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第53話光のソラス①

 最初に君に会ったのは草原だった。  周囲はそれほど強い魔物はいないのに、慣れない魔法でスライムを一生懸命攻撃していましたね。僕はそんな君が見ていられず、思わず手を出してしまいました。  亜麻色の髪にエメラルドの瞳をした愛らしい顔の少年。  大抵の人は僕を見て頬を赤く染めます。  そして握手してほしいだのサインが欲しいだの。  けれど君は違った。顔を青くした。そして簡単に礼をいい、去っていきました。僕は初めての反応に頭は疑問符で一杯でした。  のちに君はボロボロの家に住んでいると知りました。一匹のスライムと仲良く暮らしていると。家賃を回収してくる放蕩息子が怖いと呟いて10日間ほど隠れるように暮らしていましたが、ある日見つかったようで、それから堂々と暮らしていましたね。  ああ、僕は近づいただけで逃げられました。なのでこれは当時一生懸命かき集めた噂なんですよ。たいていの人は僕の騎士の格好を見ると聞いてないことまで教えてくれますから。  僕はこの辺境に魔王の対策のためにやってきた。ええ、この時はまだ、君が魔王に対して決定打を与えられる唯一の存在だなんてことは知りませんでした。  ・・・君の魔法はスライムから逸れ、鹿の魔物に不幸にも当たったのです。鹿の魔物は一匹が攻撃されると全員で襲ってくる。君は大量の鹿に襲われ、あっけなくその命を散らしました。けれど不思議なことが起こったのです。|君《・》|が《・》|死《・》|ぬ《・》|前《・》|に《・》|時《・》|間《・》|が《・》|戻《・》|っ《・》|た《・》。けれど、君は時間が戻ったことに気が付かず、また同じ角度に魔法を撃ち全く同じ形で亡くなりました。  君を見守っていた僕はこらえきれず助けました。  ええ、礼だけ言われて君にはまた逃げられました。  それからもどうしても気になって僕は君を陰から支えていました。畑を頑張りつつも戦闘に精を出していた甲斐もあって次第に強くなった君は、仲間を作り魔王幹部を倒し、やがて魔王をも打倒しました。  そしてその先に青い空間が広がり、躊躇うことなく一人で入っていったのです。  すると気が付けば僕はまた草原にいました。なんと、初めて君と出会ったあの時に時間が巻き戻っていたのです。けれど今度は君は草原にはいませんでした。  雑貨屋で、レインという青年に熱心に喋りかけていましたね。どうして僕には怯えるのに藍色の彼にはそれほど熱心に喋りかけているのか。理解が出来ませんでした。どうしてあんなに頬を染め、あんな嬉しそうに。  今回の家賃回収は住んでから7日後に来たそうです。そう、不思議なことに皆の行動が前より少しずつずれている。けれど、君の行動方針は前回と変わりませんでした。畑を耕し、強くなって魔王を倒す。レインのことが気になっていたようではありますが、恋愛関係には至らず。魔王を倒し、そしてまたあの青い空間が現れた。そして君は吸い込まれるように消えていきました。  そしてまた僕は草原にいたのです。そう、やっと僕は理解しました。  君にあの青いゲートをくぐらせてはいけない、と。  どうにかして引き留めなくてはならない。  沢山考えて、君がこちらにとどまりたいと思ってくれるほど強い結びつきを持てばいいと僕は思いました。今回こそ君と仲よくしよう、と。  けれど逃げられました。近づいても逃げられる。悲しいくらい怯えられた。  けれど君にとって僕は貴重な戦力という情報も拾えました。だから逃げられても、君は僕を邪険には扱わなかった。偶然と偶然が重なり、君の警戒を少しだけ解くことができた。  だからこの周ではお礼に、君は僕に新しい装備を作ってくれました。  白い鎧と聖剣・パールミルリス。  君のお気に入りの装備だそうです。僕は既に「神律音の剣」というものを持っていましたが、それよりも君からもらったもののほうが遥かにうれしかった。神律音の剣を見た時は「それ…世界最強武器じゃん」と言って青ざめて僕からパールミルリスを取り上げようとしていましたが、絶対に嫌だった僕は抵抗し、何とか守り抜きました。  君が僕におびえるには理由がある。何故かは分からないけど、決して嫌いだからではない。  魔王討伐に至るまで沢山お話をしました。知らない話が聞けて僕はとても興奮しました。パーティで野宿するときに、君の寝顔が目に入りました。一度目に入ると、視線を逸らせなかった。この周で君は僕に初めて笑顔を見せるようになってくれたんです。色々頼ってくれたんです。とても、とても嬉しかった。僕はそこでようやく気が付いたんです。君のことが好きだって。不器用に僕に優しさを見せてくれる、君のことが好きなんだと。  2人きりになったときに、思い切って心の内を告げようとしました。けれど、|何《・》|か《・》|に《・》|妨《・》|害《・》|さ《・》|れ《・》|る《・》|よ《・》|う《・》|に《・》|僕《・》|は《・》|何《・》|も《・》|言《・》|え《・》|な《・》|か《・》|っ《・》|た《・》|。《・》  なんとなく、なんとなく理由は分かりました。君から告白がない限り、こちらは愛を伝えられない。  けれど君は誰との関係も深めないまま、またあの青いゲートをくぐりました。君を止めなくてはいけない僕は青いゲートをくぐる寸前に君の腕を掴みたかった。けれど、見えない壁に阻まれた。近づくことさえ許されずに突破できなかった。こちらを一切振り返らず進んでいく君を見守ることしか出来なかった。  そして、この周で分かったことは「僕では君と恋人にはなれない」こと。  あまりにも強い警戒を僕に抱く君は、仲間という意識は持ってもらうことが出来ても、安心を共有できる恋愛感情は持ってはくれない。  僕はまた草原にいた。けれど、そんなことはどうでもよかった。  僕の頭にあったのは、君とは恋人になれない事実。  その絶望がどれだけ深いか。この気持ちは誰とも分かつことは出来ませんでした。  僕の手にはパールミルリスがあった。君は時間が遡ってすべてがリセットされるけれど、僕は前の周で得たものを次周に持ってくることが出来た。僕は前の周で折角君とやっと仲良くなれたというのに、君はその感情を次に持ってきてくれることはなかった。  心は黒くなり、しばらく我を失っていました。  けれど君が死ぬことによる短いスパンの時間遡行は続いた。君の死ぬところはもう見たくなかった。  だから命を落とさないように見守ることだけはしていった。  この周ではシュトルムという赤毛の青年が3日後に家賃を回収しに来ました。君は彼のことも快くは思っていない様子ではあったものの、僕の時と彼とは異なり段々と仲良くなっていった。その光景にどれほど嫉妬したか君は知らないでしょう。  シュリイ妃は反乱軍を領に呼び、領主もマルグリット妃も反乱軍によって殺された。そしてシュトルムは自分の母を殺した。彼の手は血で染まり、君はただうずくまる彼を抱きしめ、愛を囁いた。  愛する人がほかの男に愛を囁く光景、これほど憎い光景はないでしょう。  けれど絶望する心と共に、これでこの世界に君を縛り付けられるという希望も見えてきました。例えほかの男に心を開いたとしても、あの青いゲートをくぐられるよりは遥かにましだ。だって、君とまだ会えるのだから。そこから親交を深めてもいい。そして僕を選びなおしてくれる可能性だってゼロじゃない。  そして二人は恋人になりました。そして魔王を討伐し、あの忌々しい青いゲートがまた現れた。恋人である彼は、そのゲートに近づけるという権利を得ました。彼だったらきっと君の腕を掴んで止めてくれるだろう、と。  シュトルムは、ゲートをくぐろうとする君を一切止めなかった。君の未来を祈り、ただ君を見送った。  そしてまた僕は草原にいた。

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