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土の視線(後編)07(終)

「何、言って……」 「もう分かってるから隠さなくていいんだよ。お前、俺との秘密を守る代償として俺を抱いてたんだろ?」  違う、と言いたかった。体目当てで彼を助けたわけじゃない。彼を犯したのはただの八つ当たりで、最初から脅して体を手に入れるために打算で死体を埋めたわけじゃない。  だけど、結果的に死体埋めの代償として彼を抱いていたことも、全てが露見した時に、思わず彼にそう口走ってしまったことも変えようのない事実で、俺は何度も反論の言葉を口にしようとして、全て失敗する。  そんな俺の様子をどう受け取ったのか、彼は苦笑しながらこちらに歩み寄ってきた。 「今まで、アイツ扱いしてきてすまなかった。これからはちゃんと、共犯者になってもらえるように誠意を見せるから」 「誠意、って……」 「あーうん。……行動で示すのが一番だよな。あんまりこういうことに詳しくないから、下手くそでも我慢してくれるか?」  一歩一歩近付いてくる彼から無意識のうちに体が逃げようとして後ずさる。だがすぐに俺は壁際へと追い詰められ、逃げ場のなくなった俺の目の前に彼は膝を突いた。 「ま、待ってください! 俺は、アナタにそんなことしてほしいわけじゃっ……」 「でも、ココは反応してるぞ?」 「ッ……」  布越しに吐息が感じるほどの位置で指摘され、俺の頭は純情ぶった羞恥でいっぱいになる。  顔中を赤くして一歩も動けないまま硬直している俺のベルトを彼は緩め、その内側ですでに膨らんでいた俺の性器を露出させる。  彼はそれを前にして躊躇うように沈黙し、ちらりと一度俺を見上げた後、意を決した表情で口の中へと一気にそれを迎え入れた。 「んっ……ぐっ、ぐ……」  自分で詳しくないと言っていた通り、彼の口淫はつたないものだった。ただ口に入れて動かしているだけで、舌を使うことも吸い付くことも、喉の奥を使うこともしていないぎこちない奉仕。  だけどそれを彼が行っているという事実だけで、俺のモノははち切れそうなほどに熱を持って震えてしまう。 「や、めて、くださいっ……!」  肩を押し、彼の口から自分のモノを吐き出させる。彼にこんなことをさせたくない。彼はこんなことを望んでやる人じゃない。  だけどそんな俺の認識を嘲笑うかのように、彼は明らかに興奮で赤らんだ顔をしてきょとんと俺を見上げてきた。その股間が膨らみ、空いていた彼の右手の指がシャツ越しに胸の先端に触れていたことに気付き、俺の中の彼という人間への認識が音を立てて崩れていく。 「嘘、だ……」  眠ったまま抱かれて乱れる彼を淫乱だと笑ったことはある。だけどそれは本来の彼がそんな低俗な存在じゃないと思っていたからこそ出た言葉で、彼は、本当は、男のモノを自分から咥えて興奮するような人間じゃないはずなのに。どうして。 「あ、あぁあぁああっ……!」  涙混じりの咆哮を上げながら、彼を地面に押し倒す。憎しみにも似た感情を込めて彼を見下ろすと、彼はどこかホッとしたような表情で、俺に向かって腕を広げてきた。 「ほら、好きにしてくれ。後ろも準備してきたから」  今まで己を保ってきた最後の理性の糸が、音を立てて切れた気がした。 「このっ……!」  彼の服を乱暴に剥ぎ取り、後ろから無遠慮に犯し始める。 「ひっ、あ、ぁっ♡あっ、んぐ♡い、いたっ、んぁっ♡」  どれだけ酷く突いても彼の口から出るのは甘い声ばかりで、彼がこの行為を悦んで受け入れているのだと明確に理解してしまう。  俺は泣き出したい衝動を全て彼への責め苦に変換し、ドロドロと濁った感情のまま腰を動かし続ける。 「この、淫乱がっ! 何が代償だ! そんな風に喘いで悦んで、自分が気持ちよくなりたいだけなんじゃないのか!」 「ひ、ぐぁっ♡ごめんなさい♡気持ちよくなって、ごめんなさいっ♡」 「お前の下に埋まってる奴にも見せつければいいんじゃないか? 人を殺しておいてその上で犯されて嬉しいんだろ!?」 「ひっ、ちがっ♡うれしくなっ、うれしくないですっ♡」 「何が違うんだ! 言ってみろ! 言ってみろよぉ……!!」  抑えきれない涙が溢れ、渦巻く感情から震える俺の声は、彼の甲高い嬌声に混じってうまく自分の耳に届かない。  彼は、後ろから犯されながら地面へと縋り付いた。 「ごめんなさいっ♡きもちよくて、んっ、でもっ、こんなのいけないことでっ♡あっ、ん♡だからっ、あっ、罰を受けるのにちょうどよくて♡あっ、ひっ、うぁ♡ごめんなさいっ、あぁっ♡」 「……は?」  懺悔のように途切れ途切れに吐き出された言葉の意味を飲み込み、俺は粉々に砕けたと思っていた自分の心をさらに踏みにじられた思いがした。 「なん、だよ、それっ……!」 「う、ぎっ、あ”、あっ♡」 「俺を何だと思ってるんだ! 俺は、俺だってっ……!」 「あ、ああ”っ♡ひ、んぁっ、あっあぁっ♡♡」  彼は俺を見ていない。この二年間で作り替えられた自身の体も、俺が彼を犯していた事実も、全て土の中の男への贖罪のために利用しようとしている。  裏切られたと思った。だけど最初から彼が俺のものだった瞬間なんてなくて、俺のしていることは最初から最後まで逆恨みの八つ当たりでしかない。 「どうしてっ、なんでぇっ……!」  ぐしゃぐしゃに泣きながら彼を犯す。彼の望むように、彼にとって苦痛となるようなありとあらゆる方法で犯し尽くす。尊厳を貶め、痛みを与え、快楽を感じていることを嘲笑う。そしてそれら全てが彼の罪滅ぼしに利用される。  酷い。酷い。酷い。  こんなに触れあって、傷つけて、内側も外側も全て暴こうとしているのに、彼の視線は土の中へと向いている。  勝負にすらなっていない。俺は、彼にとっての一番には絶対になれない。薄々と気付いていた変えようのない事実から目を逸らそうと、俺は彼の体を一心不乱に貪った。  暴力的な性行為の果てに、彼はほとんど意識を飛ばした状態で地面に横たわっていた。その体には至る所に痛々しい傷跡と執拗なマーキングが残され、冷えてきた頭で俺は苦々しくそれを眺める。  虚しい。俺は彼の視線を向けられるに値しない。高望みはもうできない。  だけど、と最後の希望を込めて、俺は彼の顔に手を伸ばす。 「……先輩、どうか目を閉じてください。俺のこと、あの人だと思ってくれていいですから」  プライドを全てかなぐり捨てて、懇願する。彼は、答えた。 「お前はアイツじゃないよ。……今までごめんな、北川」  彼は顔を持ち上げ、俺たちの唇が重なる。同情めいたその行為の意味を、俺は結局問いただせなかった。

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