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土の視線(後編)06

 季節がめぐり、夏が来て、冬が来て、また夏がやってきた。あの死体を埋めた日からちょうど二年。そして、彼が定期的に俺を肝試しに誘うようになって一年半が過ぎた。  彼が肝試しに行こうと言う度に、俺は素直に彼を廃墟へと連れて行き、死んだ男のふりをして戯れに付き合い、その代償と言わんばかりに意識のない彼を犯した。  ここまで気付かれなかったのは奇跡のようなものだ。早く真相に気付かれて裁かれたいという気持ちと、ずっとこの日々が続いた方がマシだと思う気持ちが同時に存在し、俺はどちらを強く選ぶこともできないまま半端な時を過ごし――そして、審判の時はやってきた。 「……ぁ……う、ぁ…………」  俺の体の下には、度重なる絶頂で顔も体もぐちゃぐちゃになった和田の姿があった。  意識をほとんど喪失し、うつろな目から涙をこぼしてかすかに震える彼の首に、俺はそっと手をかける。 「ぐっ……が、かはっ…………!」  ゆっくりと力を込めると、彼は飛ばしていた意識をかすかに取り戻し、ほとんど反射的に首の戒めから逃れようと藻掻き始める。  俺は凪いだ気分のまま、淡々と彼の首を絞め続けた。  本当は彼に見てほしかった。あの男に向けている視線のほんの一部でもこちらに向けてくれればそれでよかった。だけど自分は最初の選択から間違えていて、そんなことを望む権利なんてはなから無くて。  だったらもう、終わらせるしかないじゃないか。 「あっ、ぐ………ヒュッ………」  酸素を求めて口を大きく開け、喉をのけぞらせる。無表情のままそれを上から押さえつける俺の目から、一滴だけ涙がこぼれ落ちた。 「ッ、ぐ、ぁ……、きた、が、わっ………」  途切れ途切れに名を呼ばれ、一瞬だけ込めていた力が緩む。苦痛に歪む彼の目は、俺の顔をまっすぐに見上げている。あの男ではなく、俺だけを見ている。  和田の眼球がぐるりと上を向き、口の端から泡を滲ませて全身が脱力する。その時になってようやく正気に戻った俺は、彼の首から手を離し、ずっと止めていた己の息をようやく吸い込んだ。 「は、はぁっ、はっ……、先輩っ……!」  自分が危害を加えた相手を案じて、俺は、彼の肩を揺さぶる。こんなつもりじゃなかった。冷静じゃないだけだったんだ。殺したいぐらい絶望していた。でも本当に殺したいわけじゃなかったのに。  何度も肩を揺さぶり、口と鼻に耳を近づける。彼は、かぼそいものではあったがまだ呼吸をしていた。  気絶する彼の横にへなへなとへたりこむ。  よかった。生きていてくれた。だけど、これからどうすれば。  正気に戻り、途方に暮れながらも俺の体は自然と今し方してしまった行為の後始末を始めていた。  行為の最中、和田は間違いなく意識を取り戻していた。今更証拠隠滅をしたところで、彼が次に目覚めた時、真相が露見するのは避けられない。  だけど彼に対して行った野蛮な行為への罪悪感が、彼の乱れた格好を整える手を動かし続けていた。  数時間が過ぎ、空が白み始めた頃、彼は目を覚ました。  少し離れたところで膝を抱えて項垂れていた俺は、顔を上げて、彼に何か声をかけようとし、失敗する。  何を言っても今更だ。言い訳にしかならない。  判決を待つ罪人のような気分で俯き、彼からの糾弾と軽蔑の言葉を待ち続ける。しかし彼から与えられたのは、昼間の彼が口にするような、穏やかでどこか頼もしい言葉だった。 「付き合わせてごめんな。そろそろ帰ろうか」 「え……」  優しく微笑みながらそう言われ、俺は何が何だか分からずに身動きができなくなる。彼はそんな俺を促して立たせると、ここに来るために乗ってきた俺の車へと連れて行った。  俺を助手席に詰め込み、彼は運転席でエンジンをかける。  何故こんな風に俺に接するのか。優しく、どこか諦めたような顔で微笑んで、あのことに言及しないまま帰ろうとして。  覚えていないわけではないはずだ。覚えていないなら、今の俺の反応に言及するはずだから。  じゃあどうして俺を責めないんだ。そんな、こちらを気遣うような視線を向けて、犯されて殺されそうになったのはそっちなのに。どうして。  罪悪感と混乱で今すぐ車から飛び降りてしまいたくなる衝動を必死で堪えているうちに、彼の運転する車は俺の家へと到着していた。 「じゃあまた、会社で」  それだけを言うと、彼は一人立ち去っていく。後に残された俺は、裁かれて楽になることができなかった心のまま、呆然とそれを見送ることしかできなかった。  週明け、会社に出勤すると、和田はいつも通りの態度で俺に接してきた。周囲も俺たちの間にあったことを悟ることはなく、俺たちのことをとても仲の良い息の合った二人として扱ってきて、彼自身もその扱いを受け入れていた。  あの夜の出来事は夢だったのだと思い込みたくても、彼の首には薄らとあの時の痣が残っている。  どうして責めてくれないんだ。なんでまだ隣にいさせてもらえるんだ。  混乱と困惑で自分が磨り減っていき、最後の意地で周囲に悟らせないようにはしていたが、俺の精神は徐々に限界を迎えつつあった。  そんな日常が続いたある日、突然彼は言い出した。 「肝試しに行こう」  それが何を意味しているのかはハッキリと分かった。  俺は自分の車に彼を乗せて、言われるがままにあの廃墟へと向かった。  きっとここで、俺は裁かれるのだ。これまでの行いへの報いとして彼に殺されそうになったとしても、甘んじて受け入れよう。それで償いが出来て、楽になれるのならそれでいい。  追い詰められて血の気の引いた死人のような顔をして、俺は彼に連れられるまま廃墟の裏へとやってくる。  彼はちょうど死体を埋めた土の上で立ち止まると、こちらに振り向いて、穏やかに微笑んだ。 「間が空いて悪かったな。俺のこと、また好きにしていいぞ」

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