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友愛デイドリーム(前編)01
親友と死体を見つけた。偶然だった。
俺にとっての笹木という男は、大学で最初にできた友人だ。受験に失敗し、滑り止めの大学に入ることになった俺は、入学当初、全てに対するやる気をなくしていた。
人生で一番大きな分かれ道を望んだ方向に進めなかったことへの絶望。入学することになった学部は、俺が本当に学びたかった分野とは微妙にズレていて、この大学でも努力すれば志望先の業界に入れるとはいえ、失意のまま入学式を迎えてしまったのは仕方のないことだろう。
そんな心持ちでいるものだから、入学式後の学部オリエンテーションでも俺は浮いていた。
ささやかな歓迎会も兼ねた会場の隅で、俺は紙コップを片手にぼんやりと立っていた。二十名ほどいる新入生たちは皆、思い思いのグループを作り、そこで談笑を始めている。
元々、積極的に人間関係を築くタイプでもない俺は、それをただ遠くで眺めていた。
本当なら今からでも彼らの輪に入って、これから四年間過ごすことになるコミュニティに入れてもらうべきだ。高校を卒業したばかりのガキである俺にも、そうしないとマズいことになるぐらいは分かっていたが、気分が乗らないのだから仕方がない。
このまま誰も友人を作らずに家に帰ることになるのかと思い始めたその時、声をかけてきたのが笹木だった。
「あのさ! 俺、笹木っていうんだけど、お兄さん、名前なんてーの?」
「はあ?」
完全にナンパ男の声のかけ方をしてきた笹木は、緊張した面持ちで笑っていた。一人でいる自分を奇妙に思ってからかいに来たのかと、俺は彼に冷たい目を向ける。
「真田だけど。何の用?」
「えっ、何の用っていうか……できればお友達になりたくて……」
「友達が欲しいなら他を当たったほうがいいんじゃない? 俺と友達になってもメリットとかないし。それともぼっちで寂しく立ってた俺に同情でもした?」
「そ、そうじゃないっ!」
上ずった声を張り上げて、笹木は否定する。俺は顔全体で「迷惑だ」という意思を表明した。
「うるさい。大声出さないでくれる?」
「ご、ごめん……。でも本当に同情じゃないんだよっ」
「じゃあ同情じゃないなら何」
「……運命感じたって言ったら、信じてくれる?」
「は?」
「一目見てビビッと来たんだよ! 俺たちは……えーと、何というか……そう! 人生で一番の親友になれるって!」
頬を上気させてしどろもどろになりながら熱弁する彼を、俺は呆れた目で見つめた後、小さく鼻で笑った。
「へぇ、そう。そうなったらいいな」
明らかにこちらのプライドを気遣って嘘をついた彼の言動には、不思議と腹立たしさを覚えることはなかった。今後、友人になることはなくても、今、彼の言葉を切り捨てなくてもいいかと思うぐらいには、俺の機嫌は悪くなかった。
だがその俺の言葉を、笹木は「友人になることを了承した」と捉えたらしい。笹木は俺に手を差し伸べ、裏表のない爽やかな表情で笑いかけてきた。
「ああ! これからよろしくな、真田!」
「……ふーん、好きにすれば」
これ以上何を言っても無駄だと判断し、俺は彼の手を一応取って握り返した。
そこからの四年間、笹木は何かにつけて俺を構ってきた。彼は明るくて前向きな性格だから、他にも友人はたくさんいるのに、どういうわけか彼が俺と友人でいることを諦めることはなかった。
「真田ー! メシ行こうぜ、メシ!」
「行かない」
「なんでだよー、昨日も一昨日もその前もダメだったじゃんお前!」
「そもそも昼飯は食べない主義なんだよ」
「ええっ!? そんなのダメだって! 俺がおごっちゃるから、何でもいいから食いなよ! 何がいい? おかゆとか?」
「やめろ、離せ、引っ張るな! 分かったから!」
こちらの軽口にいちいち驚いて慌てる笹木に対して、好意的な印象を持つまでにそう長い時間はかからなかった。
やけに懐いてくる近所の子犬ぐらいに思っておけば、多少ウザくても許せる。そんな微笑ましい目で見ることができるぐらいには、笹木はまっすぐな好青年だった。
俺の態度が軟化した後は、流れるように俺たちの仲は縮まった。笹木はいつもニコニコと楽しそうにしていたし、俺もつられて笑う瞬間も徐々に多くなっていった。
だけど大学生活は永遠には続かない。笹木はインターンを経て、都心の大きな企業に就職することが決まり、俺も自分の進路を選び取ることに成功した。
「あと半年で俺たち卒業だけどさ、卒業語も特に変わらず、たまに会って遊んで過ごしてそうだよなー」
「……笹木。その、言わなきゃいけないことがあるんだ」
学食でなんとなく話を振ってきた笹木に、俺は気まずい思いで切り出す。
「え。どうしたんだよいきなり。そんなマジな顔して」
「俺、海外に行くんだ。多分、数年は帰ってこないと思う」
それは、本来志望していた分野に進むために必要な足がかりだった。海外で経験を積み、その後、日本に戻って資格を取って夢を叶える。入学当初から頭の中にはあったその道筋を、俺は順調に辿ることに成功したのだ。
そのことを伝えると、笹木は酷く裏切られたような顔になって、狼狽し始めた。
「えっ、な、なんで言ってくれなかったんだよ! お前今まで一言もそんなこと……」
「宣言して失敗した時に同情されるのが嫌だったんだよ。悪かったって」
「だからってさー! 数年もお前に会えないの、俺耐えられないよ! 酷い!」
「はいはい、お前には俺以外にもたくさん友達がいるだろ。さっさと俺の代わりを見つけるんだぞ」
軽い気持ちでそう言うと、笹木は急に黙り込んだ。後ろめたさから逸らしていた目を彼に向けると、彼はぎゅっと唇を引き絞り、ボロボロと涙を流していた。
「そ、そんな言い方しなくても、いいじゃんっ……」
「えっ……なんで泣くんだよ、悪かったって。でもお前、俺に依存しすぎなのは事実だし、前々からちょっとぐらい離れてみたほうがお互いのためなんじゃないかとは思ってて――」
「うるさいっ! 真田なんてもう知らない! バカぁ!」
笹木は小さな子どものように癇癪を起こし、そのままどこかへと走り去っていった。後に残された俺は、しばらく驚きで硬直した後、周囲の気まずい視線から逃げるようにその場を後にした。
それから、俺と笹木の関係は微妙なものになった。会えば挨拶はするし会話もするが、それは以前より距離の空いたやり取りになっていて、四六時中一緒にいることもなくなった。
むしろ今までが異常だったんだと心を落ち着かせようともしたが、この三年半ずっと隣にいた彼が離れている現状は、まるで体の一部に穴が空いてしまったかのように落ち着かないものだった。
謝るべきなのか。でも謝ったところで、俺の海外行きの事実は変わらない。笹木はきっと俺を許してくれないだろう。
そんな折りに耳に飛び込んできたのは、学部主催の卒業旅行の話だった。
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