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友愛デイドリーム(後編)07

 別離の恐怖で強張っていた真田の顔色がさっと青くなる。それを見て俺は、世界の終わりのような気分になっていた。  万が一、もしかしたら俺の気持ちに応えてくれる未来があるかもしれない。彼も俺と同じ気持ちを抱いていて、愛を交わし合うことができるかもしれない。  そんな、何千万分の一でもありえない妄想を口にしてしまった結果がこれだ。きっとほんの数秒後には、真田は軽蔑の目を俺に向けることだろう。  それを直視したくなくて、俺はぎゅっと目をつぶって顔を深く俯かせる。  痛いほどの沈黙の後、真田の靴音が近付いてくるのが聞こえた。 「……笹木」 「うん」 「ちょっと、顔に触るぞ」 「えっ……んむぅっ!?」  そっと顎に手を添えられ、持ち上げられた唇に柔らかいものが軽く触れる。驚いて目を開けると、至近距離に真田の整った顔があって気絶するかと思った。  薄く、不健康な唇が俺の唇から離れ、俺は目を丸くしながら自分の口元を指で押さえる。 「え、真田……なんで……?」 「……もしかして、今の要求もたちの悪い冗談だったか? もしそうでも俺は謝らないぞ。こっちだってファーストキスだったんだ。お前はどうか知らないけど」 「俺だって初めてだよ! それにさっきのは冗談じゃないっ! 本気! ホントのホントの本気で言った! ……クズで卑怯でホントにカスで、ごめん」  勢いで答えてから、改めて自分の言動の最低さを認識して顔を覆って項垂れる。真田は何故かくくっと小さく笑ったようだった。 「いつもの調子にやっと戻ったな。ずっと神妙な顔しやがって」 「え」 「まあ、お前の言ったことが最低なのは事実だけど」 「うぐっ……」  反論の余地のない事実を告げられ、俺は情けない顔で押し黙ることしかできない。でも、軽蔑の表情が顔に浮かんでいて当然のはずの真田は、どこか吹っ切れたように爽やかに笑っていた。 「あのさ」 「うん」 「俺のこと許してくれんの? すげー酷いこと言ったのに」 「まあ、うん。驚いたけど、逆に謝りたいのはこっちだなと思ったから」 「え?」  真田は数秒暗い顔で言いよどんだ後、やけに決意の籠もった目でこちらを見た。 「ごめんな笹木、もしかしなくてもお前、この四年間ずっと俺に恋愛的な意味でアプローチかけてきてたんだよな」 「えっ」 「それにも気付かず、あの日学食で最低なこと言ったって今さっき気付いたよ。本当にごめん」  深々と頭を下げる真田に、俺は慌てて彼の肩に手を置いて顔を上げさせる。 「お、お前が謝ることじゃないって! 俺はただ好きでやってただけだし……」 「それでも謝らせてくれ。本当にすまない。気持ちに気付かなくて、ここまで言わせるぐらい追い詰めて……」  誠実そのものの態度で告げる真田に不覚にもときめいてしまい、俺は複雑な表情になる。 「真田、お前、隠れスパダリだったんだな。今のお前になら抱かれても良いって思っちゃったよ、一瞬だけ」 「ん? 抱かれる側がいいのか? 俺、お前で勃つか分からないんだが……」 「物のたとえだよ! 抱きたいのは俺! ……ていうかその、さ。さっきのキスはどう受け取ったらいい? マジで抱いていいの? それとも……同情?」  弱々しく尋ねると、真田はまだ迷いがあるような顔になった。 「正直、お前を恋愛的な意味で好きなのかは分からない。セックスしたいかって言われてもピンと来ないんだ」 「うん、そうだよな……」 「でもただの同情かって思うとちょっと違って……、その、傲慢なこと言ってもいいか?」  躊躇いがちに視線でうかがってくる真田に、俺は緊張しながら小さく頷く。真田は俺の手をぐっと握り込んだ。 「好きとかよく分からないけど、お前とずっと一緒にいたいんだ。だから……俺のこと、これから惚れさせてくれないか?」  上目遣いで覗き込むように言われ、俺の中の欲望が臨界点をあっさりと超える。マグマが噴き出るような衝動のままに、俺は真田の両肩を正面から強く掴んだ。 「真田!」 「あ、ああ」 「今から抱く! できるだけ優しくするから、俺にお前を抱かせてくれ!」  興奮も露わに詰め寄ると、真田は仕方なさそうに小さく苦笑した。 「いいよ。期待外れの反応しかできないが、がっかりするなよ?」

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