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骨の名残(前編)04 こんなものが

 俺は、自分の言葉が彼に届かないことを察し、せめてものあらがいとして大人たちに頼まれたことを口にした。 「わかったよ。もうお前の邪魔はしない。だから部屋から出てきてくれないか? ……俺が、お前に何かしたんじゃないかって大人たちが疑ってるんだよ」  最後の一言は、身勝手な泣き言だった。心がおかしくなってしまっているのは冬元のほうなのに、恨み言が出てしまった。自分の最低さに嫌気がさしていると、不意に冬元は立ち上がった。 「……そう、それはよくないね」  骨壷をベッドの陰に隠すと、冬元はシーツをかぶったまま、堂々と部屋から出ていった。廊下で少し会話をした後、下階で話し合うことにしたらしい彼らの足音を聞きながら、俺はその場にへたりこむ。 「……なんなんだよぉ」  どうしてこんなことになったんだ。俺が何をしたっていうんだ。義兄が死んで、いっぱいいっぱいになっているのは俺の方なのに、どうしておかしくなった親友への責任まで負わされそうになっているんだ。  理不尽な現状を再確認し、俺はベッドの陰を睨みつける。  義兄の遺骨。あんなものがあるから冬元はおかしくなったんだ。あれさえなければ冬元は元に戻るはずだ。徐々に義兄になるなんてことはなく、いつも通りのアイツが戻ってくるはずなんだ。  俺はすっと立ち上がると、遺骨の入った骨壷を持参したカバンの中に無理矢理詰め込んだ。雑な扱いになってしまったが、そんなことを気にしている暇はない。  カバンのチャックを閉めると、足音を殺して一階へと降り、誰にも何も告げずに俺は家の外へと駆け出した。  外には秋の冷たい空気が満ちていて、息を切らして走るごとに鼻の奥にじんわりとした痛みが広がる。喉はあっという間に乾燥して、ひりひりと熱を持ち始め、何度も咳き込みながらも足だけは止めず、行くあてもないまま駆け抜ける。  自宅に戻るわけにはいかない。骨壷を持って帰ったら、犯人は誰だったのかと問い正される。もし冬元が犯人だとバレて、彼が非難されることになったら、俺たちはもう元の関係ではいられない。  もしかしたら、こうして彼に内緒で骨壷を持ち出している時点で手遅れなのかもしれないけれど。 「バカっ……何なんだよ、ほんとバカッ……!」  ぜえぜえと息をしながら。ほとんど音になっていない掠れ声で呟き続ける。目的地は頭になかったが、足を動かすほどに体は前へと進み、体力はそれに比例して減っていく。  やがて俺の足の進みは徐々に遅くなっていき、ふらついた拍子に体のバランスが崩れて前へと倒れ込んでしまった。 「うぅっ……何だよ、もうっ……!」  行き場のない感情が内側で荒れ狂うのを感じながら、俺は顔を上げる。目の前に広がっていたのは見覚えのない町並みだった。  別に変な世界に迷い込んだとかではない。普段の行動範囲の外側にあるどこにでもある住宅街。今の俺にはそれが、ひどく不気味なものに見えた。 「帰らないと……でも、これからどうすれば……」  住宅街の向こう側に見える山や高層マンションを頼りにすれば、よく知る道に出ることはできそうだ。だけどそれは、自分が今持っている物についての真実を暴くことに繋がる行為で、親友を売り渡したくないというシンプルな思いのせいで、どこに行くこともできずにただ呆然と空を見る。

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