろしいでしょうか?」
全身の毛が逆立つほど焦る俺に対し、申し訳なさそうな声が聞こえてきた。ヨルデだ。
「たった今レインさんの治療を終えて何とか一命をとりとめました。ああ、いえ私が呼び止めたのはそのお話ではなくてですね」
ヨルデは両手を空に向かって広げた。すると、プロジェクターのように壁に映像が映し出される。そこに映っていたのはなんとアウトーメル達だ。
『あれー!?そこにいるのルナリオ!?随分久しぶりだね!!王都でも元気にしてる!?ってちょっとおしゃれしてんじゃん!』
なんとこっちに向かって話しかけてきた。ビデオ通話…みたいな。
「アウトーメル!?」
『ああ、王都の司教様って遠隔でもお話が出来る精霊術使えるって聞いたよ!!すごいよね!!』
元気そうなアウトーメルだが、なんかさっきから画面が動いているのだ。ボコッボコッという音が聞こえる。映像の端にはさっきからちらちらとピンクの何かも映ってるし。
『いやー、実はね。昔私の姉さんのストーカーやってたクソ野郎がプリマヴェーラの周りをうろちょろしてたから思いっきり殴っちゃってさ。あいつ、王都の人間だったんだ。だからあの後全然捕まらなかったわけだ…。あ、ごめん。それでそいつを殴ったらね。お仲間っぽい人も数人きたから、プリマヴェーラと一緒に対処してるの。今忙しいからまた連絡するわね!!じゃあ!!!!』
この場の全員がぽかんとしている。さっきまで人質の話だったのに、肝心の人質が強すぎた。農場ゲームの結婚候補たちは、基本的に最低限の戦闘力は持ち合わせている。もちろん嫁候補の二人も。
プリマヴェーラに至ってはちょっと笑ってた気がする。いや気のせいだろう気のせい。
「あ、あああああああああああああああああああ」
義妹は頭を掻きむしり奇声を上げる。それは騎士たちに連れ去られるまで続いたという。
「さて諸君、この国の膿を取り除くことが出来た。すると、今回の罪をどこまで追及するべきか。気になる点だと思う」
会場の貴族に向かって王は語り掛ける。罪の追求、それは謀反という大罪に対し、一体誰を裁くべきかということだ。例えば、一族郎党だった場合、当然俺も入る。
「実はな、そこにいるルナリオ。余に毒の真相を伝えたのは彼なのだよ。けれど彼はシャリオット伯。現行法では大きい活躍をしてくれた彼も裁かざるを得ない。それは余は気が乗らぬ」
誰もが王の言葉に聞き入っていた。俺に流れていた悪評。あの義妹が悪女であったのなら、一方俺は根拠のない悪評を流されていた被害者になるのだ。それを思うとあれこれ言って噂を鵜呑みにしていた貴族たちは気まずそうな顔をしている。
「故に此度は彼を守るために、当事者と確定したもののみを裁こうと思う。いわれなき罪でこれまで苦しんできた彼だ。罪人たちと血のつながりを持っている者たちは、彼に感謝することだな」
そうして王は会場を後にした。
すると誰かがぱちぱちと手を叩いた。つられてほかの人も、さらにうつってほかの人たちも。会場は大きな拍手に包まれた。
俺たちの尽力によってこの謀反事件は終焉を迎えたのである。
会場から早く帰るもの、まだ残っているものの二者に分かれた。人脈を広げるにはまだ残っている方がいいのはわかるが、しかし仮に痛くない腹だったとしても先ほど勝手に家宅捜索が実施された家があるのだ。特に何かしら後ろめたいことがある貴族ほどさっさと帰っていった。
「ええ、レイン殿は無事です。一週間ほど経過を見る必要がありますが、ですが命に別状はありません」
「よかったー・・・・!!」
本当、プリマヴェーラ達に会わせる顔がなかったから助かった。けれど、見捨てる判断をした罪は消えない。俺はしばらくレインさんに気軽に話せなくなるのだろうな。
「この王都にはあと何日いるの?」
「レイン兄貴が回復したら・・・って言いたいところだが、実は俺達がここにいるあいだに魔物の大群が辺境に押し寄せてきたらしい。防衛費を上げたおかげで無傷で終わったらしいけどな。それでも領民は不安に思っているだろうから俺は先に帰るよ。お前が兄貴を連れてきてくれ」
魔物の大群襲撃イベント。俺が10万ゴールドを稼ぎたかった理由のイベントが、ついに辺境で起こったらしい。けれどおかげで事なきを得たようだ。とはいえ予定より随分早くに起こったことが気になるが、支払いが早ければ早くに生じるという調整はゲームであったような気がしないでもない。とにかく何も問題なく終わって本当に良かった。
「うん、わかった。任せておいて。そういえば、ヨルデは司教やめちゃったんだよね?よかったら一緒に辺境に来る?」
俺と同じくヨルデについても王は情状酌量を言い渡そうとした。しかし、ヨルデはこれを拒否。そんなことをしている余裕があるなら、謀反人を厳しく裁いてくれと王に言い残した。
そういえばヨルデはDLCキャラだが、購入すると辺境にふらっとやってくるのだ。その理由は諸事情による司教の立場からの追放。そして辺境に住み着くようになり主人公に出会う。そう、世の中の推し活というのはお金を払って推しを幸せにするのに、ヨルデの場合お金を払って司教を追放させて推しを不幸にする。ファンたちがさめざめと泣いていたのを思い出す。
「ええ、空いてる教会はございませんか?ふふ、辺境生活も楽しそうですね」
「よし、じゃあお前らなるべく早く帰って来いよ。待ってるからな!!」
シュトルムはそう言い残し去っていった。彼と共にマルグリット妃も帰るそうだ。けれど、辺境に|実の息子《ヨルデ》もやってくるということでこっそり嬉しそうだった。一方王はマルグリット妃から離れるため裏で泣いていたようだが。
ヨルデはレインの診察のため俺たちと同じ後発で帰るようで、挨拶をしてこの場を去った。
「ルナリオ!!」
「ルナリオ、ご苦労だった。よくぞあの女に言い返したな。スカッとしたぞ」
今度は王子とインヴェルノがやってきた。
「よかったです、あの時いわれのないことで責められていたとき、私は思わず叫びそうでした」
王子は人目もはばからず俺の手を握る。
「いいえ、あの時信頼する目で見てくださったから本当に俺は勇気づけられました」
「ルナリオ.....」
「いやあ、君らが王都に来たらこちらが辺境での恩を返そうと思ってたのに、また活躍されるとは。本当に君には頭が上がらないよ」
「いえ、インヴェルノさんも本当にありがとうございました。ほかの誰にもできないことをやってくださらなかったら、今こうして笑うこともできなかったでしょうから」
「ははは!!!!礼には及ばんさ!!」
俺たちは互いの健闘を称え、盛り上がる。そんな中王子は視線をちらちらと俺にやる。
「あの、ルナリオ。昔、私と出会ったこと、覚えておりますか?」
残念ながら俺は憑依した人間であるためそれ以前の記憶はない。考え込む俺に王子はほほ笑む。
「私は昔、こっそりと人に会いに行こうと精霊教会へ行ったことがあるのです」
人、というのはヨルデのことだろう。見た限り王子の警備は厳重だ。護衛撒いて抜け出すのも相当だったのだろう。
「その時に警備に見つかって、私はつまみ出されそうになったのです。教会の中庭付近だったので何とか隠れてやり過ごそうとしました。ですが見つかって……そんな時にあなたに助けられたのです」
『この子は僕の弟だから、君たちは仕事に戻ってくれ』
亜麻色の髪の貴族少年。名は名乗らなかったけれど、その噂は王子のもとまで届いていた。まあどれも妹をいじめているという悪い噂だったが。
「けれど、助けられて、私は本当に嬉しかったのです。だからもう一度あなたに会って礼を言いたかった」
それは俺が憑依前の主人公の話だ。けれど、この主人公のことをちゃんとわかっていた人はいた。過去からは逃げられない。けれど、本当の姿をちゃんと知ってくれている人もいる。
そうして昔話を終えると、王子は俺の服をくいくいと引っ張り、俺の耳に自分の口を近づけた。
「もし私が大きくなったら、お嫁さんになってくれますか?」
しかし耳の良いソラスには聞こえていたようで、俺から王子を強引にはがし腕を引っ張った。
「ル、ルナリオ!?ぐぬぬ、やっぱり私、ソラスのこと大嫌いです!!!」
それをインヴェルノが生暖かい目で見守っていた。
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