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土の視線(後編)03

 首筋に唇を寄せ、触れるだけのキスをいくつも落とす。彼は僅かに身をよじるだけでろくな抵抗をしない。  早く起きて欲しい。この行為を止める理由ができるから。どうか起きないで欲しい。こんなことをしていると知られたら、もう俺は彼の隣にはいられなくなるから。  敏感なところを探してゆっくりと肌をなぞり、胸の先端へと軽く触れる。 「んっ……」  小さく声を上げられて仄かに焦りを覚えたが、彼はそれ以上の反応をすることもなく、再び穏やかな寝息を立て始めた。  今なら蹂躙できる。この傲慢なほど警戒心のない男の全てを食らい尽くして、未知の快楽を教え込んで、自分だけのものにできるかもしれない。  でももし失敗したら、目を覚ました彼に拒絶され、否定されて、軽蔑されたら――いや、死体を隠すだなんてこんな危ない橋を渡るんだ。少しぐらい俺に報酬があってもいいじゃないか。  彼の体からシャツを残して服を剥ぎ取り、足首を捕まえた姿勢で、されるがままになる彼を見下ろす。その表情は楽しい夢を見ているかのように穏やかなもので、それがまた俺の苛立ちを誘った。  酔いで火照る体を組み伏せ、指で少しだけ慣らした穴に性器の先端を押しつける。体重をかけるようにゆっくりと押し込むと、さすがに苦痛を感じたのか眠りこける彼の表情が僅かに歪んだ。 「う、ぁ…ッ……?」  彼の都合を考えてやるつもりはもうない。起きるなら起きれば良い。寝ているところを襲われたことを非難されても、そんな覚悟も無く助けを求めたのかと嘲笑ってやればいい。  さらに体重をかけ、入る限りの一番奥まで己のモノを挿入する。苦痛から逃れようと彼の手が所在なさげに動いていたので、上から押さえつけるように両手を握り込んだ。 「……あっ、アッ………ぅ、ん、あっ…………」  ゆっくりと中を蹂躙するごとに彼の口からは小さく喘ぎ声が漏れる。それが苦痛のみによるものではなく、快楽を拾っているがゆえの声色だということはハッキリと分かり、腹の奥にどす黒い感情が渦巻くのを感じる。  やっぱり、あの死体の男に体を許していたんじゃないのか。  根拠のない嫉妬で、中を責め立てる勢いが自然と激しくなっていく。 「あっ、ああっ、アッ……うッ、ああっ、ぐっ…………」  彼の声に苦痛が混じり始め、捨てたはずの彼の身を案じる心が仄かに顔を出しかける。 「…くそっ、くそっ……!」  優しくしたい。こちらを見てほしい。愛されたい。だけどそれはきっと一生叶わなくて。土の下にいるあいつのせいで、俺はこの人にこんな酷いことをしなきゃならなくなって。 「ぅ、あぁっ…………!」 「くっ……」  強く腰を打ち付け、一番奥に欲を吐き出す。彼の体も小さく跳ねて、性器の先から僅かに液体が噴き出た。  彼の内側に埋め込んでいた質量を抜き去り、両手を地面に押しつけるように捕まえたまま、俺は荒い息で彼を見下ろす。彼はまだ目を覚ます気配はなく、幸せそうな顔で微睡んでいるように見えた。  ふと、掴んでいた手に力が込められ、彼の指が俺の指へと愛しげに絡みつく。それがまるで恋人の体温を求めて無意識に行った動作のように見えて、俺の内側に捨て去ったはずの罪悪感が一気に膨れ上がった。  彼の体温から逃げるように手を離し、焦る思考に急かされるまま、性行為の後始末をする。そんなことをしてもどうせバレると分かっていても、俺はそれ以上クズとして振る舞うことができなかった。  まだ眠っている彼の体を拭き、服を着せ、何事もなかったかのように装う。  夜が過ぎ去り、朝焼けの最初の一筋が覗き始めた頃、彼はようやく目を覚ました。 「……あいつと踊ってる、夢をみたんだ」  まだ夢の中にいるような表情で、愛しげに彼は言う。俺はそんな彼にどんな言葉をぶつければいいか迷った挙げ句、結局全てを飲み込んで、彼に手を差し伸べていた。 「帰りましょう。死体はもう埋めましたから。全部、終わったんです」  目を覚ました彼を連れて証拠隠滅の仕上げをし、俺たちは何食わぬ顔で日常に戻った。  俺たちの関係は何も変わらなかった。とても仲の良い会社の先輩と後輩。だけど最後の一線は踏み越えさせてもらえない関係。  身勝手に体を暴かれたことに彼が気付いているのかは分からない。彼は一度もそのことを話題に出さなかったし、俺から彼にそれについて言及できるわけもない。  そんなモヤモヤをかかえたまま半年が過ぎたある日、二人きりの宅飲みの席で、和田は突然提案してきた。 「なぁ、肝試しに行かないか?」

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