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勇者が死んだ(前編)02 服従の首輪
従順な返答に安堵し、同時にそんな自分を強く嫌悪する。
彼を解放したいという自分は本物だが、彼に自由意志が芽生えることを恐れる自分もまた本物なのだ。
苦々しく唇を引き絞る俺の手に、ヒーラーがそっと手を重ねてきた。
「アレクさま」
軽く手を取り、こちらの名を呼んでくる彼は、迷う俺を勇気づけているように見えた。実際は、なかなか行動をしない俺を義務的に促しているだけなのだろう。
だけど、手から伝わる確かな彼の温もりは、立ち尽くしていた己に確かに勇気を与えてくれた。
「カモフラージュ用の布を調達してくる。お前は勇者の私物をまとめておいてくれ」
「はい、アレクさま」
単調な声色で返事をし、ヒーラーは指示された通りに動き始める。俺はそれをしっかりと見届けた後、偽装を始めるために身を翻した。
*
勇者の旅路で死人が出るのは、ままあることだ。いかに精鋭で固めたとしても、相手はヒト族をあらゆる意味で凌駕する魔族だ。パーティメンバーが増えては減り、また補充されるというのは珍しいことではない。
現に俺という剣士が、勇者パーティに入ったのも、旅路の途中の人員補充のタイミングだった。
「アレクだ。よろしく頼む、勇者殿」
「んー? ああ、王都からの補充要員ね。ま、長続きするといいなー」
初対面の時、勇者は昼間だというのに酒を飲んでいた。素行があまり良くないという噂は聞いていたが、皆が望む勇者像からあまりにかけ離れたその様子に、嫌悪の表情が顔に出てしまう。
勇者はそんな俺を見て、ゲラゲラと笑った。
「ハハハ! 正直な奴だな。皆のヒーローである勇者様の現実に幻滅したか?」
「……そちらの方もパーティのメンバーか?」
勇者の挑発は敢えて無視し、俺は彼の後ろに控える大きな帽子を被った青年に話題を向ける。
「はじめまして、アレクだ。お前の名は――」
「あー、こいつはいいんだよ。名前とかないから」
「は?」
どうでもよさそうに言う勇者に、俺は信じられないものを見る目を向ける。仮にもパーティの仲間をそんな風に扱う者が、集団のリーダーを務められるわけがないと思ったからだ。
「そんな言い方はないだろう。彼に失礼だ」
「だから失礼とかないんだって。こいつ、ヒトじゃねぇんだから」
「ヒトじゃない……?」
ほとんど睨み付けるように怪訝な目を勇者に向ける。勇者は面倒臭そうに、背後の彼に声をかけた。
「おい、帽子を取れ」
「はい、勇者さま」
光の無い瞳の青年は素直に答え、頭に被っていた大きな帽子を外す。その下にあったのはヒト族ではありえない長い耳と異形の角だった。
「こいつはガキの頃に捕獲されて、訓練を受けた魔族でな。ヒーラーとしての素質があったから、こうしてうちのパーティにいさせてやってるってわけだ」
「魔族……。だが、俺たちの敵は――」
彼にとっては同族殺しにあたるのではないか。魔族は基本的に野蛮で非道な連中ではあるが、最低限の仲間意識はある。そんな存在をいかに実力があるからといって、勇者パーティに加えてもいいのか。
「裏切らないか不安ってか?」
「……ああ」
「大丈夫だよ、この通りこいつには服従の首輪がつけられてる。主人である俺に逆らうことはないし、どんな無茶も素直に聞くんだぜ? やれと言われりゃ素直に股も開くただの人形なのさ」
「なっ……!」
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