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前向きダーリン×勘違いハニー(後編)02 俺だって
「はぁっ、はぁっ……」
女を鈍器で殴り殺した直後、俺はどうして彼女を殺すに至ったのかすぐには思い出せなかった。分かるのは、彼女が俺の顔を見た途端、余裕を失って罵詈雑言の嵐を浴びせてきたことだけだ。
多分、その中のどれかにカチンと来て、思わず殺してしまったのだと思う。怒りは胸の中で確かに渦巻いているのに、何故殺したのかという理由がハッキリしないせいで、死んだ女を見下ろしていても実感がまるで湧いてこない。
人が死んでいる。殺したんだ。俺が、自分の手で。
「……隠さなきゃ」
混乱する思考の中、その答えにだけは辿り着き、俺は女の死体を引きずって自分の車へと積み込んだ。
『ここは私たちの愛の巣なの!』
『どうせ相手は誰でもいいビッチなんでしょ!』
『私たちの幸せを壊さないでよぉ!!』
運転席に乗り込み、彼女に言われたことをじっくり思い返す。彼女が言っていたのは正論だった。ネットで浮気をしていた彼氏からその媒体を取り上げたら、粘着した浮気相手が家までやってきた。しかもそいつは美形で、結婚目前の自分たちの仲を引き裂いてしまうかもしれない。
そんな相手に向ける言葉としては正当だ。だけど――
「……そんな言い方、しなくてもいいじゃんっ……」
こちらは加害者である自覚は無かったのだ。いや、粘着してリア凸までした時点で言い逃れは出来ないかもしれない。でも、それでも、あんなこちらが悪魔みたいな言い方をされて、頭に血が上らないわけがないのだ。
「俺だって……幸せになりたいのにっ……!」
怒りと悲しみで視界を滲ませながら、俺はハンドルに額を突く。とにかく、この死体を隠さなきゃいけない。どんな言い分があっても、人殺しをしたとバレたら人生おしまいだ。
でも、最後にどうせなら『ダーリン』に会ってみたい。会ってどうするかは分からないけど、どんな顔をしているかだけでも見ておきたい。
顔を合わせて、愛を告げるのか、恋人を殺したと嘲笑うのか、何も言わずに立ち去るのか。
とるべき選択肢を選び取れないまま、ぐるぐると俺は考え続け――時間が夕方に近づいた頃、『ダーリン』と彼女の愛の巣に、一人の男が近付いてきた。
男はドアに鍵を差し込み、なかなか解錠できずにガチャガチャと手間取っている。俺はそっと車から降りると、足音を殺して彼の背後へと近付いた。
「ダーリン」
「へ?」
「俺が誰か、分かるよね?」
温度のない声色で問い詰めると、彼は振り返ってきょとんと目を丸くし――それから俺の顔を見て、ぽっと赤面した。
こちらが誰なのかも分からず、ただ見た目だけに見蕩れるその有様に、一気に頭に血が上る。
ダーリンも他の奴と一緒だった。こんなつまらない奴のために俺は人を殺したんだ。バカみたい。
衝動のままに男を殴りつけ、ぐったりとした彼を車に積み込んで出発する。
せめて仕返しをしよう。恋人が埋められるのを見せつけてから、その上で殺してしまおう。俺にだってそれぐらいの仕返しをする権利はあるはずだ。
――数時間が経ち、その男が目的の人物ではなかったと知った時、意識を支配していた怒りと狂気は一気に冷却され、俺はただ呆然と立ち尽くした。
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