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土の視線(前編)01
二年前、友人を埋めた。殺したわけじゃない。ただの事故だった。
社会人になって三年目の夏、高校時代の友人である彼と肝試しに出かけることになったのは、久々に会って飲んでいるうちに流れで決まったことだった。
「夏だしさ、肝試し行かね?」
不意にそう言い出した彼の言葉に俺は特に深く考えず同意した。
俺にとっての彼は、唯一無二の親友だった。学生時代は校則どころか法律ギリギリのことも一緒にやらかして、二人して叱られて、次はもっと上手くやろうと笑い合うような仲だった。
だから彼が提案した山奥の廃墟への肝試しは、あの頃のノスタルジーに浸るには最適のシチュエーションだった。
俺たちは酔いに任せるまま、当然のように飲酒運転をして、目的地である廃墟へとやってきた。
時刻は深夜二時。人里離れた廃墟には月明かり以外の光はなく、危惧していた浮浪者の気配も無かった。だが裏を返せばそれは、もしここで恐ろしい出来事に遭遇したら、自分たちを助けてくれる人は存在しないということだ。
まるでお化け屋敷の入口のように黒々と口を開けている正面玄関を前に、若干酔いの覚めてきた俺たちは、互いに身を寄せ合う。
「一周回ったら、帰るからなっ」
「お、おう」
スマホのライトをつけて、体を密着させながら、そろそろと俺たちは廃墟の奥へと進む。どうやらここは、昔は高級志向のホテルであったらしい。剥がれかけた壁紙や階段の手すりの装飾から、そんな考察をしながら俺たちは歩いていき、急に開けた場所へと辿り着いた。
「もしかして、ダンスホールってやつ?」
「かも。実物見たことないから知らねえけど」
そこは、手すりで四方を囲まれた広々とした空間だった。かつては整然と並ぶ艶やかな大理石でできていたと思われる床はあちこちがひび割れ、ここがかつて特別な場所だったということだけを示している。天井や壁に僅かに残る内装も、これまで通ってきた場所異常に高級感のある形状をしていて、『ダンスホール』という自分たちの予想はきっと正しいのだろうと俺たちは語り合った。
「ダンスホールならさ、ちょっと踊ってみる?」
ふざけた調子で提案した彼に、俺は深く考えず同意する。
「いいね。ステップとか知らないけど」
「俺が教えるよ。ちょっと前にアニメで見たから余裕余裕!」
「はは、それは頼もしいな」
軽口をたたき合いながら俺たちは手を取り合い、うろ覚えのステップを踏み始める。
手を引き、足を踏ん張り、ぎこちなく体を動かして、酔いでもつれる足元でなんとかターンを決める。
自然と俺たちの口からは笑い声が溢れ、ステップが乱れて転びそうになって、手を掴んで繋ぎ止めてまた笑い合う。
その時、俺の視界に映っているのは彼だけだった。彼の視界にも、俺だけしか映っていなかった。
これが俺たちの関係だ。俺たちには互いに俺たちしかいないし、それ以外のものは何も必要ない。彼と出会った学生時代からそれは俺にとって世界の真実で、彼にとっても真実だと信じていた。
信じていたのに。
「俺さ、今度結婚するんだ」
「……は?」
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