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土の視線(後編)05
廃墟の裏のゴミ捨て場は、枯れて茎ばかりになった雑草に覆われていた。あの日掘り返して死体を埋めた場所にも雑草は生い茂っていたが、半年経った今でも、そこに何かが埋められているということは不思議と俺の目にははっきりと分かった。
和田の体を地面に下ろし、自分も力なく腰を下ろす。いっそ死んでしまいたいぐらい最悪の気分だった。
どう考えても自分の選択が悪かったせいでこうなったのに、心は他責できる相手を探していて、俺はあてもなく夜の闇を睨み付ける。
土の下から、死んだ男のうつろな目がこちらを見つめている気がした。
「っ……!」
息を呑み、思わず身構える。土の下を改めて睨み付けたが、そこには何もいなかった。
気のせいだ。死体がこちらを見るわけがない。息を吐き、脱力し、それからふと邪悪な発想が頭をよぎる。
そうだ。八つ当たりをするなら、ちょうどいい相手がいるじゃないか。
穏やかな顔で眠りこける和田を地面へと寝かせる。土の下には死んだ男の目がある。
そこで黙って見ていろ。一度踏み越えた一線なんだ。二度も三度も変わらない。
「……お願いです。目を開けないで」
安らかに眠りこける彼に囁き、その服へと手をかける。上着を脱がせ、シャツをはだけさせ、露出した彼の肌はあの日と同じ熱をしていた。
火照る肌に指を這わせ、敏感なところを探してゆっくりとなぞり上げる。前回も反応が良かった胸の先端に触れると、意識のないまま快楽を逃がそうと僅かに身もだえする。
悪意のままに俺はそこへの愛撫を続け、舌で舐め、軽く歯を立てた。
「ん、あっ……」
軽く達したのか彼の腰が震え、息が乱れる。そして数秒かけてその余韻に浸った後、彼の体は再び穏やかな眠りへと沈んでいった。
下着を剥ぎ取ると、やはり彼の性器ははっきりと芯を持って立ち上がっていた。
「はは、期待してるんですね」
意識のない彼を一方的に嘲る。刺激に反応しているだけだと頭では分かっていたが、彼にこの状況の責任を押しつけたほうが多少気が楽だった。
ほとんど慣らさずに彼の中へと自分のモノを挿入し、ゆっくりと揺り動かし始める。
乱雑に扱うべきだ。自分は最低最悪の人間で、断じて彼と心を通わせてこの行為に及んでいるわけじゃない。
体が繋がっているだけで、まるで自分たちは恋人なのだと錯覚しそうになる頭をそうやって戒める。
「あっ、ん…あっ、あっ………」
「っ……!」
気持ちよさそうに喘ぎ声を上げる口を、唇で塞いで呼吸を奪ってしまいたい。その資格が己にはないと分かっていても、淫らな声を上げる彼を愛しく思ってしまう心も、彼を手に入れたいと願う心もなかったことにはできない。
自覚しろ。自分は最低の人間なんだ。愛したいだなんて高望みをするんじゃない。
「アッ、……ん、んっ、ああっ、ッ………」
彼と指を絡め、奥を硬い質量で執拗に荒らし回り、一度だけではなく何度も内側にマーキングをする。
こんなことをしても彼は手に入らない。彼の心は死んだ男に向いていて、俺は報われることはきっとない。
自暴自棄になる心のまま、彼の体を犯し尽くし――小一時間経って冷静さを取り戻した俺は、彼に服を着せ、往生際悪く証拠を消そうとしていた。
情けない。せめて本当に邪悪になりきれればいいのに。彼の隣にいる権利を失うと思うと、今の出来事がなかったことになればいいと願ってしまう。
丁寧に体を拭き、服の乱れを直し、未だ眠りこける彼の顔を見下ろす。ここまでしてもまだ目を覚まさない彼を見ていると、もう二度とこの瞼が開くことはないんじゃないかとすら思えてしまう。
いや、その方がいいのかもしれない。目を覚ました後、今行われた蛮行に気付かれて嫌われるぐらいなら、このまま目を覚まさないでほしい。そうだ。だったらいっそ、俺が自分の手で彼の命を絶ってしまえば――ダメだ。そんなことできない。できるわけがない。でも、だけど、それでも。
どっちつかずの悪意を抱いたまま彼の顔を見下ろし続けていると、その瞼が震え、ようやく彼は目を覚ました。
「先輩、起きたんですね」
寝ぼけ眼でこちらを見上げてくる彼に、俺は心の底から安堵していた。あれ以上、寝顔を見続けていたら衝動に負けていたかもしれない。彼の首に指をかけて、力をこめて、殺してしまっていたかもしれない。
その選択を取らずに済んだことに感謝しながら、できる限り穏やかな顔を作って彼へと語りかける。
「覚えてないんですか? うちで宅飲みをしていたら、急にここに来るって言い出したんですよ。それで――」
大きな嘘はついていない。彼がどんな言動をしていたのか、俺がどんなことを彼に行ったのかを黙っているだけで。
彼は不思議そうに俺のことを見上げた後、とても幸せそうにふわりと微笑んだ。
「俺、またアイツと踊ってる夢見てたみたいだ」
だけど彼の笑顔はゆっくりと引きつったものになり、大きく息を吸うのとほぼ同時に、彼の目からぽろりと涙がこぼれる。
アイツ。土の中の死体の男。また同じ男に負けているという事実を認識し、怒りで顔が歪んでしまいそうになるのを、彼を腕の中に抱きしめることで誤魔化す。
「大丈夫。大丈夫です、先輩。俺がついていますから」
どの口が言っているのかと我ながら笑ってしまいそうになった。二度も明確な悪意を向けておいて、まだ彼の隣にいつづけようだなんて浅ましすぎる。
だけど彼から離れるという選択肢は今更取れなくて、俺は祈るような気持ちで彼を強く抱きしめることしかできなかった。
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