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骨の名残(前編)02 成り代わり
義兄の葬儀はつつがなく進み、棺の蓋は閉じられ、火葬場へと向かった。
火葬の入口へと棺が滑り込む寸前、俺は義兄と最後のお別れをした。
小五の時に初めて会って、知らないことをたくさん教えてくれた義兄。彼との思い出は楽しいものばかりで、安らかに目を閉じる彼がもうこの世にいないなんてやっぱり信じられない。
棺が焼き場へと入れられ、俺は手を合わせてそれを見送る。俺の隣には冬元が立っていたが、どんな顔をしていたのかは分からない。ただ、一言も発さないまま棺を見送る彼の沈黙は、やけに重いもののように思えた。
数十分後、義兄は真っ白な骨になって戻ってきた。苛烈な炎のせいか、焼き終わった後に崩されたせいかは分からないが、骨はバラバラに散っていて、人型だったことも分からなくなっていた。
骨を箸で拾い、順々に骨壺の中へと入れていく。帰りのバスの中、膝の上に乗せた骨壺はまだほんのりと温かかった。
バスが葬儀場に近付くごとにその熱は冷めていき、俺はようやく義兄の喪失を実感した。
葬儀はその日で終わり、遺骨は実家の仏壇に置かれることになった。よく知らないが、もうしばらくしないとお墓に納骨しないらしい。それまで遺骨と同居することになるのは、正直気まずい気分になるだろうと思っていた。
その不安は予想外の形で杞憂となった。遺骨を納めた骨壺が、何者かによって盗まれたのだ。
骨壺が消えたという事件は、隣近所にもあっという間に広まり、犯人捜しが始まった。
遺骨を盗まれるほど、生前の行いが悪かったのか。誰かに恨みを買った結果、盗まれたんじゃないのか。
義兄に関する根も葉もない噂が猛烈な勢いで広がり、それを知った両親は躍起になって犯人捜しを続けた。死んだ義兄の尊厳がこんな形で穢されるのが許せなかったのだ。
俺自身、数日間は両親同様に憤慨して、犯人を捜し回った。
だが俺の犯人捜しは、すぐに必要なくなってしまった。骨壺を盗んだ犯人を知ってしまったからだ。
「冬元……何してんだよ、お前……」
手がかりはないかと親友の家を訪ねると、そこには自室で骨壺を抱える冬元の姿があった。
骨壺の蓋は開けられており、その中身の欠片を彼はつまみ上げている。
「何って、見て分からない?」
淀んだ目を細めながら、冬元は骨の欠片を口の中へと放り込む。そのまままるで硬い焼き菓子を食べるように口の中のものを咀嚼する彼に、俺は混乱で立ち尽くすことしかできない。
「な、なんで骨食べてるんだよ……分かんねぇよ……!」
鳴き出しそうな声で主張するも、冬元はごくりとそれを飲み込み、得意げに微笑んできた。
「――大地くん」
「っ……!?」
俺の名を呼んだ冬元の声は、冬元のものではないように聞こえた。
低くて落ち着いた、体の中に染みこむような男の声。これは、今はもういないはずの義兄の声だ。
「義兄、さん……」
「……あはは。よかった、うまくいきそうだね」
病んだ視線でこちらを見ながら、冬元は歌うように言う。
「これ、全部食べたらさ、俺、お兄さんになれると思うんだ」
非現実的なことをまるで世界の真実のように言う彼を、俺は正面から否定することができなかった。ついさっき彼の発した声が義兄のものに聞こえてしまった事実が、体を常識的な思考から遠ざけていた。
「待ってて。俺、頑張って柳木くんのお兄さんになるから」
「冬元……」
「お兄さんのことを忘れたくないなら、誰にもこのことは言わないでね?」
小さな子どもに言い聞かせるように冬元は言う。俺は訳も分からぬまま、それに頷いていた。その声色も、声の抑揚も、義兄そっくりに聞こえてしまっていた。
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