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前向きダーリン×勘違いハニー(後編)03 楽しそうな人
人違いだった。どうしよう。
頭が真っ白になって、改めて目の前の男を見る。確かにダーリンと同じ年齢ぐらいには見えるが、情けない雰囲気が似ても似つかない。
もっともダーリンの素顔を知っているわけではないので、身長体重と性格から推測したイメージ像との比較なのだが。
冷静に見れば、後ろ姿だけでも多分彼ではないと分かったはずだ。正気を失っていたにしてもありえないレベルの勘違いを悟り、自然と目から涙がこぼれる。
すると男は、バカっぽい顔に明るい表情を浮かべて、妙な提案をしてきた。
「分かりました! じゃあ俺がアンタの死体埋めに協力するっすよ!」
「……はあ?」
「俺、これでも地元じゃワルだったんすよ? きっとお兄さんの役に立てると思うっす!」
拘束された状態で、命乞いという雰囲気でもなく彼はそんな話を持ちかけてくる。理由を問いただすと「男のロマン」とか抜かしてきた。
バカすぎる。でも今の自分にはこのバカしか頼れる相手がいなくて、俺はしぶしぶ彼の協力を受け入れた。
もうどうにでもなれ。ろくな未来が待ってないのは、女を殺した時点で決まってたじゃないか。
俺が拘束を外すと、男は笑顔で立ち上がり、うーんと伸びをした。
「ありがとうございますっ! 俺、何でもしますよ! 穴掘って疲れたでしょうし、ジュースとかひとっ走りして買ってきましょうか!?」
「最寄りのコンビニか自販機までどれだけかかると思ってんの、バカ。そんなに体力が有り余ってるなら、俺の代わりに穴を埋めてくれない?」
「分かりましたっ!」
爽やかに返事をすると、男はシャベルを拾い上げ、せっせと穴を埋め戻し始めた。そこには大変なことに巻き込まれているという焦りや悲壮感は無く、ただ単純に指示を受けて体動かしているだけという健全にすら見える空気を感じる。
にこにこと上機嫌にシャベルを振るう彼を、俺は少し離れたところから眺める。
「ねぇ、お前」
「何っすかー?」
「罪悪感とかないの? そりゃお前にとっては知らない女かもしれないけど、人の死体を埋めてるんだよ?」
「え? 人は元々死んだら土に埋まるものじゃないっすか」
「……勝手に埋めたら犯罪なんだよ。まさか知らなかったの?」
「へー、そうなんすね! お兄さんって物知りっすね!」
大陽のような明るい笑顔のまま犯罪行為に手を染める彼に、ドン引きする心と薄らと惹かれる感情が己の中で同居する。
「……いや、ありえないでしょ」
口の中だけでぼそりと呟いて、自分の内心を否定する。
いかに自分の男の趣味が悪いと言っても、こんなバカに運命を感じるとか正気じゃなさすぎる。
「お兄さん、難しい顔っすね!」
「おかげさまでね」
「何か悩みでもあるんすか? 俺、聞きますよ?」
「目下、一番の悩みはお前なんだけど」
「えー? 俺、そんなに頼りないっすかねぇ。これでもやるときゃやる男っすよ?」
「はいはい……」
うんざりとした顔でため息をつき、強引に話を終わらせる。
本当にどうすればいいんだ、このバカ。流れで共犯者にはしたけど、こいつは絶対これからの人生でうっかり罪を自白しない確率の方が圧倒的に低い。バカで、素直で、隠し事には向いていないタイプなのは間違いないから。
「……こんな場面じゃないなら、お前みたいなタイプと付き合うのもありだったかもね」
「えっ、いきなり愛の告白っすか!? 俺、お兄さんのタイプだったとか嬉しいなー」
「珍獣を観察すると思えば、数ヶ月はバカと付き合っても耐えられると思っただけだよ。うぬぼれないで」
「む、俺はただのバカじゃないっす! バカであることを自覚したバカっすよ!」
「フフッ、つまり普通にバカってことじゃん。タチ悪いね」
喉の奥を鳴らして小さく笑うと、何故か男はぱあっと嬉しそうな顔になった。
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