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友愛デイドリーム(前編)03

 冗談めかして告げられたその提案を受け入れたのは、当然、彼と二人きりで話すことが自分にとっての目的でもあったからだ。  もっとも、二人きりになったところで彼に何を言うべきなのか、どう謝罪すれば良いのか、未だに思いついていないのだが。  笹木の後ろについて部屋を抜け出し、薄暗いホテルの廊下を進む。俺は寝間着代わりのルームウェアだったが、人の気配が全く無かったのでこれでいいかと己を納得させた。  彼はほとんど喋らないまま一階に降り、ロビーを通り過ぎてホテルの外へと俺を誘う。月のない夜空の下に出て、流石に不安になってきた俺は笹木に尋ねた。 「なあ笹木。抜け出すって、一体どこに行くつもりなんだ?」 「んー、二人きりになれるとこ?」 「え?」 「俺、お前だけに話しておきたいことたくさんあるからさー」  お前だけに、という一言だけで仄かに悦んでしまう自分がいることにウンザリした。きっとコイツは俺以外にも同じようなことを何気なく言っている。そう考えないと、ここまで想ってくれている彼を突き放そうとしている罪悪感で押しつぶされてしまいそうだった。 「……分かった、どこでもついてくよ」 「うん、あんがとね」  適当に履いたスニーカーで地面を踏み、俺たちは温泉街を歩いていく。町はすっかり明かりを失っており、昼間の活気はその名残すらない。  左右に観光客用の店が並ぶ細い道を下っていくと、地元民のための入り組んだ住宅地へと出た。民家の明かりもすっかり消えており、申し訳程度に立つ街灯のみが俺たちの歩く道を寂しく照らしている。  二人分の足音だけを聞きながら無言でさらに歩いていった先には、急勾配の坂道と、その奥に聳え立つ巨大な廃墟が待ち構えていた。 「大昔にでかい企業が大規模な観光施設を作ったんだけど、景気が悪くなって潰れちゃったんだってさ」 「詳しいんだな」 「去年行った先輩達が教えてくれてね。毎年、肝試しとか酒盛りとかここでやってるっぽい」 「へえ」  あらゆる彼の言動の向こう側に、自分以外の他の人間との関わりがあるという事実に、俺はなんだか嫌な気分になっていた。それが嫉妬と名付けられるべき感情であることは明らかで、己にはそんな風に彼に対して思う権利は無いと、強く自分を戒める。  こちらがそんなモヤモヤを抱えていることなど知らぬ顔で、笹木は俺の手を引いて歩き出した。 「じゃ、俺たちも探検出発といきますかっと」 「まずいんじゃないのか? 不法侵入だぞ」 「……真田は、俺と悪いことするの嫌?」  笹木はこちらに半分だけ振り返り、狡い言い方をする。だというのにその目は拒絶を恐れて不安げに揺れており、俺は大きくため息をついた。 「いや、付き合うよ。話があるんだろ?」 「……うん! へへっ、一度真田とこういう危ない秘密の共有してみたかったんだよなー」 「どっちかがバラしたら叱られる秘密か。確かに、ちょっといいかもな。そういうの」  包み隠さぬ本音を何気なく口にする。すると笹木の表情はいっそ笑えてしまうほど明るいものになり、彼は顔をくしゃくしゃにして照れくさそうに笑った。 「うん! 裏切ってバラしたりしたら許さないからなー?」 「はいはい、バラすわけないだろ」  俺たちは談笑しながら建物の中へと入る。その僅か十分後、建物二階の片隅で偶然見つけてしまったもののせいで、秘密の共有という戯れが深刻な意味となって自分たちに降りかかることになるだなんて、その瞬間の俺たちは思いもしなかった。

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