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骨の名残(前編)05 義兄の帰還

「はぁ……なんでだよぉ……」  この場にはいない人物に向けて、責めるような言葉が出てしまう。  どうして急に死んでしまったのか。どうして急におかしくなってしまったのか。  大切な人が一気に二人も変質してしまって、心が追いつかずにうずくまったままでいたくなる。  それでも時間は無情に過ぎて、傾いていく陽光の熱が頭頂部を焼くのを感じながら俺は立ち上がる。ふと道の先を見ると、工事中の土地が目に入った。 「……埋めちゃおうかな」  ただ隠してもきっと神経を磨り減らすだけだ。それぐらいならいっそのこと、土の中に埋めて、どこに埋めたのかも分からなくなってしまった方がいいんじゃないか。  足が自然と動いて、工事現場へと足を踏み入れる。好都合にもちょうど今日の工事は終わったところのようで、人の気配はどこにもなかった。  俺は導かれるように工事現場の奥へと進み、建物の基礎のために深く掘られた穴へと骨壺を放り込んだ。遙か下方に落ちた骨壺は軽い音を立てて弾けるように割れ、その中身は穴の底へと散乱した。もし何かが落ちているということに気付かれても、まさか人の骨だとは分からないだろう。きっと、そのはずだ。  どんどん暗くなっていく世界から逃げるように、俺はその場を後にした。残った外袋は、帰り道にあったゴミ箱の中に入れてきた。これで全て終わったのだと晴れやかな気分だった。  外袋を手がかりにして、いずれはこのことがバレるかもしれない。人骨らしきものが見つかったと騒ぎになるかもしれない。だけどもうそれでいい。騒ぎになれば、見つかった遺骨は厳重に保管されることになる。そうなれば少なくとも、冬元が義兄の遺骨を食べることはなくなるんだから。  俺は、一つの冒険を成し遂げた気分で帰途につき、帰宅と同時に母親に捕まって問い詰められた。  一体どこに行っていたのか。急にいなくなるから先生たちが心配してたじゃないか。  怒り狂う母親を曖昧な笑顔で誤魔化し、自室へと引っ込もうとする。  疲れたんだ。放っておいてくれ。もうこれで解決したんだからいいじゃないか。  俺の表情に何かを悟ったのか、母親はそれ以上追及せずに俺を解放してくれた。  相談したくなったら、いつでも言いなさい。  頼もしさを感じる口調でそう言って去っていく母親に内心感謝しながら、説明できるわけもない事情を腹に抱えたまま、俺は歩き出そうとする。  その時、聞こえるはずのない一言が、俺の背を呼び止めた。 「――お邪魔します」  低く、落ち着いた声色。どこかよそよそしく緊張した抑揚。何度も聞いたことがある。だけど今、その声が聞こえるはずはない。この声の持ち主は、義兄さんはもう、死んだんだから。  ゆっくりと振り返る。そこにいたのは義兄ではなく、冬元だった。冬元のはずだった。背丈も顔立ちも何もかもが違う。冬元は義兄ではないはずだ。なのに今の冬元が浮かべている表情も、些細な仕草も義兄とそっくりで、俺は底なしの絶望へとたたき落とされる。  遅かったんだ。冬元は義兄の骨を食べて、義兄になってしまったんだ。  ありえない妄想だと理性は騒いでいるのに、目の前の親友の姿が常識を否定する。 「ただいま、『大地くん』」  手を取り、優しい笑みとともに囁かれ、何もかもがぐちゃぐちゃになったかのように感じてしまう。  俺は、両手を握りながら微笑む彼に、泣きそうな顔で返事をした。 「……おかえり、義兄さん」

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