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友愛デイドリーム(前編)05
戸惑う笹木を誤魔化し、俺は二階から降りる階段を探して歩き始める。笹木は気まずそうにはしていたが、俺の行動の真意を問うことなく黙ってついてきた。
気遣いに言及されないのはいいが、こいつが黙っているとなんだかムズムズする。笹木はいつだって口下手な俺の代わりにあれこれと話を振ってくれて、楽しいことを色々と教えてくれて――
こいつは散々そうやって俺に与えてくれたが、俺から彼に何かを与えたことがあっただろうか。こんなつまらない男にどうして付き合ってくれるのか。彼を繋ぎ止めたいなら、何かを差し出すべきじゃないのか。
彼とホテルを抜け出してから何十回も陥ってきた思考の沼にハマり、知らずのうちに歩みが遅くなる。
何か、彼に与えられるものを自分は持っていないのか。せめて返せるものの一つぐらい思いつかないのか。
暗い思いで俯き、足元ばかりを見て歩いていく。その時、隣を歩いていた笹木がぴたりと立ち止まり、悲鳴を小さく上げて俺に抱きついた。
「ひっ……!」
「うわっ、笹木!?」
「さ、真田、あれっ……!」
笹木が指さす先にあったのは、薄暗い階段と、そこに座り込む人影だった。ボロボロの毛布をかぶって動かないそれを見て、俺は笹木に囁く。
「ただのホームレスだ。寝てるみたいだから気付かれないうちに離れよう」
「あ、ああ。でも何というか、この匂い……」
彼に促されるように鼻を動かす。生ゴミのような甘い鼻をつく香りが嗅覚を刺激した。
「まさか……」
「うん……」
どちらともなく俺たちはその人影に歩み寄る。ハエが一匹飛来し、人影の顔へととまる。人影はそれに反応することなく、ぐったりと手足を投げ出している。
俺たちは互いに支え合うように慎重にその人物へと近づいていき、その俯いた顔を覗き込む。彼の目はぼんやりと見開かれており、眼球に留まったハエが祈るように前足を擦っていた。
「死んでるの……?」
「ああ、そうみたいだな」
ガタガタと震えながら聞いてくる笹木に、できるだけ平静を装って答える。だけど込み上げる恐怖を完全になかったことにはできず、隣に立つ彼に密着して俺たちは震えを共有する。
静かすぎる夜の中、互いの呼吸しか聞こえない時間をしばらく過ごした後、俺はふと死体の足元に置かれている手帳が開いたままになっていることに気がついた。
『私を、見つけないで』
乱れた筆跡で遺されたそれは、誰に向けたものかもわからない見知らぬ死体の遺書だった。
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