50 / 63
吊られた男(後編)18 強要
「……良い返事ですね。でも、どうせなら夜の彼とは違う顔が見てみたいものです」
「え……?」
顔の輪郭をなぞりながら言う義兄に、俺は困惑して表情を曇らせる。彼はそんな俺を宥めるように頭を撫でると、一つの異様な物体を俺の前に放ってきた。
それは、男性器の形を模した巨大な張り型だった。自分の情けないほど小さな性器の三倍はありそうなそれを、目の前に出された意図が分からず、俺は途方に暮れて義兄を見る。
「あの、義兄さんこれは……?」
「見て分かりませんか? あなたには今からそれで自慰をしてもらいます」
「じ、自慰って、でも俺、男でっ……」
「男でも使える穴はあるでしょう? それともそれに思い至らないほど純情なのですか?」
「それは……」
「もしそうであるのなら、文字通り手取り足取り教えて差し上げてもいいですが」
「っ……!」
義兄の清廉な指先が、張り型を持つ己の手に重ねられて、幼子の文字習いをするかのように動かされる図を想像する。
ダメだ。そんな穢らわしいことを彼にさせちゃいけない。これは罰なんだから、自分の手でやらなければ。
彼に手伝って貰うと想像しただけで己の性器が熱を持ってしまった事実からは目をそらし、俺は恐る恐る張り型を拾い上げる。
「これを……入れればいいんですか?」
「ええ。簡単でしょう?」
「でも俺、こんなもの入れるなんて初めてで……」
「大丈夫。どれだけ醜態をさらしても、俺は赦してあげますから」
慈しみの笑顔でそう言われると、頭の芯が妙に熱くなってぼーっとしてしまう。
「さあ、まずは下を脱いで」
「はい……」
普通に生きていたらされるはずもない狂った要求に、俺は自然と従っていた。だけど羞恥を感じる心は辛うじて残っていて、下半身を露わにした状態で俺はもじもじと前を隠そうとしてしまう。
「床に座って、自慰をしてください。俺にちゃんと見えるように、股も開いて」
「は、はいっ……」
未知への恐怖と緊張で、体はカタカタと震えていた。でもそれ以上に、彼の麗しい声に従って恥ずかしいことをするのが嬉しいと感じてしまう。
膝を軽く立てた状態で股を開くと、既に硬く芯を持ち始めていた己の性器が丸見えになった。恥ずかしくて目を背けてしまう俺を、義兄は上からじっくりと眺め回す。
「義兄の前で陰部を露出させただけで、そんなに勃起しているんですか。相当の好き者なんですね、裕也さんは」
「ち、ちがっ……いえ、ごめんなさいっ……」
思わず否定しようとし、それが覆しようのない事実だとすぐに悟って謝罪する。彼に許しをこうたびに背筋を這い上る多幸感が、ただでさえ硬くなった性器の先端から僅かに液体を溢れさせた。
「そうですね。違いませんよね。あなたはこんな無様な姿を晒して、勝手に悦んでいるんですから」
「はい……俺は、悦んでいますっ……」
「そこまで淫乱な素質があるのなら、すぐにでもその張り型を入れられるのではないですか?」
「えっ……」
ちらりと右手に持つ張り型を見る。こんなもの入るわけがないと理性は言っているのに、言われたとおりにこれを入れて、義兄に褒めて貰いたいとも強く望んでしまっている。
「……わかり、ました。今から入れるので、その……義兄さんは……」
醜く、強欲な望みを抱いて、清らかな彼を見上げる。彼は相変わらず完璧な笑みを浮かべていた。
「ええ、見ていますよ。あなたが乱れるところをあますことなく見届けて、最後には全て赦してあげます。これは、あなたへの罰なのですから」
鼓動が速くなる。息が浅くなって、興奮で涎が垂れそうになる。俺は、張り型の持ち手をぐっと握り込むと、その先端を自分の穴へとゆっくり押し込んだ。
ともだちにシェアしよう!

