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吊られた男(後編)01
ろくな人生にならないと、少年の頃にはもう分かっていた。
俺の父は地位ある家の当主だったが、母は使用人だ。当主が気まぐれに手を出した女が身ごもり、野心を抱いた彼女が敢えて堕ろすことなく生まれてしまった私生児。それが俺だった。
母は俺の存在を盾に名家の一員として食い込むか、金を要求するかという目論見のもと俺を産んだらしいが、俺たち母子に待っていたのは屋敷の近くのあばら屋での軟禁生活だった。
衣食住こそ保障されたが、ろくな外出も許されず、屋敷に近付くことすら禁じられた生活。その惨めさに耐えかねて、母は俺が十の時に自ら死を選んだ。
縄で首をくくってぶら下がっている彼女を見た時、俺はその体を下ろしてやろうとすら思わなかった。ただ、厄介者扱いながらも衣食住を与えてくれていた屋敷の人々にこれからどう接していけばいいのかということばかり、ぼんやりと考えていた。
悩んだ末、俺はあばら屋から逃げ出すことにした。母が後生大事に隠していたかつて当主からプレゼントされたという金品の存在は知っていた。それを持ち出して換金し、これからは一人で生きていこう。困難な道であることは分かっていたが、このまま一生飼い殺されるよりはマシだと思えた。
逃げ出す前に、どうせならと俺はこっそり屋敷を見に行った。母がよく恨み言で、俺とそれほど年の離れていない嫡男が屋敷にいると言っていたのだ。
自分が立っていたかもしれない場所にいるその子どものことを、一目見てもバチは当たらないだろう。そう思って屋敷の裏手で身を隠して様子を窺っていると、裏口の戸が開いて、八つほどに見える少年が姿を現した。
線は細いが利発そうな顔立ちで、その肌は驚くほどに白かった。何の苦労も恐怖も感じたことがないであろう無防備さで、好奇心のままに動き回るその小さな生き物を前にして、俺は自分がどんな感情を抱いているのか分からなくなっていた。
憧れではないはずだ。自分よりも幼く、非力なその生き物に憧れるはずがない。
では怒りか。憎しみか。何故? 自分よりも弱いそれが、自分のいるはずだった場所で能天気な顔で生きている。嫉妬。恨み。母に寝物語で聞かされてきた屋敷の人間に対する負の感情が、己の中の正体不明の感情を苛烈に燃え上がらせる。
俺はあれより上のはずだ。それを思い知らせたい。支配したい。
こんなはずじゃなかった。もっとうまくいくはずだった。あなたは本当は、もっと強い存在だった。
なけなしの自己肯定感を支えている母の妄言が耳の中でこだまし、息を殺すのも忘れて、無垢な少年を見つめ続ける。
「あっ」
小さな声にハッと気づくと、少年は俺の存在に気付いて目を丸くしていた。
見つかった。逃げないと。頭ではそう分かっているのに体は動かない。このままでは少年に屋敷の者を呼ばれて、捕まってしまう。俺の人生はそこで終わってしまう。
「――おにいちゃんっ!」
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