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骨の名残(後編)04 本心
ほんの少しの軽蔑を込めて投げかけられたその言葉に、己の中の見ないふりをしていた部分がズキンと痛む。
何のことだ。嘘なんてついていない。そうやって声を荒げて反論したいのにうまく言葉が出てこなくて、目を見開きながらわなわなと唇を震わせる。
「違う……」
「違わないだろう? 君は、俺を止めたいだなんて本気で思っていない」
「そ、そんなこと……!」
「じゃあどうして、大地くんに真実を伝えなかったんだい?」
一番触れられたくない部分に乱暴に踏み込まれ、僕は動揺を隠せずに浅く息をする。
「それは、柳木くんを傷つけないために……」
「嘘は良くないよ。本当は君は、騙されている間抜けな大地くんを見て、楽しんでいたんだろう?」
「う……」
「大方、俺に騙されて人に見られたままオナニーをする彼の姿を想像して、自慰に耽っていたんじゃないか? 君は、自分にとってのリーダーのような男をオカズにしたくて、今までこのことを放置していたんだろう? こちらはね、一年以上前から君が気付いてたことは知ってたんだよ」
「ううう……」
何も反論できなかった。彼に指摘されたことは、真実の一側面だった。
恥ずかしい姿を晒す彼を妄想するだけで、ものすごく興奮した。いつかその姿を目の当たりにしたいと願っていた。
柳木を助けたいと思っていたのは本当だけど、彼を脳内で慰み者にしていたのも否定しようがない事実だった。
「はぁ、仕方ないな。君も、俺たちの関係に混ぜてやるよ」
「えっ……」
「俺が独占してる大地くんの姿を君にも分けてあげるって言ってるんだよ。それが目的だったんだろう? 俺のことを断罪してヒーローになるのはただのおまけで、本当は俺たちの遊びに混ぜてもらいたいだけだったんだろう?」
「う……ああぁ……」
頭を抱えてうめき声を上げる。自分の本心が分からなかった。彼を助けたい自分と、彼を慰み者にする自分。どちらが本来の僕なのか、決めることができなかった。
俯いて混乱する僕の頭上で、義兄は呆れたように息を吐いた。
臆病者と言われた気がした。何も選べず、彼も助けられないまま、惨めに生きていけばいいと言われた気がした。柳木という人間を所有しているのは義兄なのだと、はっきりと宣告された気がした。
「決められないのなら俺はもう帰るよ。心配しなくても、お前の下心も野心も、アイツには話さないでおいてやるから――
背を向けて歩き出した義兄の後ろ姿を見る。
悔しかった。何か一矢報いないとこれから先、生きていけないとすら思った。
「うぅ……ああぁあっ!」
僕は衝動のままに彼へと突進し、全身を使ってタックルをした。ただ転ばせるだけのつもりだった。擦り傷の一つでも作ってくれればそれで良かった。
だけど現実はそうはならなかった。僕の全身全霊の一撃は彼の足をもつれさせ、踏ん張ろうとした片足が偶然アスファルトのひび割れに引っかかり、彼の体は横倒しになって河川敷の斜面を転がり落ちていった。
悲鳴も上げずに一番下まで落ちた義兄は、ぴくりとも動かなかった。気絶しているのかもしれない。怪我をしているのかも。だけどそれを確かめる勇気は己にはなくて、僕は足をもつれさせながらその場から逃げ去った。
やってしまった。醜い嫉妬のまま、憎むべき相手を害してしまった。すぐにこのことは露見して、僕はきっと報いを受けることになる。
「ふふ、はははっ……」
自身の破滅が目前に迫っているのに、口からは何故か笑いが漏れた。
やってやった。自分より遙かに強くて優れた存在に、一矢報いてやった。こちらを侮るからこんな目に遭うんだ。
自己弁護を胸に帰宅し、自室のベッドで縮こまる。恐怖と高揚で胸はやけに高鳴っていた。
義兄が死んだと聞かされたのは、翌日の夕方のことだった。
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