27 / 45

友愛デイドリーム(後編)08(終)

 そんなわけない! という言葉を口にするより先に、体が動いて真田の唇を乱暴に奪っていた。  互いにキスの初心者なので何をどうすればいいか分からなかったが、とにかく舌を入れればいいことだけは分かっていたので、半分だけ開いた唇をこじ開けて真田の口内に舌を侵入させる。  真田も戸惑いながらではあったが俺の舌に自分の舌を絡めて、俺たちは止め時の分からない長いキスを続けていった。 「ん、んーっ、んんーっ……!」  真田が唸るように何かを主張し、俺の胸を拳で何度も叩く。慌てて唇を離すと、真田は肩で息をしながらこちらを睨み付けてきた。 「こ、殺す気かっ……!」 「えっ、ご、ごめん……。鼻で息してなかったのか?」 「そんな余裕なかったんだよ、バカっ!」  珍しく声を荒げて叱りつけられ、俺はしゅんと肩を落とす。その姿があまりに哀れに見えたのか、真田はほんの数秒オロオロとした後、もう一度俺の胸を軽く叩いてきた。 「今のでやり方は覚えたから。続き、しないのか?」 「す、する! ……もう一回、キスしていい?」 「許可取るようなものでもないだろ、バカ」  照れくさいのを隠すように唇をとがらせて乱暴な言葉を吐く真田に、どうしようもない愛しさを感じる。俺は今度は優しく触れるだけのキスをすると、真田と額を合わせて顔をくしゃくしゃにして笑った。 「俺、こんなに幸せでいいのかな」 「いいんじゃないか? あー、でも――」  ちらりと、真田の視線が少し離れた位置に向けられる。そこには例の男の死体が、心なしか恨めしそうに座り込んでいた。 「……真田。死体、どうする?」 「ここでセックスするのに、死体は放置っていうのも申し訳ないというか」 「だよなー」  俺たちはすっかり恐怖の対象ではなくなった死体を前にして、ああでもないこうでもないと話し合う。死体なんかよりずっと怖い、互いへの感情の在り方に結論が出た今、この死体に俺たちは何らかの義理を果たさないといけない気分になっていた。  十分ほど話し合い、俺たちは結論を出した。 「埋めてあげよう。墓の位置も分からないように」 「ああ」 「それで……その後にセックスしよっか。いいよな?」 「いいって言ってるだろ。何度も言わせるな」  軽く肘で小突かれ、溢れる幸せのままに顔が笑みの形になる。  俺たちはひとまず死体を埋めるための場所を探して、施設から出て、周辺の庭園や駐車場になるはずだったところを歩き回った。  だけど施設の周囲の地面はどこもかしこもアスファルトで舗装されていて、その外側に広がる森は急な斜面ばかりが存在していた。到底、人一人を覆い隠せるほどの穴が掘れるようには見えず、俺たちは途方に暮れる。  そもそも都合良くシャベルや台車といったものが見つかるわけもなく、歩き疲れた俺たちは駐車場の真ん中に座り込んで空を見上げた。 「はぁ……。決意を固めたことに限って、思い通りにはいかないなー」 「まあそんなものだろ。人生はいつだって、第二希望が通るんだ。実際俺はそうだったし」 「え、じゃあ真田にとっての俺は第二希望だったりする?」 「まさか。お前以外にはこんな風に真夜中の散歩に付き合わないし、変なこと言われても受け入れたりしないよ」 「あ、変なことだとは思ってたんだ」 「そりゃまあ、ただの親友だと思ってたし」 「それもそうかー」  俺は気の抜けた返事をし、ひび割れたアスファルトの上に仰向けになる。 「このまま寝て起きてさ、今日のことが全部夢だったらどうしよう」 「え?」 「一緒に死体を埋めるって決めたのも、セックスしてくれるって言われたのも、死体を見つけたのも全部夢で……お前を縛れる秘密なんて最初からなくて、旅行が終わったらお前は遠く離れたところに行っちゃって……」  嫌な想像をしているうちに気分が沈んでいき、自然と鼻を啜ってしまう。真田は少し黙った後、そんな俺の額をべしっと叩いてきた。 「バーカ」 「いでっ」 「そんなに不安なら今夜は眠らなきゃいいだろ。このまま朝まで死体を埋める方法を探して、埋められても埋められなくても一緒にホテルに帰って、部屋の奴らに内緒で朝風呂にでも入ればいい。どうせ、お互い話したいことがまだまだあるんだしな」  空を背負ってこちらを見下ろしてくる真田の顔は泣きたくなるほどいつも通りで――、俺は四年分の押し込めてきた感情と罪悪感を、たった一言で吐き出した。 「真田。俺、お前に一目惚れしてたんだ」

ともだちにシェアしよう!