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骨の名残(後編)06 骨を盗む
義兄が喜ぶだなんて、ただの言い訳だった。ただ単純に、柳木にこれ以上義兄のことを考えて欲しくなかった。
あいつはもういないんだ。あいつがいた場所が空洞になって辛い思いをするのなら、僕がその場所を埋めてあげるから。
強い独占欲に気付かれないよう慎重に、僕は柳木に言い含める。だけど柳木から返ってきたのは想定外の言葉だった。
「……ううん、忘れることはないと思う」
「えっ」
「忘れちゃったら、俺の中で本当に義兄さんが死んじゃう気がするから。だから俺は、義兄さんのこと忘れようとはしないよ」
無理をして笑う彼を前にして僕が抱いたのは、強い嫉妬だった。
死んでもなお、柳木の心を支配し続けるあの邪悪な男。柳木にとって害しかもたらさない悪魔だというのに、柳木はあの男を忘れるつもりはないという。
「……そっか、そうなんだね」
どうしようもない敗北感を抱えて、なんとか微笑む。
うまく笑えただろうか。彼の親友として相応しい態度が取れただろうか。
僕は負けたのだ。もうこの世にいない相手に勝ち逃げされた。この先一生、柳木は義兄のことを忘れずに生きていくし、僕はそれに負け続けるのだ。
悔しくて涙が出そうだった。棺の中で眠る義兄の顔を見たら我慢が出来なくなりそうで、棺に近付くこともできなかった。
そのまま火葬場に行き、骨となった義兄を、僕は少し離れた位置で見ていた。ただの物体になったはずのそれが、ひどく羨ましかった。
葬式はつつがなく終わり、僕は家へと帰った。何もする気にならなかった。ただひたすらに無気力だった。
中の下でしかない成績をなんとか底上げして、柳木と同じ高校に入った。学校の勉強に加えて、塾にも通って、落ちこぼれないよう必死で努力してきた。
それは全部、柳木をいつか超えるためだった。柳木を手に入れて、支配して、弄びたいがための努力だった。
「……ははっ」
全部、義兄の言った通りだ。柳木に真実を伝えなかったのも、義兄を排除してヒーローになろうとしていたのも、結局は柳木が欲しかったからだ。
義兄の立ち位置が羨ましい。悪事を暴けば、正当な理由をもってアイツのいる場所を奪い取れる。心のどこかでそうやって無邪気に信じていた。
アイツがいなくなったところで、僕にその場所が明け渡されるわけもないのに。
「……いっそ、あの男になれたらいいのに」
あれほど嫌悪していた義兄と、同じ行為をしてみたかった。僕がアイツになれれば、この望みは叶うのに。
八方塞がりになった思考は、常識から外れた方向へと流れ始める。
僕が義兄になれば。義兄と同じ存在になって、柳木に義兄として扱われるようになれば。非現実的で、だけど全てが丸く収まる妄想に取り憑かれ、僕はこっそり家を抜け出した。
道中の記憶はほとんどない。フラフラと深夜の街を彷徨った僕が警察に補導されなかったのはほとんど奇跡だ。
ふと気付くと、僕の腕の中には分厚い布の袋に包まれた骨壺があった。何をどうして手に入れたのかは分からない。きっと、柳木の家にこっそり侵入はしたのだろう。
人気のない公園のベンチで蓋を開け、中身を覗き込む。中に収められているのは、細かく砕かれた人骨の欠片だ。
不気味なほどに白いそれを指でつまみ上げ、街灯の明かりに照らしてみる。
あの腹立たしい男の肉体は、今はたったこれだけしか残っていない。こんなものに負けている。もしこれをどこかに捨てたら、少しは気が晴れるだろうか。
いや、それよりも――
僕は唇を小さく開けると、摘まんでいた骨の欠片を口に含んだ。ざらざらとした骨の感触と、仄かなすすの香り。美味しいものでは決してない。だけど奇妙な征服感があった。
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