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吊られた男(後編)20(終) 赦し

「ごほうび……?」  不安と少しの期待で胸を高鳴らせる俺の体を、義兄は軽々と抱え上げ、納屋の外へと連れ出す。外気が露出した肌を撫で、その刺激だけで甘くイキそうになるのを体に力を入れて我慢した。 「運ばれているだけでイキそうになったんですか?」 「ご、ごめんなさい……」 「謝らなくてもいいんですよ。それがあなたの本性なんですから。何の取り柄も無いあなたが唯一誇れるのは、こうして俺に痴態を見せて目を楽しませることだけなんです」  優しく、まるで子守歌のように義兄は言う。その甘やかな声に脳をぐらぐらと揺らしてしまいながら、俺はほんの僅かな既視感を抱いていた。 「あの……義兄さん……」 「何でしょう」 「俺、前にも同じようなことがあった気がして……義兄さんみたいに優しくはない、もっと怖い目で睨まれてたような気がして……」 「気のせいですよ、それは悪い夢です。あなたは今日初めて、自分が淫乱であることに気付いたんですよ? 俺以外の誰にも、こんな姿を見せているわけないでしょう?」  こちらを見ずにきっぱりと言い切る義兄の瞳には、ほんの少しだけ恐ろしい色が混じっているように見えた。僅かに揺れたその苛烈な光に、体が自然と興奮し、何か言わなくてはと脳が言葉を探す。  だが俺が言うべき言葉を見つけるよりも先に、義兄は柔らかな笑みでこちらを見下ろしてきた。 「それに――俺以外にこんな姿を見せるのは、あなたは嫌だと思うでしょう?」  完璧なその微笑みは、俺にはなぜか不安が混じっているように見えた。彼にこれ以上そんな寂しい顔をさせたくはなくて、俺は慌てて彼に答える。 「はい、義兄さん以外に見せたくありません……。もし他の奴に見られるぐらいなら、その場で死んだ方がずっとマシです」  自分で言ったその言葉の甘美さにうっとりと目を細めてしまう。義兄はそんな俺を軽く目を見開いて見た後、俺を抱き直して慈しみを込めて額をすり寄せてきた。 「良い子ですね。その言葉、忘れないでください」 「はい……」 「そうすれば、俺があなたの全部を赦してあげますから」  繰り返し告げられる赦しの言葉に、生まれてからずっと欠落していた心の中の虚しい部分が埋められていくのを感じる。  愛し合う恋人のように身を寄せ合いながら、義兄は木々の奥へと俺を運んでいき、廃屋の裏手の畑――彼の妻が埋められるのを待っているあの穴の近くで俺を下ろした。 「抜きますよ」 「あっ……あぁぁーーっ……、ン、かはっ……!」  腹の中を満たしていたものが勢いよく抜き去られ、快楽と苦痛と吐き気が同時に襲い来る。  冷や汗をかいて肩を上下させる俺が落ち着くのをゆっくりと待った後、義兄は俺を、穴の中を覗き込むような姿勢で地面に押しつけた。 「ご褒美です。その女に、あなたが誰のものなのかはっきり見せつけて、宣言してあげなさい」 「は、はい、義兄さっ……あぁっ、ア、あぁッ~~~……!」  今まで張り型が入っていた穴に、熱くて太い何かが一気に突き入れられる。それが義兄の性器であることは何故かハッキリと分かって、俺は地面にしがみつきながら甘い声で鳴き続けた。 「ア、あぁ……ン、あっ……! あぁっ、ァ、あぁーっ……!」 「声を我慢せずに喘げて偉いですね。ほら、もっとちゃんと穴の中を見てみなさい」 「アッ、ン、あっ……! みてる、彼女が、みてるぅ……!」 「そうですね。では、あなたが何者で、誰のものなのかハッキリ彼女に伝えてあげてください。勝手に心中なんてさせようとしてきて迷惑だったと」 「ひ、ぁン、はいっ……言いますぅっ……!」  玩具によってこじ開けられた奥底の入口をぶち抜かれ、もう閉まらなくなるんじゃないかと思うほど激しく揺さぶられる。俺は息も絶え絶えになりながら、穴の底の彼女へ言葉を落とした。 「俺はっ、義兄さんのものですっ……! あなたのものじゃ、ないっ……! 義兄さんだけが、俺を赦してくれて、あぁっ……! だ、だから、あなたと一緒にっ、死ねませんっ……、俺には義兄さんだけだからっ……ア、あ、ぁぁ~~~っ……!!」  ごちゅんごちゅんと内側を食い荒らしていた熱が奥底に欲を吐き出し、その感覚だけで腰が砕けて幸せが体中に満ちる。己の性器からも白濁が吐き出され、知らないはずの激しい絶頂に全身がガクガクと震えた。 「おっ……ぁ、あ……へ、ぁ………」  意味をなさない声を発しながら絶頂の余韻に浸る俺の内側から、義兄は性器を抜き去る。掴まれていた腰も離され、俺の体はドサリと土の上へと落ちた。  嗅いだことの無いはずの濃い土と草の匂い。だけどそれに塗れている今、記憶に無いこの感覚がやけに懐かしいような気がしていた。  子どもの頃に、こんな風に土に倒れたことがあっただろうか。圧倒的な存在に組み伏せられ、自分が何であったのか再確認させられる幸せ。前にも、同じようなことがあった。俺はその人を仰向けで見上げていた。幸せが壊れて、新しい幸せが訪れて、歪んで、壊れていって。土と草の匂い。体に食い込む小石。蔑む視線。罵倒。暴力。  にいさま。――違う。  だんなさま。――違う。  浮かんでは消えていく心当たりの無い呼び名をぼんやりと見送り、俺は己の最奥にぽつんとあった最初の高揚を思い出す。 「おにい、ちゃん……」  自然と口が動き、名も知らぬ少年を幻視しながら、俺は体を傾けて義兄を見上げる。 「おにいちゃん……たのしいね……?」  義兄の顔からは全ての表情が消えていた。絶望とも恐怖とも怒りともつかない顔で硬直する彼に、俺は深く考えず腕を伸ばす。 「義兄さん……?」  荒い息づかい。青ざめた顔色。彼の拳が振りかぶられるのを幸せな笑みで見上げる。  義兄は、自分自身を殺したいと思っているかのような苦しそうな顔をしてしばらく震えた後、振り上げていた己の右腕をゆっくりと下ろした。 「……たのむ、ゆるしてくれ、もう、俺にはっ…………」  神に赦しを請うように、義兄は俺に縋り付く。俺はそんな彼の体を、求められるまま優しく抱きしめた。 「うん、義兄さん」

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