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到着予定時刻まで、あと(後編)02 暗躍と焦燥
武内を救い出すために最初にやったのは、彼の恋人の情報を集めることだった。
見るからに真面目なところがある彼は耐性がなかったのだろうが、中高とやんちゃなコミュニティで過ごしてきた僕にとって、彼の恋人のような人間は度々目にしてきた類の存在だ。
自分の周囲の全てを把握し、コントロールできないと気が済まない。そういう奴に周囲が出来ることは、徹底的な排除か、受容か、さもなくばコントロール下にある集団に負荷をかけて自爆を狙うことぐらいだ。
もちろん今回自分が取った選択肢は、三つ目だ。彼女が周囲を掌握して武内を逃げられない状況にしているのなら、そこを突き崩してしまえば良い。
まず僕は、恋人の交友関係をSNS経由で探り、誰を支配下に置き、誰を置いていないのかを把握した。軽く探った結果、武内の言う通り、相当の人数が彼女の側についているようだったが、密かに反発を抱いている者もちらほら存在していた。
これが遠く離れた土地の人間関係なら、そのままネット上で暗躍するしかなかったが、幸いにも彼女の交友関係は僕たちが住んでいるこの町に集中しているようだった。
だからこそ武内という人間の周囲全てを取り込むことができたのだろうが、そのコミュニティの狭さは今の僕にとっても好都合だ。
地元にある数少ないクラブでバーテンをしているという立場を利用し、彼女の取り巻きのうち数人に直接コンタクトを取った。そして、武内を救い出すという目的は伏せて交友を深め、偶然を装って彼女に対する本音を尋ねる。
「正直、どうにかなんないかなって皆思ってるよ」
「分かるー。でも下手に逆らうと怖いしなー」
「そうなんですね……」
親身になって相談に乗る良きバーテンダーの顔のまま、僕は遅効性の毒となりうる一言を彼らに吹き込んだ。
「一人に対してそんなに気を遣わなくてもいいと思いますよ。だって、彼女がいなくても、あなたたちは生きていけるんでしょう?」
僕の言葉に対して彼らは笑って返したり、感銘を受けたり、苦々しい顔で答えたりしてきた。だが、それでいいのだ。肝心なのは彼らを彼女から引き離して解放することではなく、彼女が結果的に自滅することなのだから。
その一方で、僕は武内との接点を持つこともさりげなく続けていた。難しいのは、あからさまに親しくすることができないということだ。
あまり表立って親しくしてしまうと、十中八九、彼女の怒りを買って敵意を向けられてしまう。彼女の視界に入らないように気をつけながら、彼女の求心力を間接的に落とし続ける。そうしなければ、この作戦は破綻する。
そういう理由で、少しずつ友人関係を築くという選択肢を採れなかった僕は、苦肉の策として、武内とゴミ出しの時間をわざと被らせて、週に数度の会話を確保していた。
「あなたには感謝してるんです」
「え?」
僕が暗躍を始めてから二ヶ月。顔を合わせるたび、笑顔を見せてくれるようになった武内に、突然そんなことを言われて僕は困惑する。
まさか、自分の行っている裏工作がバレたのか。密かに冷や汗をかきながら次の言葉を待っていると、彼は照れくさそうにはにかんできた。
「実は、どれだけ俺が悪いって彼女に言われても、お隣さんに味方になってもらえたってことを思い出して、それを心の支えにしてるんです。最近は、いつかやり返してやるぞって思えてきたぐらいで」
「そう、なんですね……」
僕は、曖昧な相づちをすることしかできなかった。
正直、あまり良い傾向ではない。彼女の交友関係にひびを入れて刺激している今、下手に反抗的な態度を武内が取ると、怒りの矛先が彼へと向いてしまう。
そうなる前に彼女を破滅させなければ。いや、いっそのこと怒りの矛先を僕に向けさせて、事故に見せかけて排除できないか。
「やだ、やだぁっ……! いたい、ああっ……! ごめんなさいっ、ひっ、うぅ……!」
隣家から聞こえてくる声は、ほとんど悲鳴ばかりになっていた。警察が来たこともあったが、治安の悪い地域なので痴話喧嘩で済まされてしまった。
警察は頼りにならない。今までのように人脈を使って自滅を狙っていてはきっと間に合わない。一刻も早く、どうにかしないと。
ブルーシートとノコギリを、それぞれ別の店で買った。悪い知人を頼って、人を埋めてもバレにくい場所を教えてもらった。
次に悲鳴が聞こえたら、行動を起こそう。彼を助けられるのは自分だけだ。絶対に、彼を助けるんだ。
しかし、悲鳴を聞いて隣家のドアを開いた僕が見たものは――鈍器を握りしめ、肩で息をする武内と、ぐちゃぐちゃになるまで殴られて息絶えている女の死体だった。
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