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骨の名残(後編)05 知らせ
金曜日、学校から帰った直後に、その知らせは僕の耳に届いた。
「柳木くんのお義兄さんね、亡くなったそうよ」
「えっ……」
「河川敷で足を滑らせたんですって。お葬式は日曜だから、あなたもできたら行ってあげたほうがいいんじゃない?」
息子の親友が兄を亡くして、きっとショックを受けている。母親が葬式出席を促したのは、そのフォローのためだったのだろう。
だけど僕はその提案をすぐには受け入れられなかった。母親から聞かされた義兄の死の状況は、明らかに僕が原因となったものだったからだ。
僕は、人を殺したんだ。
そう自覚したと同時に、打算的な思考が脳内を駆け巡る。
ここで葬式に出席しないというのは妙に思われる。もし彼の死に不審なところがあると疑われているのなら、僕が欠席することで違和感を覚えられて、疑いの目を向けられることになるかもしれない。
「わ、分かったよ。日曜だね」
「……無理はしないでね? 辛いのなら行かなくても……」
「ううん、行くよ。ありがとう」
笑顔を貼り付けたまま僕は自室へと戻り、ドアの鍵を閉めた途端に足の力が抜けて、その場にへたり込んだ。
殺してしまった。そこまでするつもりはなかったのに。こんなことがバレたら、僕は。
頭を抱え、絶望と焦りで体を丸める。バレたらどうなるんだ。警察に捕まって、刑務所に入れられて、周りの全員に軽蔑されて。
不意に、柳木の姿が脳裏をよぎる。彼に憎しみと軽蔑の目を向けられているのを想像しただけで、目から涙がこぼれ落ちた。
バレるわけにはいかない。柳木に失望されたくない。せっかく、僕たちの間を引き裂く悪は去ったというのに。
そうだ。僕は悪を排除したんだ。その方法が間違っていたとしても、柳木と僕の間を邪魔するものはもういないんだ。前向きに考えるんだ。
秘密を守りきることさえできれば、僕たちの関係はより良いものになるはずなんだから。
丸一日をかけて僕は自分を納得させ、覚悟を決めた。今更後悔しても、義兄は戻ってこない。だったら義兄の残した傷跡を僕が癒やして――いや、いっそのこと義兄の立ち位置を奪ってしまえばいい。
強い野心を抱いて、日曜日、僕は葬式会場に向かった。
柳木は入口で受付を担当していた。顔色は悪かったが、愛想笑いで来客達に対応しているようだ。
その表情の裏側には押し隠している絶望があるのだとありありと分かってしまい、僕はほのかな苛立ちを抱く。
あんな男のために悲しむなんて。あいつはもういないのに。あいつのことなんて考えてほしくないのに。
だけどそんな本音を口に出せるわけもなく、僕は彼に歩み寄って親友として適切な言葉をかけた。
「柳木くん、ええと……お疲れ様」
「……はは、それを言うなら『ご愁傷様です』だろ?」
「うん、そうなんだけど……僕は、柳木くんの方が心配で」
「俺が?」
僕の指摘に、柳木は自分の顔を揉んでいた。
故人を悼むような言葉は口にしたくなかった。そんな価値はあの男にはない。建前だとしても言いたくはなかった。
「……そんなに酷い顔してる、俺?」
「うん。今にも死んじゃいそうな顔してるよ」
「そっか……」
「うん……」
本心からの心配を伝えると、柳木は受付の机の後ろで静かに泣き始めた。彼が流しているのが義兄のための涙だと思うと、その痛ましい姿を見ても、心の奥底で苛立ちがじわじわと膨らむだけだった。
僕は彼の肩をそっと抱き寄せ、何も言わずにただ寄り添った。口を開いたら、余計な一言を言ってしまいそうだった。苛立ち由来の嫌味や、義兄への悪口を口にして、彼に軽蔑されたくなかった。
「ごめんな、冬元。お前も義兄さんには懐いてたから辛いはずなのに」
ぐっと、吐き出しかけた言葉を飲み込む。
懐いてなんていない。君はそんな風に僕たちを見ていたのか。
侮辱的ですらあるその一言を受け流し、僕は彼に優しく語りかける。
「いいんだよ。……辛いなら、お兄さんのこと忘れちゃいなよ。忘れて、幸せに生きていく方がきっとお兄さんも喜ぶよ」
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