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骨の名残(後編)01 幼い憧れと嫉妬

 憧れではなく、嫉妬だった。  僕が柳木という親友に出会ったのは、小学生の頃。小二のクラス替えで同じクラスになったのが始まりだった。 「えっと……冬元です、よろしく」 「おう、よろしくな!」  緊張しながら挨拶をすると、柳木は気さくに返事をしてきた。  元来、気が弱く、似たような奴らとぼそぼそと自己紹介をしては当たり障りのない関係を築いてきた僕にとって、その反応はとても新鮮なものだった。  体力もなければ知力も平均的な僕に、分け隔てなく接してくれた強者の彼。その笑顔を前にした瞬間、僕の内側に芽生えたのは、今まで感じたことののない欲望だった。  この強い生き物を超えてみたい。彼に同等と認められたい――いや、格上だと思われたい。  綺麗な言葉で言えば、憧れだった。醜い言葉で言えば支配欲だった。その頃の彼は僕よりも小柄だったので、きっと彼にならば勝ち目もあると思ってしまったのだ。  僕は勇気を出して、彼との仲を深めていった。心の奥底では彼のことを超えたいと常に思っていたが、彼と築いた友情も本物だった。少なくとも僕はそう感じている。  何をするにも彼が一番に誘うのは僕だったし、僕も彼と遊ぶのを本心から楽しんでいた。僕たちは誰が見てもそうだと思えるほどの親友だった。  そんな僕たちの関係に割って入ってきたのが、彼の義兄だった。 「はじめまして、よろしくね」  親の再婚で柳木にできた義兄。そいつは出会った時点で既に成人していて、大人の余裕を身に纏っていた。  勝てない。強い。顔はイケメンで、背も高くて、運動も出来そうな見た目をしている。高校を卒業して働きに出ているらしいが、一人暮らしをしながら立派に実家に仕送りもしているらしい。  僕が勝てる要素はほとんどなかった。唯一のアドバンテージは、日常で柳木と過ごす時間は、僕の方が多いことぐらいだった。  だけど柳木と一緒に彼の家で遊んでいても、義兄が来ると彼はそちらを優先するようになった。 「お邪魔します」  いつだって義兄は、ほのかに緊張を帯びた声色で玄関で挨拶をしてから、家の中へと入ってきた。 「義兄さんだ!」  その声を聞くと柳木はパッと表情を明るくして、義兄を出迎えに立ち上がってしまう。それまで一緒にゲームをしていた僕のことを置き去りにして。 「ただいま、大地くん」 「おかえり! なあ、今日はいつまでいられるんだ? 俺たちと一緒にゲームやろうぜ!」 「ふふ、いいね。じゃあちょっとだけ混ぜてもらおうかな」  親しげに談笑をする声が近付いてくるのを、僕は鬼の形相で睨み付けていた。  こんな顔、彼に見せられない。だけど義兄に嫉妬するのは止められない。義兄はゲームも上手いし、話も面白かった。何をしても平均よりちょっと下ぐらいにしか届かない僕には勝ち目がない。 「冬元くんも来てたんだね。いらっしゃい」 「……お邪魔してます」  そんな風に挨拶をされても、彼の身内であることを暗に示されているようで不快だった。それでも腹の底で煮えたぎる本心を明かすわけにはいかず、僕はただ作り笑顔で義兄に返事をすることしかできなかった。  悔しい。負けたくない。このままじゃ柳木が取られてしまう。僕よりも後に出会ったくせに、僕よりも彼と親しげにしやがって。許せない。  ただの嫉妬であることは分かっていた。義兄が柳木を僕から取ろうとしているわけではないと頭の片隅では理解していた。これは、僕が勝手に対抗心を燃やして、勝手に敵視しているだけなのだと。  その認識が誤りであると気づき始めたのは、僕たちが中学生になって初めての夏の頃だった。

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