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友愛デイドリーム(後編)03
「……笹木。その、言わなきゃいけないことがあるんだ」
いつも通りの学食での時間。それにひびを入れるように、真田は言いづらそうな顔で切り出してきた。
「え。どうしたんだよいきなり。そんなマジな顔して」
嫌な予感から声が震え、俺たちの間に気まずい空気が流れる。だけど、目の前の水たまりを敢えて避けずに踏みつけるかのように、真田は決意の籠もった目で言った。
「俺、海外に行くんだ。多分、数年は帰ってこないと思う」
その言葉を飲み込むのに、体感で何十分もかかった気がした。実際はほんの数秒でしかない沈黙の後、俺は狼狽えながら彼を問い詰める。
俺に今まで言わなかったのは、うまくいかなかった時に同情されたくないというのが理由だったらしい。プライドの高い真田らしいと納得するのと同時に、それでも一言相談してほしかったという感情が込み上げる。
だって俺は卒業後も変わらず、真田と過ごせると思っていて、俺たちは唯一無二の親友で、その一線を踏み越えるための覚悟も前々から固めていたのに。
身勝手すぎる憤慨を抑えきれずにさらに言葉を重ねると、真田はヤケクソ気味な言い方で決定的な一言を言い放った。
「お前には俺以外にもたくさん友達がいるだろ。さっさと俺の代わりを見つけるんだぞ」
思考が完全に停止した。真田が何を言っているのか本気で分からなかった。受けとめられなかった。
俺以外にもたくさん友達がいる。俺の代わりを見つけろ。
何言ってるんだ。俺にとってお前は唯一で、代わりなんているはずがなくて、だけどお前は、俺にとってのお前が唯一じゃないと思ってたのか。
互いにたった一人の親友だと思っていたのは、俺だけだったのか。
その上、代わりを見つけろだなんて冷たいこと言って、お前は俺から離れていくのか。お前にとっての俺は、そんな風に手放してもいい存在だったのか。
「そ、そんな言い方しなくても、いいじゃんっ……」
口から出たのは情けない恨み言だった。目からは涙が溢れ、逆恨みの感情がとめどなく押し寄せる。
俺は、お前のために周囲の『友人』たちと付き合ってきたのに。それも知らずにこんな風に言うなんて酷すぎる。
でも、そもそも真田はそんなことをしてくれだなんて一度も言っていなくて、全て自分のお節介の空回りでしかなくて。だけどこのままだと真田に当たり散らしてしまいそうで、俺はそんな自分が本当に嫌になった。
「真田なんてもう知らない! バカぁ!」
小学生のような捨て台詞を吐いて、俺はその場から逃げ出した。これ以上、理不尽な逆恨みで彼を責めたくはなかった。
自分のしていたことはただの自己満足だったんだ。色々と理由をつけて立ち回って、真田を陰から守っている気になって、悦に浸っていただけなんだ。
逃げ出した先で一人になり、ぐすぐすと鼻を啜る。
裏切られた。違う。正しいのは真田だ。真田は自分が離れた後の、俺のことを気遣って、ああいう風に言っただけなんだ。隠していたことについても、あれ以上の理由はきっとないんだ。
言葉選びは本当に、最悪だったけど。真田が口下手なのは今に始まったことじゃないじゃないか。
「……明日、真田に謝ろう」
憂鬱なため息と同時に、決意の言葉を口にする。
頭を下げて、謝罪しよう。そうしたらきっと真田は戸惑いながらも許してくれるし、俺たちは元の関係に戻れるはずだ。
だけどその目算は甘く、俺たちの間には翌日から見えない壁ができてしまっていた。
いつも通りに近付いて会話をしようとしても、どうしてもうまく会話できない。あちらもそれは同じのようだった。こちらを嫌っているというわけではなさそうなのが唯一の救いだ。
まるで水中での呼吸の仕方を忘れた魚のように、俺たちは今まで自分たちがどうやって一緒に過ごしていたのかを忘れてしまっていた。
どうすれば今までの関係に戻れるのか分からない。一言謝罪すればいいのか。時間が空いてしまった今、どんな言葉をかければいいのか。
会話をしようとしても、少しの会話の後、気まずい沈黙が毎回流れる。そうしているうちに空気の読めない『友人』たちが話しかけてきて、俺を別の場所に連れて行ってしまう。いつも、その連続だった。
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