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吊られた男(後編)08

「はぁっ……はぁっ………」  興奮した犬のように浅ましく息をしながら、彼はこちらを期待の目で見上げてくる。俺は込み上げる嫌悪感を飲み下し、彼の穴に挿入しようと足を掴んだが――そこにあった光景に眉を顰めざるを得なかった。 「おい。お前、今日は中に出されたのか」 「はいっ……三回出していただきましたっ……」 「他の奴の精液が入った穴になど入れたくはない。自分で綺麗にして準備をしろ」 「え……」  今まで一度もされてこなかった要求だからなのだろう。彼の顔は緊張まじりのものとなり、与えられるかもしれない折檻に体がカタカタと震え始める。 「聞こえなかったのか。自分の手で他の奴の精液を掻き出せと言ったんだ。綺麗になったと判断したら入れてやる。分かったな?」 「は、はいっ、ありがとうございます、にいさま……」  不興を買って、暴力を振るわれるわけではないと理解し、彼は自分で自分の穴に手を伸ばす。 「ふっ……ぅあ、ンぅ………」 「掃除をしているだけなのに感じているのか。度しがたい変態だな」 「ッ……、はいっ……申し訳、ありませんっ……ン、っ……」 「掻き出すだけでいいのに、主人の前で自慰をして痴態を見せつけているんじゃないのか。強欲で救いようのない淫乱が」 「も、申し訳ありませっ……申し訳、あ、ぁっ……ああっ……!」  ぐちゃぐちゃと穴を掻き回す音は激しくなり、彼はこちらに懇願の目を向けながら快楽で乱れ続ける。その哀れみすら覚える姿に、俺は自分の下半身が何故か反応するのを感じた。  己にサディスティックな嗜好があることは自覚していた。だけど、今の己はどんな女を抱いた時よりも明らかに興奮していて、自分は同性に劣情を抱く人間だったのだと思いかける。  だが今までどんな男を見ても、ここまで己自身が反応することはなかった。これはきっと彼が男だから興奮しているのではない。彼という人間が醜態を晒しているからこそ興奮しているのだ。  愛や執着と名付けるのが妥当なその感情を無視できず、俺はまるでつかまり立ちをする我が子を見守るような慈しみすら抱きながら、彼の無様な姿を眺め続ける。  恋ではない。思慕でもない。同情と共感と蔑みと、恐らくは所有欲。それらが合わさって愛着となっているだけだ。 「に、にいさまっ……もう、もうっ……」 「ああ、一度イけ。兄に見守られながら、自分を慰めてイってしまえ。俺はそれを赦してやる」 「にいさま、ありがとうございます、にいさまっ……アァ、あっ、あぁ~~っ……!」  ぴゅっぴゅっと跳ねるようなかすかな勢いで、彼の性器から白濁が吐き出される。体がガクンと震え、絶頂で背がのけぞる。  それでも内側をいじる手を彼が止めることはなく、それが己の命令がまだ終わっていないと判断しての行動だということに、少し遅れて思い至った。 「ぁ……ぅ、あぁ……ンっ……」 「もういい、十分に掃除はできたようだからな」 「ッ、ぁ……、は、い……ありがとう、ございます………」  俺の許可を得て、彼はようやく自慰の手を止める。いまだ行為の余韻で細かく震える腰を捕まえ、俺は彼の内側へと無遠慮に己自身を突き入れた。 「あ、アァ、あ、ぁーーー……!」 「好き者め。今までこの穴でどれだけの男を銜え込んできたんだ」 「も、申し訳ありませんっ……申し訳ありませんっ……」  涙ながらに謝罪する彼の内側を激しく食い荒らす。他の男と彼自身の指によってすっかり柔らかくなった穴は、俺が与えるどんな責め苦も快楽として受け入れ、うっすらと汗をかいた肢体が艶めかしく揺れた。受けとめきれなかった快楽はそれを逃がすように喘ぎ声の形になって、口から吐き出され続ける。 「あっ……あぁ、ン、あっ……ごめんなさいっ……お許しくださいっ……ン、ッ……」 「ああ、赦してやる。俺だけを見ろ。お前を俺だけのものにしてやる。お前を認めてやる。だから、お前も、」  赦してくれ。裏切らないでくれ。  そう口走りかけた唇を固く閉ざし、今し方自分が口にしようとした世迷い言を掻き消すかのように、激しく腰を打ち付ける。 「あっ、ああっ……ン、あっ、あぁっ……!」 「変態がっ……好き者の、淫乱の、悪魔がっ……!」 「ああっ、イクッ……イキますっ……んぁっ~~~……!!」  己に組み伏せられ、ろくに身動きも出来ないまま、彼は大きく絶頂する。俺はその内側に子種をぶちまけ、求めるようにうねる内側の感触を己のモノで感じ続ける。  絶頂の波が落ち着き、彼の体からガクンと力が抜ける。俺は自分の性器を抜き去ると、そんな彼に軽く衣服を着せて、その体を抱え上げた。  鍵をかけていた戸を開けると、その向こうには蒸し暑い夏の夜が広がっていた。  明日からどうやって彼と接すればいいのか。どう接されることを彼が望むのか。少なくとも、行為で気をやった彼を自室まで送り届ける程度の情は己の中に芽生えている。  俺は、腕の中の彼を抱え直し、己の内側で渦巻く感情の意味に結論を出せないまま、屋敷へと歩き出した。

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