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友愛デイドリーム(前編)04

 申し訳程度に廃墟を囲む赤茶色に変色した鎖の柵をまたぎ、俺たちは廃墟の敷地へと侵入する。  生まれてこの方、ささやかなルール違反もしてこなかった自分がこんな明確な法律違反をすることになるだなんてと思うと、高揚と怯えで胸が高鳴った。 「真田、もしかしてビビってる?」 「ああ。こんな悪いこと、生まれて初めてだからな」 「あはは、じゃあ今の俺は真田の初めてを奪ってるってわけか」 「紛らわしい言い方するなよ、気持ち悪いな」  小さく笑って返すと、笹木は数秒だけ沈黙した。 「うん、そうだな。冗談だよ冗談! そろそろライトつけるか!」 「あ、ああ」  笹木はわざとらしく話題を切り替え、スマホのライトをつけて前方を照らす。  何か、答え方を間違えてしまっただろうか。後悔する自分はいたが、だったらどう返事するのが正解だったのかと考えても一向に答えは見つからない。  気まずい沈黙を共有しながら俺たちは歩いていき、廃墟の正面玄関へと辿り着いた。 「へー、結構そのまま残ってるもんだな!」 「ああそうだな」  施設の入口は両開きのドアが三つ横に並んだ形をしており、その置くには休憩スペースを兼ねていたと思われるメインホールがあった。  笹木が取っ手を握って引っ張ると、軋んだ音こそ鳴ったがあっさりとドアは開き、俺たちを中へと迎え入れる。  水のない噴水、吹き抜けの天井、密閉され停滞していた空気を分け入っていく感覚。まるで世界に自分たちしかもう生きていないかのような静けさに圧倒され、俺たちは無意識のうちに身を寄せ合って、恐る恐る建物の中へと歩みを進める。 「……こんな怖いとこで酒盛りとか、先輩たちどんだけ肝座ってるんだよー」 「同感だな。もしホームレスが住んでて、その人たちの怒りを買ったりしたらどうするんだ。いや、ホームレスはまだいいな……、ヤクザとかがこっそり何かに使ってる可能性だってあるのに」 「ちょっ、お化けより怖いこと言うなって! うぅ……ここが空き家でありますように……」  心底怯えている顔で、笹木はさらに俺に密着する。彼の体温が服越しに伝わってきたが、不思議と不快ではなかった。  体温を分け合うように寄り添っている今この瞬間が、ずっと続いたらいいのに。大学を卒業して社会人になる未来を捨てて、この寂しくて静かで俺たちだけしかいない空間で、永遠に一緒でいられたら。 「っ……」  危うい方向に思考が傾きかけたのを、慌てて理性で中断する。  もしもの話だとしてもありえない妄想だ。そんなこと絶対に実現しないし、言葉として発することすら許されない。もしうっかりこんな妄想をしたと笹木にバレたら、きっとコイツは俺に幻滅する。  こんな、重い感情を抱いているだなんて知られたくない。笹木は純粋な気持ちで、どうしようもなく偏屈な俺のことを友人だと思ってくれている良い奴なんだから。  自己嫌悪と気まずさで、彼から一歩距離を取る。笹木は戸惑ったようだったが、俺の真意を尋ねることなく一歩離れた位置で歩き続けた。  声を出すのもはばかられるほどの静寂の中、俺たちはホール近くにあったエスカレーターを登って二階へと足を進めた。随分前に動くことを止めたエスカレーターは、登りながら恐怖を感じるほど足元が不安定で、下りの時にもこれを使うのは危険だと俺は判断する。 「笹木、先に帰りに使うための階段を探さないか?」 「え? う、うん。エスカレーターちょっと怖かったしな、はは……」  薄暗くてよく見えないが、笹木の顔色は少し悪いような気がした。自分で案内したくせにここまでビビるなんて情けない奴だとは思ったが、友人としての情けでそれを指摘するのはやめてやった。  その代わりに俺は勇気づけるように再び彼との距離を詰め、一緒に歩き始める。 「えっ、真田……」 「何でもないよ。ほら、行くぞ」

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