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吊られた男(後編)07
支配されることに慣れきった家畜のようなその反応に、さらに苛立ちは膨れ上がり、物欲しそうにしている彼の首元へと手をかける。
肉がほとんどついていない青白く細い首は、あっさりと手の中へと収まった。ゆっくりと指に力を込めていくと、空気を求めて自然と彼の顔は上向いていく。
晒される形になった喉を潰すように親指で押し込み、命の危機によってうろうろと揺れる彼の瞳孔を真上からずっと覗き込む。
「ッ……、かはっ、ぁ………」
「よく見ろ。俺は旦那様じゃない。ちゃんと俺を見ろ。お前を支配しているのは俺だ」
「だんなさま、じゃ…ないっ……? っ、ぁ……だ、れ……?」
「……お前の兄だ。兄である俺は、弟のお前より強くて正しい。分かったな?」
「ぐ……、カハッ……ぁ、っ」
いよいよ窒息して意識を失おうとしている現実に、本能的に抵抗しようとしたのか、彼の指が俺の手に伸ばされ爪を立てられる。
俺は非力なその抵抗をしばし見守った後、ようやく彼の首から手を離した。
「がはっ……げほ、ごほっ……おぇ…………」
「こちらを向け。自分の口で答えろ。俺は、旦那様ではなく、何だ?」
「けほっ、けほ……はっ………、はい、にいさま、です……」
瞳に宿っていた恍惚とした色が僅かに薄れ、若干の理性を感じさせる口調で彼は答える。
正気に戻りかけているようだが好都合だ。意志のない抜け殻のような男を支配するよりも、嫌がる平凡な男を組み伏せたほうがまだ虚しくないというものだろう。
俺は下履きを緩め、足元にへたり込む彼の目の前に、自分の性器を突きつけた。
「舐めて勃たせろ。入れてほしいなら自分で準備するのは当然だろう?」
「はい、にいさま……」
彼は従順に返事をすると、一切抵抗することなく口の中に性器を迎え入れた。
「ん……んン、む、ぅ………」
目を細め、嬉しそうに頭を前後させて、彼は性器に奉仕する。舌の動きも吸い付き方も、並の娼婦よりも手慣れており、これは使用人たちが娼婦の代わりに犯したがるのも道理だと納得する。
だがこの技術を仕込んだのが他ならぬ、憎むべき当主なのだと思うと、興奮よりも苛立ちが勝った。
「おい」
「ぷはっ……はい、にいさま……?」
前髪を掴んで顔を上向かせる。性器から口を離した彼は、不思議そうにこちらを見上げていた。その呑気な顔をきつく睨み付けながら、俺は理不尽な怒りを帯びた言葉を彼に叩きつける。
「お前にその口淫を教え込んだのは誰だ」
「はい、だんなさまです……」
「今のお前の主人は誰だ」
「えっ……ええと……?」
「俺だ。『旦那様』はもう主人じゃない。以後、『旦那様』に対してだとしても、性行を受け入れることを禁じる。分かったな」
「はい……にいさま……」
「行為の最中に思い出すことも禁じる。お前は俺だけのものだ。俺以外、お前に価値を見いだそうとする者はいない。俺だけが評価してやる。俺だけが、お前を――」
決定的な言葉を言い聞かせようとし、その直前で口ごもる。
今、俺は何を口走ろうとした? まさか愛してやるとでも言おうとしたのか? この情けない、何の取り柄も無い、地位も名誉も尊厳も奪われた哀れな生き物を?
俺は難しい顔で押し黙ったまま、無垢さすら感じる眼差しでこちらを見上げてくる彼を見る。――少なくとも、彼の姉である己の妻よりは、可愛げがあると思った。
だけど愛だなんて薄気味悪いものを、口先だけだとしても誓いたくはなくて、俺は静かに思考を巡らせた後、結論を出す。
「赦してやる」
「え……」
「お前の存在を、お前の過去を、経験を、今を、俺だけが赦してやる」
俺の口から出たのは、この上なく傲慢な宣言だった。まるで己に全ての裁定権があるのような、神の視点からの赦しの言葉。
冷たい眼差しで見下されながら、その言葉を与えられた彼は、泣き出しそうなほど顔をぐしゃぐしゃに歪めて幸せそうに笑った。
「ありがとうございます、にいさま」
今から暴力的に犯されるところだというのに、彼の表情はまるで神仏に救われた幽鬼のような清々しさを感じるものだった。
一瞬、俺の中に罪悪感の炎が灯りそうになった。あってはならないその感情に蓋をして、俺は彼を床に押し倒す。
悲劇によって穢された修道女めいた面持ちをしていた彼は、のしかかるような形で俺に見下ろされ、淫奔な夢魔のごときものへところりと表情を変えた。
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