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『友愛デイドリーム』(後編)01

 最初から、友達のつもりなんかじゃなかった。  真田を初めて見た時、俺は一目惚れというものの実在を本能で思い知った。  入学式後の学部オリエンテーション。そこで真田は、明らかに浮いていた。  ただでさえ鋭い目元は不機嫌そうに細められ、周囲全てを薄らと拒絶している。黙って立っていれば美形の部類に入るので、声をかけようかと迷う女子もいたようだが、あまりにつまらなそうにしている彼の様子に結局諦めていった。  かく言う俺も、真田の見た目に一目惚れし、何とか声をかけられないかと隙を窺っていた。 「……でさー! 笹木はその辺どう思うよ?」 「え? うん、そうだなー」  真田の存在に気付く前に声をかけてしまった同級生連中が、空気を読まずに会話を続けてくる。  昔から友人関係を築くことだけは上手かった。何もしなくても俺の周囲には人が溢れていたし、こちらが苦手な相手も勝手に近付いてきた。  俺はその全員と当たり障りのない関係をいつも築いてきた。  人と深く関わりたくない。自分の本質を他人に共有したくない。だけど、壁際でつまらなそうに紙コップを持っている真田の姿を見ていると、何故だか俺は自分のその信条を曲げても良いとすら思った。 「あ、あのさ! 俺、笹木っていうんだけど、お兄さん、名前なんてーの?」 「はあ?」  やっとの思いで取り巻きから逃れた俺が真田にかけてしまったのは、どう好意的に解釈しても不審者そのものの一言だった。  案の定真田はすっかりこちらを警戒していて、俺の頭は彼にどう言い訳すればいいか必死で回転を始める。 「真田だけど。何の用?」 「えっ、何の用っていうか……できればお友達になりたくて……」 「友達が欲しいなら他を当たったほうがいいんじゃない? 俺と友達になってもメリットとかないし。それともぼっちで寂しく立ってた俺に同情でもした?」 「そ、そうじゃないっ!」  とっさに大声で否定すると、真田は露骨に嫌な顔をした。  同情だと思われたくない。仲良くなりたいんだ。本当は、恋愛っていう意味で。  初対面の同性からそんなことを言われて喜ぶ人間なんてこの世にはきっといない。それでも嘘偽りのない気持ちだけは伝えたくて、俺は衝動のままに口を動かす。 「……運命感じたって言ったら、信じてくれる?」 「は?」 「一目見てビビッと来たんだよ! 俺たちは……えーと、何というか……そう! 人生で一番の親友になれるって!」  最後の最後で臆病な自分が顔を出し、親友という言葉でお茶を濁してしまった。  でも、これが今の俺に出来る精一杯の気持ちの伝え方だ。拒絶されて終わるような気はするけど、大学生活はまだまだ長い。ここで作った縁を手放さず、いつか彼を振り向かせてみせる。  そうやって内心で決意を固めながら、俺はじっと真田からの拒絶の言葉を待つ。  だが彼から返ってきたのは、呆れ混じりの微笑みだった。 「へぇ、そう。そうなったらいいな」  そのたった一言で、俺の思考は浮かれて舞い上がり、まるで愛の告白が成功したような気分で手を差し出してしまう。 「ああ! これからよろしくな、真田!」 「……ふーん、好きにすれば」  握り返してきた真田の手は驚くほど冷たくて、俺は時分の手汗がバレやしないかと緊張してしまう。  四年間だ。この四年間で俺は、大好きになってしまったこの人を手に入れる。  ただぼんやりと生きてきた節のある俺の人生に、明確な目標というものが生まれた瞬間だった。

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