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骨の名残(前編)03 絵空事のはずだった
骨壺を取り返せないまま帰宅した俺は、悶々と考え始めた。
どうして冬元はあんなことをしているんだ。義兄さんになろうとするなんて、あいつはそんなに義兄さんのことが好きだったのか?
義兄と冬元が一緒にいた時の記憶を思い返す。今思えば冬元はいつだって、義兄に羨ましそうな視線を向けていた。
きっと、憧れの人だったんだ。だから骨を食べてその人になるだなんて、黒魔術めいたことをしようと思ったんだ。
そう考えると、なおさら俺は自分がどう動けばいいか分からなくなった。
数日が過ぎ、俺は再び冬元の家を訪ねることになった。冬元が理由を告げず、学校を数日休んだのだ。
先生が訪問しても効果はなく、先生と彼の両親から『仲の良い柳木なら何とかしてくれるんじゃないか』と要請されたのが彼の家にやってきた理由だった。
担任と一緒に冬元の家を訪れると、彼の家は数日前までが嘘のように暗い空気で満たされていた。冬元の母親が言うには、俺が数日前に彼のもとを訪れてから、彼は部屋から出てこなくなってしまったらしい。
風呂とトイレは両親の目を盗んでこっそり行っているようだが、食事だと呼んでも降りてくることはなく、部屋の前に食事を置いてもほとんど減っていないらしい。
「大地くんも、お兄さんのことがあって大変だとは思うけど、うちの子も気にかけて欲しくて……」
そう言う彼の母親の目には、俺への疑念が宿っているように思えた。タイミング的に疑われて当然だ。実際は、彼自身の意思で部屋に閉じこもっているのだろうけれど。
「分かった。やってみるよ」
俺は担任と共に冬元の部屋の前までやってきた。だが冬元は、俺たちの呼びかけに端的に答えるだけだった。
「『大地くん』だけなら、入ってもいいよ」
ドア越しに聞こえた彼の声は、やはり別人のもののように思えて、俺は足が竦んでしまいそうになるのを必死で堪える。
冬元は俺のことを『大地くん』だなんて呼ばない。その呼び方は、義兄しか使っていなかったはずなのに。
大人たちは少し話し合い、俺一人を部屋の中に入れることにした。俺の意思は無視された決定だったが、拒むことはできなかった。本当に怖いけれど、親友を心配しているというのも俺の本心だったからだ。
「……冬元、入るぞ」
ドアノブをしっかりと握り、震える声で呼びかける。中からは拒絶の言葉も、歓迎の言葉も聞こえてこなかった。
俺はドアノブをゆっくりとひねり、部屋の中に入ってドアを閉める。
冬元の部屋はとても薄暗かった。天井の電気は消灯されていて、部屋の光源となっているのは分厚いカーテンの隙間から差し込む陽光だけだ。
まるで洞窟の中のようなぼんやりとした明かりしかない空間で、目的の彼はベッドの上でシーツにくるまっていた。その隙間から俺が入ってきたことを確認したのか、シーツをすっぽりと羽織っている彼は、そこから顔を出さないまま声を発した。
「いらっしゃい、『大地くん』。来てくれたんだね。今日は何をして遊ぼうか」
それは、余裕のある大人の声だった。少なくとも本来の彼の声ではない。
骨を食べて義兄になる。彼の語った絵空事がリアルな形で目の前に迫っていることを理解し、俺は泣きそうな声で語りかける。
「な、なあ、もうやめようよ、こんなこと! 悩みがあるなら聞くからさぁ! 俺、そんなに頼りないか?」
「頼りにするんじゃダメなんだよ。俺が、頼りになる側にならないと」
「そんな必要ないよ! 俺は、お前が今のままだって……」
「それでも、このままじゃ俺はお兄さんには勝てないから」
ガリッ、と何かを噛み砕く音がシーツの塊の中から聞こえる。その繭の中にいるのが本当に冬元なのか、それとも義兄になりつつある彼なのか、俺には分からなくなってしまった。
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