43 / 45
吊られた男(後編)11
「あ、あぁっ……にいさま、にいさまぁ……!」
死体を毛布で包み、運び出す準備をしている俺の横で、裕也は張り型を己の中に入れながら喘いでいた。
俺が彼に命じたのは一つだけ。俺の名を呼びながら、できるだけ大きな声で喘いで自慰を続ける。そうすれば部屋の外の人間は、俺と彼がずっと情事に耽っていたと誤認する。
怪しい人影が死体らしきものを持ってどこかに急いでいても、俺にはアリバイがあるということになる。
俺の指示を聞いた裕也は、その意図を尋ねることもなくふわりと笑って了承した。
「わかりました、にいさまぁ……」
彼の視界には、彼にとっては姉に当たる人物の死体が映っているはずだ。なのに、彼は一切、それについて言及することはしなかった。
従順すぎるその様子に不安を覚え、『荷物』を準備する手を止めて、俺は彼へと尋ねる。
「……何も聞かないのか?」
「ん、あアッ……! にい、さまぁ……?」
「血の繋がった姉がここで死んでいるのに、お前は疑問すら抱かないのか。そこまでお前は壊れているのか」
彼は自慰の手を止めると、四つん這いで俺へと近付いてきて、この上なく幸せそうに笑った。
「にいさまの命令を聞けるのは、とても嬉しいんです……この屋敷でにいさまだけが、俺を受け入れてくれるから……」
快楽に揺れながらも健気なことを口にする彼を前にして、俺の中に体験したことのない衝動が猛烈な勢いで込み上げる。
暴力的な色を含まない性衝動。今すぐこの可愛らしい生き物に愛を注ぎ込みたいという欲望。それらをなんとか飲み下し、俺は彼の顎をそっと持ち上げて唇と唇を重ねた。
「んっ……んんっ……」
優しく焦らすようにゆっくりと舌を動かすと、彼は戸惑いながらも舌を出してその動きに応えてきた。優しいキスなど経験が無いのだろう。未知の刺激に彼の体は細かく震え、もっと乱暴にしてくれと請うように舌を入れてくる。
俺は彼の肩を抱き寄せてそれを宥め、長く優しい口づけを交わし続けた。
「んっ、んんっ……んっ……ぷはっ、はぁっ……」
数分にも及ぶ愛の交錯を終え、解放された裕也の目はすっかり蕩けたものになっていた。
「にいさま、俺、もう……」
「……ダメだ。俺にはやるべきことがある。良い子だから、さっき言った通りに自慰をして待っていろ。戻ってきたら、続きをしてやるから」
軽く抱き寄せ、耳元で囁く。裕也の体がぞくぞくっと期待で震え、自慰のために露出していた性器から、僅かに液体が漏れた。
「はい、にいさま……おれ、がんばります……」
夢見心地にあるような表情で、張り型を大切そうに持って彼は言う。その笑みの純粋さと、今からしようとしている淫猥な行為のギャップで、腹の底に熱がたまりそうになったが、理性でそれを乗り切った。
「あ、あぁっ、ン……アッ……! にいさまぁ……もっとぉ……!」
声を上げて喘ぎ続ける裕也を置いて、俺は即席の覆面で顔を隠し、死体を包んだ毛布を抱えて外へと急いだ。
幸運にも道中では誰に出会うこともなかった。使用人も遠くから響いてくる裕也の喘ぎ声を聞きたくないのか、しっかりと戸を閉めて寝入っている。
裏口を通り、この屋敷に戻ってきてから一度も行っていなかった場所へと向かう。
屋敷の裏手の奥にあるあばら屋。かつて自分が魔女と一緒に住んでいたその場所は、あの時からほとんど変わらずそこにあった。
ともだちにシェアしよう!

